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非もて失言

「何?この通夜みたいな雰囲気」


「心配するな。誰も死んではいない」


「その可能性は考えてない」


 殺しても死なないメンバーの集まりだ。

 部室の中に入ると集まる視線。

 

 私の全身に目を走らせ、はぁとため息を吐くメンバー。

 情けない顔で沈み込まれても、状況が分からない。

 

 有岡先輩が私に状況説明を始めた。

 

 帰国したミシェルと、木下さんは今日も部室でデートをしていた。

 フランスへ帰国したことに不満を持っていたらしい木下さんは、そんな様子を微塵も見せずにミシェルにフランスの様子を尋ねていたそうだ。

  

 王子いぬ間に姫の奪還を狙っていたメンバーは、ミシェルへの差し入れである食料をやけ食い。


「何か残ってない?私もお腹減ったー」


「ない。完食した」


 即答したメンバーを睨む。

 するとミシェルが鞄から箱を取り出して、私に渡した。


「どうぞ、狭霧さんに」


「あ、ずりぃ。野田にだけっ!」


 エッフェル塔のパッケージのチョコ。

 前にミシェルが買ってきてくれた時に、気に入っていたものだ。メンバーに取られる前にへへんと笑って、背中に隠す。


「狭霧さん、前に食べた時すごく喜んでいたでしょう。だから買って来ました」


「ありがとう!」


 ほろっとした甘さが癖になるチョコだ。


「最近、サークルに来ないからいつ渡そうかと思っていました」


「あーうん。ごめんね。ちょっと忙しくて」


「野田。正直に答えて欲しい」


 メンバーがずずいとにじり寄ってきた。

 とっさにチョコを隠し、防御する体制を取る。


「お前さ、彼女、じゃなかった彼氏出来た?」


「はぁ?」


 てっきりチョコを狙っているのだと身構えていた私は、予想外の質問に間の抜けた声をあげてしまう。


「何で?何を根拠に」


「お前がトレードマーク捨てたから」


「トレードマークって何?」


「滅びたシャツに廃れたジーパン」


 トレードマークのつもりはなかったんだけど、どれだけインパクトがあったんだろう。

 身なりに気を使わなかった過去を反省。

 

 お洒落とは程遠いサークルメンバーに、滅んでいるとまで言われるシャツを着ていたのか。


「最近、お前ナウなヤングじゃん」


「古いよ!」


「そう、野田の服装の変化が諸君が落ち込んでいる原因なのだよ」


 私の服が変わったという話題が上がったらしい。

 その時に木下さんが


「私は前の自然な野田さんの方が良かったな。飾らない服が、野田さんの内面の良さを表していて」


 さり気に私の服装にダメだしをした。

 

 そうですね!と同意をするサークルメンバー。

 

 自信を持って言えるが、サークルメンバーは私がどんな服を着ていようが興味はない。

 

 じゃ、木下さんが野田にアドバイスしてあげなきゃ、木下さんはお洒落だからと煽てるメンバーに、木下さんはえ~?と言いながらそうかな?と乗り気。

 

 その時にミシェルが


「人の服装に口を挟むのは、余計なお世話です」

 

 きつい口調で咎め、気まずい雰囲気になった。

 有岡先輩まで


「そうだな。野田はちゃんと自分に合ったものを選んでコーディネートしているように感じる。アドバイスなど必要はない」


 ミシェルを支持。


 そんなつもりはなかったんだけど…気を悪くしたならごめんなさいと木下さんは謝ってそのまま帰っていった。

 その嫌な雰囲気を現在もなお引き摺っているらしい。

 

