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無謀な計画

「お祭りで…10万も稼げるもの?それって材料費とか機材レンタルとか…」


「純利益で10万だ。しかし現段階ではリサーチ不足だな。君は菓子を作っていろ。俺は少し調べ物をする」

 

 パソコンを立ち上げ、どこかに電話までかけ始める水原。

 

 全国スイーツウォッチングの会、会員の水原ですけどと名乗っている。

 どこにかけてんの?そして一体何の会員?

 

 画面をスクロールするスピードが速い。

 物凄い集中力で文字を追っている。

 

 何だか良く分からないが、当初の予定通りお菓子を作ることにする。

 

 嫌なことがあった時、落ち込んだ時、お菓子作りを楽しむのがママ直伝の気持ちの立て直し方。

 

 気を取り直してフルーツタルトを作り始める。

 生地の材料を混ぜて、捏ねる。

 それをタルト型に敷いて、その上にアーモンドクリームとカスタードクリームを流し込み、オーブンでじっくり焼く。

 

 それが冷めたらカスタードクリームと生クリームを混ぜたものでデコレーションし、粉砂糖をふるう。

 季節のフルーツを山盛りに盛り付けて、艶出しのナパージュを塗って完成。

 

 没頭していたら、いつの間にか数時間経っていた。


「水原。ケーキ出来た」


「あぁ、こっちも大体の計画は立った。学園祭の実行委員にも詳細は確認済みだ」


「あのさ、さっぱり分からないんだけど。どういうこと?」


「そのまんまだ。君が金を貰うのも借りるのも嫌だと言いつつ、はぐれこびとみたいな顔をするから。だから俺は、君が納得できる10万の稼ぎ方を考えたんじゃないか。学園祭でお菓子を売って10万を稼ぐ」


「……無茶」


 ケーキナイフでタルトを切りつつ、水原の案をダメ出し。


 去年空手サークルでアイスを売った。

 その結果、4万の赤字。


「10月の涼しくなる頃にアイスは、良い選択ではないな。しかも去年の学園祭は2日とも雨が降り、肌寒かった」


 売れ残り多数。

 保存はドライアイスなのでその費用も多めにかかった。


 女の子がアイスを食べている姿って可愛いよなとメンバーの下らない理由で決めたので、元から大して期待していなかったが、まさか4万も赤字になるとは思わなかった。


 それもこれも、ただアイス売るだけじゃつまらないよな~トッピングも買おうぜとか、スプーンを可愛くしようぜとか、衣装を作ろうぜとかメンバーのいらんアイデアによる無意味な出費が多かったせいだ。


 有岡先輩がアイスの着ぐるみをまとって得意げに登場した時は、本気で蹴りを入れた。


「沢山作れて、コストが安い菓子は何だ?」


「クッキーかな」


 タルトをフォークで突き刺しながら答える。

 

 タルトは良い出来だった。

 生地は肌理が細かくて、さくっとしている。コクがあってフルーツと相性が良い。


「クッキーだな。1日で作れる最大数は?単価はいくらだ?」


「………分かりません」


 1日で何枚クッキーを作れるか、限界にチャレンジした事は勿論ない。売ろうと思った事もないので、単価など考えたことがない。


「次に来る時まで、出しておいてくれ。クッキーを作るのにかかる大体の材料費、1日で作れる最大数。あとはどんなクッキーを作るか、レシピも持ってきてくれ。デザインもな」


「………………………」


 走り書きしてある紙を見ながら、水原が次々と話を進める。

 付いていけずにぽかんとする私を置き去りに、どんどん前へ行く。


「実行委員への申し込みは、既に始まっているらしい。その辺りは全て俺がやっておく。君は学園祭のクッキーと、俺のお菓子を作るのに励めば良い」


「そこはさ、クッキーだけに専念しろとか言って」


「最大の問題は保健所と食品衛生法だな。これをどうするか…」


「法律をどうするかって言われても…。クッキーとかケーキとか事前調理したものの販売は許可下りないんじゃなかったっけ?」


「それをどうにかするんだ。家庭での調理が許可されていない問題をどうクリアするかが最大の難関だ」


 水原はタルトを食べながらも、器用にパソコンと携帯を同時に動かしている。

 タルト、パソコン、携帯、タルト、パソコン、携帯とクルクル回り、良く間違えないなと感心する。

 

 水原の案は無謀すぎる。

 

 食中毒に関して特に煩くなっているし、許可が下りるとは思えない。

 

 タルトを作りながら、気持ちは切り替えた。

 あの幻のケーキは、夢のままとっておいて、これから貯めるバイト代で美味しそうなパリのスイーツでも食べてもらえば良いのだと。

 

 1日3食スイーツ推奨会、役員の水原ですが、とまたどこかに電話をかけている。

 役員?と水原のプライベートに謎が深まったが、追及するとややこしくなりそうなので聞かなかった事にした。


 夏休みが終わりに近づいて、気持ちを通常に切り替えなくちゃと思った頃、水原からメールが来た。

 今度は何の菓子だよ、と思いつつメールを開く。

 

 

 件名には許可取れた、と書いてあった。


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