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絶滅種  作者: てつまる
6/7

コンビニ

今回はちょっとエロ要素ありです。

デリカが角を曲がった時倉本は、稲本をつつき前方を指差した。


「パトや!」


倉本の言う通り目的のコンビニのそばにパトカーが停車していた。


「ほんまや、騒動以来初めて見るな!ポリさん乗っとるんやろか?」


稲本は遠目からパトカーを必死に観察した。


「空っぽみたいやな?どないする、倉本?」


パトカーと倉本を交互に見ながら稲本はデリカを停めた。


「本田。用意しといてや!」


倉本も、パトカーから目を離さずに本田に呼びかけた。


「あのう…………」


消え入りそうなかすかな女性の声がした。


倉本はパトカーから目を離し後部座席を振り返ると、アミが困惑顔で自分の膝を指差していた。本田が泣きつかれた後の子供のように膝を枕代わりにアミの下半身に抱きつくような状態で寝ていた。

倉本はおもむろに木刀の先で本田の頬を突っつき


「起きろよ!この赤ん坊!」


と声をかけた。


寝ぼけ眼で本田が眼を擦りながら


「どこや?ここ?………!!」


言いながら、頭越しに感じる人肌と弾力感に気づき、一気に起き上がった。


「わっ悪りい!」


アミから離れながら顔を真っ赤にして、本田はアミの顔と、前から覗き込んでいる倉本、稲本の顔を交互に見渡した。


「ゆっくりと寝たみたいやな。しっかり働いて貰らうで、用意しといてや。寝床を確保しに行くで。イナ、パトの横。1メートルくらい離して止めてくれるか?本田!まず手始めにパトカー物色するで!イナは前方を警戒して、えっーと、まだ自己紹介もしてへんから名前が…わからんな。

膝枕さんも手伝って貰えるかな?後の二人は放心状態で使い物にならへんし………後方警戒頼める?」


「織田郁恵です。手伝います。」


少し震えた声でアミこと郁恵は答えた。


「織田さんか。あんまし緊張せんでもいいで……パトの中は俺が物色するから、本田は全方位警戒な!ただしゾンビや人、特に警官が乗ってた場合は要注意やで!」


「?」


「?」


「ゾンビはわかるけど……何で警官でも注意なんや!助けて貰おうや。」


本田が異議を唱えが、倉本は一蹴した。


「あかん!幾ら警官でも見ず知らずや!こんな状態でサイレンの音も聞こえへんし……警察が機能してるとは思えへん!

しかも、拳銃って武器持っとる?こっちには、女性が3人居てるんやで?しかもかなり刺激的な格好で…何が起こるかわからんやろ」


「け・警官やで?そんな節操ないことするか?」


稲本は納得いかずに倉本に言い返した。


「イナ。今は非常時や。もし、自棄<やけ>になった警官なら間違いなく女性を奪い取りに来る。世界中で非常時に繰り返される悲しい男の性やな。」


「難しいことは考えてもしゃあないやろ!倉本が頭って決めたんやさかい。頭の指示には従うしかないやろ!イナ、早くやらんと、どっからかゾンビが出てきたらかなわんで!」


本田が稲本に車を出すことをせっつき、稲本はじぶしぶアクセルを踏み込みパトカーの横につけた。


「心配せんでも大丈夫や!誰も乗ってへんわ!」


いち早くスライドドアから飛び出した本田はパトカーの窓を覗き込ん見ながら手招きをした。


倉本はパトカーのボンネットを触りながら車を一周した。


「エンジンは冷えてるな。ドアは…」


ドアノブを引くと難なくドアは開いた。


後部座席には、どこから調達したのか、1.5Lの水半ダース入りのダンボールが2箱と、調理パンや菓子パンが詰め込まれたビニール袋、カップ麺が大量に放り込まれている買い物カゴがあった。本田に目配せをし、倉本は車内に身体を入れて、ダッシュボードなどを漁り出した。


(パトカーの中ってのはこんなに静かだったか?警察密着のテレビでは無線かなにかからひっきりなしに連絡が流れてたような気がしたんだが?)


