仲直り作戦
「何ナーバスになってんだよ、ミシェルー」
「そうそ、あの木下さん以外考えられないじゃん」
「未だにクッキー作って貰えないの引っかかってんの?」
ミシェルは帰国してからも何度か木下さんにクッキーを作って欲しいと頼んでいるらしい。
木下さんは、ミシェルのママと比べられるのは辛いわ、私自身も私のクッキーも…と言ってミシェルの願いをやんわり、ちくりと断る。
木下さんはミシェルが自分よりも母親を選んだのを、気にかけているようだ。
夏休みくらいしか帰れないし、1年に1度くらいママに会いたい思うミシェルの気持ちも分かるし、付き合い始めの恋人と、色んなところへ遊びに行って夏休みを楽しみたかった木下さんの気持ちも分かる。
「マザコンはダメだ、ミシェル」
「母親よりも恋人である自分を優先して欲しいと思うのは当然の心理だぜ」
メンバーの言葉に俯くミシェル。
懲りないメンバーだ。
家族を取るか、恋人を取るかは、恋人いない歴生存歴の私たちには答えなど到底出せない究極の選択なのに。
「私もパパとママ好きだから遠く離れた所にいたら、夏休みくらいは会いたいって思うかも」
メンバーが木下さんの味方をするので、ミシェルを援護。
それに私が同じ立場だったら、家族を取る。
夏休みだけで我慢できるかどうかも微妙。
ホームシックにかかるのは絶対。
「そうだな。ミシェルは遠く離れた地にママンをおいてジュポンにやって来たんだぞ。その時点で大してマザコンじゃないと思うんだが」
私のフォローを有岡先輩がフォロー。
ミシェルはママンに会いに行くのに10時間以上かかるんだもんな、夏休みくらい帰って元気な姿見たいし、見せたいよな、とメンバーはコロッと前言撤回。
このメンバーの流されやすさをどうにかして欲しい。
「まぁ、恋人なら自分を優先して欲しいと思うのも女の子が持つ当たり前の欲求だ。木下さんが拗ねる気持ちも分からなくもない。クッキーだってそのうち作ってくれるさ、もう少し待ってみたらどうだ?」
有岡先輩の言葉に浮かない顔で頷くミシェル。
心が痛むので、クッキーは切り離して木下さん自身を見てくれないかな?
複雑な心境になる。
「でさー話を戻すけど」
「え?どっから?」
「5分前」
「内容わかんねーよ!」
やかましいメンバーのせいで、複雑な気持ちが長続きしない。どうしてすぐに悪ふざけに発展するんだろう。
「野田に彼氏出来た?って聞いたところ」
「あぁ、あそこね。って野田に彼氏が出来たのかっ!」
「出来てないって。忙しいのは…あーその学園祭に出店することになったから」
出来てないと言う私の言葉に小躍りするメンバー。
私がロンリー歴更新しているのがそんなに嬉しいのかと複雑。私はメンバーに恋人が出来たらちゃんと祝ってあげられるのに。
多分だけど。
「出店って何すんの?」
「え?何って、くっ…」
クッキー販売と言おうとしてためらう。
ミシェルの話のあとの微妙なタイミングだ。
「野田があくどい笑い声出してるっ」
「お前、何を企んでるんだよっ!」
「しないよっ。くっ…えーっとお菓子の販売すんの!」
クッキーと言うのを詰まっただけなのに、何であくどいことを企んでいると思われんの?
「俺ら、今年のミスコン楽しみにしてるんだから、くれぐれも学園祭が中止になるようなことすんなよ!」
「あれ?今年も木下さん、ミスコン出るの?」
2冠を狙っているのかな?
「今年は木下さんとミシェルで、ベストカップルコンテストに出るらしい。主催者側からオファーが来ていた」
「へー」
流石は美男美女、カップル。目玉企画から出場依頼が来るとは。
「ってか閃いた。学園祭のベストカップルで優勝すれば、その流れでミシェルと木下さん仲直りできるんじゃねーの?」
「おーナイスアイデアー!おい、ミシェル。対策は立ててんのか?」
ミシェルが対策?と聞き返している。
ベストコンテストに対策も何もあるの?ビジュアルでぶっちぎり優勝だと思うんだけど、違うの?
「それだけじゃなくて、相手のことどれだけ知ってるとかどれだけ相手と息が合うとか色々と審査があんだよ」
そうなんだ。知らなかった。
「諸君。ここは俺たちの手助けが必要だと思わないか?」
「思いますっ!」
きりっとポーズを取る有岡先輩。
嫌な予感がする。
「ではミシェルと木下さんをベストカップルで優勝させようの作戦会議を開く。リーダーは勿論、有岡。副リーダーはネアンデルタール人と出場すればミシェルたちの強力なライバルになりえる野田狭霧を任命す」
「私は忙しいんでっ!」
巻き込まれる前に退出。
退出する寸前に有岡先輩にローキック。
去年の教訓を活かし、空手サークルは出店をやめた。
メンバーは暇なんだろうが、付き合ってられない。
そのまま水原の家までダッシュした。