クッキー製作
新学期が始まって、学園祭出店の準備でバタバタ忙しない。
でも自分が作ったものを売るのは初めてだし、楽しくなってきた。
ママにアドバイスを貰ったり、協力してくれるお店に打ち合わせにいったり、レシピを改良したり、安くて良い材料を捜し歩いたり、忙しくも充実した日を送っていた。
何より水原が真剣なので、こちらも真剣にならざるをえない。
「10万稼ぐのに、こんなに時間をかけて苦労するの初めてだ」
文句を言いながらカードを作る水原。
ぷんぷんしながら、几帳面にカードを切って、器用にリボンをつけている。
最初に言ったとおり、クッキー以外の手配は全て抜かりなく水原がやってくれている。
私はただひたすらクッキー作りに打ち込むだけ。
クッキーは型抜きクッキーにした。
水原の家には使いきれないクッキー型があったし、それこそ見た事もない面白いものも沢山あった。
クッキーは1袋5枚入り、250円で販売する。1日6万が売り上げ目標で、250袋売らなくてはならない。
1250枚クッキーを焼くのは死に物狂いになるけど、お店には大型のオーブンがあるのでそれに期待。
1回で50枚焼けるので、25回。
焼き損じもあるから多めに焼くけど。
クッキーは5種類の型を選んだ。
秋風祭にちなんで、秋らしい形をチョイス。
まずはりんご。
刻んだりんごの甘煮を入れるのがポイント。
リンゴとシナモンの味が際立つけど、りんごの水分で柔らかめになるので型抜きに時間が掛かるのが問題点。
りんごの型抜き自体も、ヘタの部分が細いので失敗しやすい。
前日調理なので、どれだけ美味しく型を抜きやすく出来るかが改良ポイント。
2つ目はどんぐり。
帽子の部分はココアクッキー。茶色っぽくするのにココアかコーヒーか悩んだけど、やっぱりベーシックなココアにした。
「どんぐりの粉を混ぜてみたらどうだ?どんぐりパウダーと言うのが売っているらしい」
「ふーん。本物のどんぐりで作ったクッキーなんてあるんだ」
「あぁ。縄文時代の遺跡から発掘されたから縄文クッキーとも言う」
「縄文!?石器時代じゃん。絶対やらない」
「何で怒るんだ」
水原がちょっと怪訝そうな顔をしていたが、どんぐりのクッキーはココアクッキーに決定。
3つ目はきのこ。
悩んだのはきのこの傘の部分をどうするか。
チョコチップを混ぜるか、レーズンを混ぜるか、それとも溶かしたチョコでコーティングするか。
「きのこと言えば毒きのこだろう」
水原は妙に毒々しいきのこをデザインした。
きのこの素人でも絶対食べないだろうなと毒性を感じる。
結局きのこの傘の部分は、ピンクに着色。それからホワイトチョコチップで水玉模様をつける。
傘部分とそれ以外の型抜きを分けなければならないのが手間。
「中々のこびと茸だな!」
毒っぽいその仕上がりに、水原もご満悦。
4つ目はリーフ。
落ち葉っぽくするために茶葉を混ぜ込む。
クッキーの生地に、ミキサーで細かくしたアールグレイを混ぜ込んで焼くだけなので1番簡単。
リーフ型も細かい部分がないので、さくさく進める。
風味が良い紅茶を安く仕入れるのがポイント。
5つ目はこびと。
これにはもう水原が煩かった。
型の数も膨大。
こびとの型抜きってこんなにあるんだーとびっくりしたら、水原はインターネットで世界中をリサーチしていた。
無駄な行動力を発揮。せっかくの語学力を無駄に使用。
私が選んだのは、ドイツ製のこびとの型。
「この型か。良いんじゃないか?グリム童話発祥の地だな」
使いやすさとかわいさで選んだだけでグリム童話は関係ないけど。
こびとのクッキーは手間と時間がかかる。
デザインを簡略化したり、手順を変えて無駄な時間を少なくしたり、改良はしている。
何度も練習して、手馴れるようにしたのもこびとクッキーだ。
こびとの形にくり抜いたクッキーをアイシング。
その上にチョコペンで服の模様を描く。
カラーアラザンで飾りつけ。
見栄えが良くて、描きやすい服の模様を試行錯誤した。
色んなものが形になってきて、どこから仕入れたのか食品用のラッピング袋と、完成済みのカードが水原の家で山積みになって、ワクワクしてきた。
学園祭まであと少し、というところで有岡先輩から呼び出しがあった。
最近は準備にかかりきりで、部室には全く顔を出してなかった。
合間を縫って部室に向かえば、しーんと静まり返っている。
いつもは外からでもその暴れる音や騒ぐ声が聞こえているので、誰もいないのかもしれない。
呼び出しておいてどういうことだ!と乱暴にドアを開くと、メンバーが揃っていた。しかし何故か葬式のように静まり返っている。
悲しげな顔をしたミシェルに、気まずそうな顔をしたメンバー。
唯一普段通りの有岡先輩が、私に気付きちょいちょいと手招きをした。
一体何事!?