ダッシュボードからの戦利品はスイス製の10得ナイフ1本だけであった。倉本は一旦車外に出て、本田が後部座席の荷物をデリカに移しかえる間、周辺を満遍なく観察していたが、特に通常の夜と変わったそぶりは感じられなかった。唯一の違和感は、深夜の田舎町のように静まり返り、街自体に音が存在しないかのような静けさだった。デリカのアイドリング音と本田の動き回る音しか聞こえなかった。本田が荷物を移し終えると、倉本は運転席側移り、後部トランクオープナーを引っ張った。

ガチャリと音がなりトランクが開いた。中には交通整理用であろう赤いカラーコーンが数本と大きな懐中電灯が2本転がっていた。

倉本は懐中電灯を本田に投げ渡し、その横に置かれていた紙袋を開けた。懐中電灯用の単一アルカリ電池の2本パックが6つと、重め新聞紙に包まれた塊があった。塊を手に取り新聞紙を開くと、そこに包まれていたものは実弾であった。塊を紙袋に戻して、その紙袋も本田に投げ渡した。

武器になりそうな車載工具を探したが、ドライバーとジャッキ程度しか装備されていなかった。


本田と郁恵にデリカに戻るように指示を出し、倉本自身も車に戻りかけたが、思い出したように車に戻り、助手席の前から発炎筒を取り出して、デリカに戻った。


「何か、役に立つ物あったか?鍵はついてへんかったんか?」


稲本は全員が乗車するのを確認し、運転席側のドアロックを作動させた。


「特に何もなかった。紙袋の中に拳銃の弾が50発位か?入っとったくらいかな・・・・・」


倉本は何かを考えながら、上の空で稲本に応えていた。


「弾だけあってもしょうがないじゃん!鉄砲はなかったのかよ!」


期待を裏切られた稲本は誰にともなく独り言をつぶやいた。


「まぁ、考えてもしょうがないな。」


倉本は一人で頷いて、稲本の肩を叩き


「コンビニに行こか!まず、低速で前を横切って店内の様子を確認しよか。」


稲本が頷き、デリカはコンビニの前を2度ゆっくりと横切った。


「倉本、見えたか?」


本田が興奮気味に聞いた。


「ああ。1体かもしかしたら2体かは居てそうやな・・・・・・二人で何とかするしかないな。

イナ、コンビニの正面玄関に横付けしてくれ、出来るだけ隙間がないくらいにビッチとやで、車で正面玄関を塞ぐつもりで頼むわ。左側をつけてや!本田、スライドドアから二人で一気に出るで」


後部座席から移動しながら倉本は木刀を握り直した。


「織田さん!俺と本田が出たらドア閉めてロックな!イナ、俺達が殺られたら後は任す!」


「お・おい」


稲本が返事をする前に二人はデリカを飛び出した。自動ドアが開き、二人はゆっくりと店内に歩みすすんだ。場末のコンビニにしては広い店内であった。入って右側には雑誌棚があり、棚の前には店員らしき人物が血の海の中に横たわっていた。倉本が無言で本田に合図し倉本は横たわった店員の方へ、本田は店内の奥へと進んだ。


雑誌コーナーの真向かいの事務用品棚から通路を覗き見ると、侵入者に気づいた少し年配のゾンビが本田に向かってきた。口の周りは血だらけてあったが、他に傷らしきあとのないビルの外を徘徊しているのと同じタイプのゾンビだった。コンビニの制服を着ているところを見ると店長だろうか?

店長ゾンビが両手を差し出すように上げると右手首から先が千切れて右手が無かった。本田は摺り足で前進し半歩左に寄り、店長ゾンビの右首の少し上を狙い上段から袈裟懸け(頸動脈・鎖骨あたりを斜めに)に木刀を振り下ろした。木刀は見事に店長ゾンビの首の頚椎を粉砕した。


一方倉本は、頭の後ろに派手な穴を開けて倒れている店員を木刀を使い器用にひっくり返した。右胸や左肩などに傷があり額に小さな赤い穴が空いていた。


(拳銃やな。警官はここに踏み入ったみたいやな。どこにいるんや?)


慎重に歩み進めているとドサリと何かが落ちるような音がした。


目の前のトイレの確認を断念して、音の方を確認に行くと本田がゾンビを袈裟懸けで仕留めていた。


改めてトイレを確認すると


「!」


トイレのドアの引き手(ドアと一体型になっているアーチ型のタイプ)に、千切れた右手らしきものが手錠に繋がりぶら下がっていた。


本田は、店長ゾンビを始末した後に更に店内の奥に進んでいた。入り口から3列の商品棚を過ぎた通路についた本田は思わず息を飲み、同時にこみ上げてくる吐き気を必死に耐えた。大きな血だまりの中に全裸の女性が足をM字型に開脚しこちらに向けに横たわっていた、腹部は引き裂かれており身体の周りに内臓が喰い散らかされた状態であった。腹部からはまだ血が流れていた。その横に、同じように首を喰い千切られた警察官の制服の男が絶命していた。

