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 廊下に差し込む西日が眩しい。


 ヒカルを教室に置き去りにして、タクミは夕焼けに沈みゆく廊下を一人歩く。


 自販機は食堂か、学校の外。日曜日のこの時間に食堂は開いてないから、必然的に、裏門の正面に居を構える文房具店兼雑貨屋、佐々木屋の脇の自販機しか選択肢はない。


「なに飲むかな~」


 そんな何気ない独り言を口にしながら、タクミの頭は別の事で埋め尽くされてしまっていた。


 鷲尾輝。白鳥巧。琴月茜。


 この三人の、仲良くやってきた、幼なじみの関係をいかにして終わらせるか。幼稚園から続いてきたお友達をどうやって男と女に分けるか。


 タクミの頭は、それをここ数ヶ月ずっと考えてきた。


 きっかけは、中学三年になった時のこと。最初のHRで担任から渡された進路希望の用紙だった。


 三人が通う中学は中高一貫のカリキュラムを取っているが進学校の側面も持っており、県の内外を問わず、高校進学時に外にでるものも少なくない。


 タクミはそこまで成績の良い生徒ではなかったし、進路で頭を悩ませる事もないと高を括っていた。このままエスカレーターに乗っていればいいのだ。


 しかしヒカルとアカネはそうはいかなかった。ヒカルは学年で十本の指に入る成績だし、アカネは自慢の吹奏楽で県の優秀奏者オーケストラに二年の時から抜擢されている。外に道を見いだしてもなんの不思議はなかった。


 やんわりとその話を二人に振ったとき、共に笑って、外には行かないと言っていた。


 ヒカルは勉強なんてどこでもできると、アカネは別に名門校行って音楽漬けになりたいとも思わないしと、即答だった。


 別に二人の力を伸ばすために外に出るべきだ、とはタクミは思わない。そんなことは、二人の意思が決める事だ。だが、逆にいつまでも三人仲良く同じ道を歩いていければなんて子供じみた事も思っていない。


 ただ、それまでは意識してなかったいつか来る分岐点の、いつかがもしかしたらそう遠くないものなのかもしれないと思った時、ひどく考えさせられたのだ。


 道を違えても、離れ離れになっても友情そのものが消えるとは思わない。寂しくは成るがそういうものだろうとも、そもそもそんなもので消えてしまうのは本当の友情じゃないとも思う。


 だから、身近な関係にすがりたいわけではない。ヒカルが本気で勉強を、アカネが本気で音楽を究めるというのなら、笑顔で送り出してやりたい。


 しかし、この想い。幼馴染の関係に深く根を張った三角関係に決着をつけないことだけは、どうしても我慢成らなかった。


 親友の想い人を、自分はどうしたいのか。タクミはその疑問に実は、今も答えを出せずにいる。


 アカネは、どちらの告白であっても受ける気がするし、どちらの告白も受け無い気もする。その辺りはわからない。


 しかし、その結果がどうあれ、どちらか片方が告白をすればもう片方は、その機会を永遠に奪われると思う。巧くいけば無論のこと、巧くいかなくとも、その後に行われる告白が、する側にとっても受ける側のアカネにとっても、真摯な好意のやりとりだけに成るはずはないと思うからだ。


 だから、チャンスを与えられる枠は一人分だけ。二番手にはリングに上がることすら許されない。


 それこそがタクミの頭を悩ませているのだった。


 先陣を切った方にだけ許される一度きりの契機。それはすなわち親友の機会を奪った上でのみ成り立つ事を意味している。


 そんな機会をタクミは、譲る気もなかったし、そしてそれ以上にヒカルに譲られる気もなかった。


 恐らくヒカルも、そして、アカネですら、おおよそ同じことを考えていたに違いない。だからこそ、三人の間で、その手の話題が飛び交うことは少ない。


「まったく、難儀な話だ。幼馴染三人の三角関係なんてな。マンガかっつうの」


 来週には期末テストがある。そしてそれが終われば待望の夏休みなのだが、その前の関門が厄介だ。


 期末テストの評価などを始めとして、生徒の状況を叩き台にした、進路相談がある。そのままエスカレータから降りないものにとっては気楽な夏だが、外に道を見出すものにとってはそうはいかない。

 

 つまり分岐点は来年の四月でもなければ、受験本番の二月でもない。勿論推薦入試やAO入試が本格化する秋から暮れでもない。


 分岐点は来週。しとしと降り続く梅雨が開け、入道雲が青空に白い帆を張り始める夏の始まり。


 タクミは三角関係を解消するリミットもそこだ、と考えていた。


 そこを超えて初めて、三人の内の一人としてではなく、自分自身で先のことを考えられると思うからだ。ヒカルも、アカネも、そしてタクミも。


 タクミはそうやって考えた末に、ある賭けにでることにした。そう、タクミは自分で決められない問題を天に投げた。

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