 私がいない時に、私の話題で拗れないで欲しい。


「ごめん。俺らもお前が最近付き合いわりーし、服も変えたからさ~。俺たちもてない同盟を裏切って相手作ったんのかーと僻みもあってさ」


「つい、悪乗りしちゃったんだよね~てへべろーん」


「で、前の方がナチュラルで良いですねって言ってみるって木下さんの言葉にミシェルが余計なお世話とちょっときつい口調で言っちゃったんだ」


「それから木下さんとミシェル、めっちゃぎこちない空気なんだよね」


「木下さん、サークルにも遊びに来なくなったしさ」


「俺らの悪乗りのせい。どうしよう」


 メンバー一同反省。


「全く、諸君らはそう言ったデリカシーのない発言がもてない原因を作るのだと自覚したまえ」


 有岡先輩の容赦のない言葉に更に沈んでいる。

 まぁ自覚がないからもてないんですし、とフォローのつもりで言った言葉はメンバーにとどめを刺したようだ。


「野田。野田は自らのアピールすべきポイントをどこだと思ってる?」


 いきなりの有岡先輩の問いかけに


「関節技」


 自信を持って即答。

 しかし有岡先輩ははぁっと首を振る。


「違う。野田のアピールポイントはその美脚だ。良いか諸君、目を閉じろ。そして好きなアイドルの顔を思い浮かべるんだ。その残像を野田にスライドしてみたまえ」


 いっせいに目を閉じたメンバー。

 によっとした後、かっと目を見開いて、ばっと私を見る。

 

 正直に言って気持ち悪い。


「………良いかも」


「だろう。その美脚を活かす服、つまりデニムのショートパンツやキュロットは野田に似合ってるんだ。野田は腰から下が長いからな。ジーパンの上にだぼついたシャツを着るよりも、今の服はスタイルがより良く見える。そもそもだ!木下さんは内面が飾らない服装に表れて良いなと言っていたが、諸君らは野田の内面を服装でも見たいのか?」


「……考えたけど見たくない」


「そう言われれば見たくない」


「どういう意味!?」


 貶されているのか褒められているのか、いまいち分からない話の流れだ。


「それにだ、諸君らが仮に木下さんと付き合えたとしよう。いや、木下さんじゃなくても可愛い女の子と付き合えたとする」


「うぉーレッツ、イマジンっ!」


「イマジーン!」


 目を閉じるメンバー。

 みんな一体誰を想像しているだろう。


「ドキドキの初デート。デートプランを練った諸君らは、次に服装を考えるわけだ。この方が俺を格好良く見せる?いやこっちの方が〇〇ちゃん好み?と1人ファッションショーを深夜まで1人で盛り上がり、悩み抜いて決めたその服を」


「その服を?」


「誰かに貶されたらどうする?前の全然気を使わなかった服の方が良かったと言われたらどうする?」


「むかつくっ!」


「ひでーよ。もてない俺らの頑張りをっ!デート前に凹むわ!」


 想像で憤るメンバー。

 

 そういうことだと締めくくる有岡先輩の意を読み取って、私に謝るメンバー。


「野田。ごめん。余計なお世話だわ、人の服にケチをつけるのは」


「それでデートのテンション落ちて振られたらどう責任取るんだよ!」


「うぉぉー。俺らの失言のせいで、廃れシャツで初デートに挑んだ野田が振られた~」


 初デート失敗するところまで想像を膨らませ、それを私に置き換え、平謝りするメンバー。

 いや、だから忙しいのは彼氏ができたせいじゃないんだけど…と言っても誰も聞いていない。


「諸君、落ち着け。すぐに反省できるのは諸君らの良いところだ」


「有岡からお褒めの言葉を頂いた!」


「おー!滅多にないお褒めの言葉―」


「その反省を次に活かせないのは諸君らの欠点だが」


「すぐに落とされたぞー」


「それでこそ有岡だ!」


 調子を取り戻したメンバーの中で、唯一浮かない顔のミシェル。

 全く私は悪くないと思うが、私の話題が拗れた原因となれば何だか気になる。


「大丈夫。別に私は気にしていないし、木下さんと仲直りしなよ」


 と言ってみる。

 何ならその時、シャツ着てきても良いし。

 

 木下さんも悪気とかなくて、心からシャツの方が似合ってるって思っていたのかもしれない。

 元気だしなーとミシェルの肩にぽんと手を置く。

 

 その手を取り、じっと見るミシェル。

 王子に手を取られる平民、水原に言わせれば貧民で、大変絵にならない。


「優衣は本当に僕が探していたクッキーの女の子なんでしょうか?」


「……………え?」


 ミシェルがぽつんと落とした発言に、部室はしーんと静まった。


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