さよならの行方
毎日毎日別れてやる、と言ってるあたし。
だって、ひどい。
あたし達はただでさえ遠距離恋愛で、会えるのは月一度なのに。
あたしの彼氏には、他にも女がいる。
彼女になったとき、すでに他に女がいた。
その子とはもう長いんだって。別に世の中長いものに巻かれろなんてないはずなんだけど、あたしは他に好きな男が出来たら一直線だから、長い短いなんて、全然気にもしない。
「さっさと別れたら? もっといい男いるよー?」
ねぇ、そういう友人たちよ、あたしの中での一番が今現在孝之だって知ってて言ってるのか?
いつもの電話。
「だって、好きだとも言わないじゃない?!」
「…俺の態度見てて分かんないの? 俺が好きでもない友達としてしか見てない子に航空券送る?」
「あたしなら、友達でも半分は出す」
「そうなのかなー? 俺はそんな金ないから、泊まるとこ位は提供するけど、それ以上は出来ないよ」
「何それ? あたしがオミズしてるから言ってるの?」
「そんな事いつ言ったよ? 仕事じゃなくて使い方の問題」
あたしはオミズしてる。昼間はやめたから、サラリーマンの孝之とは殆ど時間が合わなくて、殆ど電話も出来ない。毎日朝のモーニングコールと、仕事行く前の行ってきますだけ。あたしの職場は終わるの早いけど、孝之は疲れていてさっさと寝てしまうから、終わってから電話は出来ない。
あたしがオミズを始めたの、孝之とちょっとでも一緒にいたいからなんだよ? お金貯めて、そっちに行こうって思ってるからなんだよ? 知らない土地で、出張の多い、孝之だから、殆ど一人で生きてかなきゃいけないって分かってるのに、それでも一緒なら奈央さんとも別れてくれるかもしれないって思ってるから行くんだよ?
そんな事言えない。
あたしは孝之にホントの事が全然言えない。それは奈央さんがいるからだし、自分に自信がないから。
「いいよ、もう。奈央さんいるんだから、あたしと別れたって一人じゃないじゃん。別れよ」
「なんだよそれ?」
「だってさ、殆ど話せないし、奈央さんだってそっち行ったりしてるでしょ? 報告されるのもイヤだし、黙られるのもイヤだもん」
あたしは爆発して、泣きながら訴えた。
だって。
だって。
あたしは孝之しか愛せないんだよ?!
あたしの事きちんと理解してくれてるのも、孝之しかいないんだよ?
「…ね? だから別れよ?」
「そこで…はい、そうですかとは言えないし言いたくない」
「何で?」
「由紀が好きだから」
「じゃあ奈央さんと別れてよ。あたしが好きなら別れてよ!!」
「奈央も好きだから、そこですぐにじゃあ別れるとは言えない」
「何よそれ? ホントは二人とも愛してなんかいないんじゃない? ホントに好きだったらどうしてそんな事出来るのよ?」
「俺の中で由紀と奈央は…」
「はいはい、別々だって言いたいんでしょ? じゃあもういいわよ。さよなら」
孝之の言葉を遮ると、あたしは携帯を切った。
孝之からコールが鳴っているが、そんなの知らない。それにあたしはこれから仕事だし。
それから、四日経った。
一切連絡はない。
これで良かったんだ、と思うと涙が出てきた。
あたしの愛は重たいと言われて、今まで付き合っても長続きしなかった。
お金を取られたり、そんなんばっかりだ。
だから、孝之もきっと一緒。
そう思おうとすればする程、涙が出てくる。
…違う。
孝之に接すれば皆が違うと言い切るだろう。
疑った事はたくさんある。
だけど、知らない人を判断するみたいにどんなに冷静に見ても、彼は違う。
…でも、二股は事実で。
あたしはこの四日間、そんな事ばかり考えていたら、仕事なんて上の空だった。
気になるのは孝之の事だけ。
あたしの生き甲斐は孝之だ。
孝之の家の近所に住む為だけにオミズを始めた。
孝之がいなかったら生きていけない。
仕事へ出かけようとしていたら、孝之からのコールが鳴る。
もういいや、奈央さんも誰もかも。
あたしは孝之が好きだ。
そして、きっと孝之も。
「もしもし?」