まだ、殺されて間がない様子である。倉本と本田が店内に入った時に臭いで気がつかなかったのもすべてがつい今しがたおこったばかりであるからであった。通路の反対側に倉本がたどり着き、同じ用に惨劇に言葉を失っていた。


死体を避けるように倉本は本田に近寄り


「大丈夫か?」


小声で聞いたが、その倉本の声も心なしかうわずっていた。


「ああ。・・・・・・」


何とか、吐き気をこらえて本田は返事をした。


「事務所に行くぞ」


倉本はレジ奥の事務室に向かった。レジを乗り越えたところで、いきなり事務室のドアが開き、ズボンをあげベルトを閉めながら警察官が出てきた。


「高橋!ねーちゃん取り替えようぜ。こっちの奴、高校生にクセしてガバガバでやんの」


顔を上げた警察官は、倉本と本田を確認した瞬間に右の腰に手をやり拳銃を引き出していた。


「何だ、てめら!おい!高橋、井沢!高橋!井沢!聞こえてんなら早く出て来いよ!」


警察官はヒステリックに仲間と思える警察官の名前を呼び続けた。


デリカ車内:

いつでも2人が戻ってきた時にドアを開けれるよう、同時に加勢できるように斧を手にドア越しに店内の様子を伺っていた稲本は、真正面から警察官が出てきて二人に拳銃を向けているのが見えた。

警官の姿を見た瞬間に、稲本は倉本が正しい事を悟った。間抜けな話しだが女の物のパンティーを頭に被っていたのである、事務所内で何が行われていたかは火を見るよりあきらかである。

絶望するとともに車内の女性を守らねばと、稲本は郁恵に最後尾の座席に移動し他の2人とともに出来るだけ身を隠すように、同時に一番大きな果物ナイフを渡した。


「俺が、この斧で守りますから・・・・隠れていて下さい。もしもの時はナイフで自分を守ってください。」


警官の呼びかけに応えるかのようにトイレからドンドンと叩く音が聞こえた。


事務所から出てきた警察官は拳銃を突きつけ、木刀を床に置くように指示し倉本と本田をトイレに向かって歩かせた。


トイレに向かいながら、正面出口を塞いだデリカに気づいた警官は、いぶかしげにデリカを舐めるように観察し


「デリカで、出口に蓋かぁ!頭いいじゃん!女乗っけてねえか?見たとこ空みたいやけど後で確認させてもらうわ!まずはトイレや!」


先ほど倉本が確認した時には気づかなかったが、トイレはスライド式のドアのスライド部分にモップが挟まりドアが開かないようになっていた。


本田が警察官に命令されてモップを取り外すと、若い警察官が汗まみれになりながら出てきた。


「本気、びびったっス!山口の兄貴のゾンビゲームやばいっすよ!」


「ゾンビゲーム?」


思わす本田が聞きなおした。瞬間、山口の肘鉄が鳩尾にあたり本田は膝を折り苦しそうに床を転がりまわった。


「そうだよ!山口の兄貴と高橋でゾンビをひっくり返して手錠でトイレのドアにつなげたんだよ!トイレに行く時は命がけってわけさ!

おかげで高飛車のセレブねーちゃんがトイレ行きたいってだけで、ゾンビを押えて欲しいと懇願して俺のを涎まみれでしゃぶってくれてよ!ヘッヘッヘッ!

そんで、俺がトイレしてた時にゾンビが 暴れ出していきなりドアがしまっちまって、ドアが開かなくなっちまって・・・・

そのあと何かが千切れるような音がしたと思ったらゾンビがドアから離れちまったんで・・・・俺その・・・・兄貴に拳銃取り上げられてるでしょ。兄貴が事務所から出来くるのを待ってたんすよ!エッヘッヘッヘッ!」


「お前、またクスリやっとんな!何処に隠し持っとんたんや!クスリは判断力が落ちるからあかん!って言ったやろ!ぼけぇ!」


山口は井沢をに足蹴りを見舞い、井沢は勢いよく洗面所に吹き飛ばされてどこかで頭を切った様子で髪の毛の間から血を流しつつ這い出してきた。


「兄貴ぃ~。いてえぇよ~」


「てめえは使えねぇな!」


吐き捨てるように言い捨てて倉本に向かって


「もう1人見かけなかったか?」


と拳銃をチラつかせながら聞いてきた。


「奥の、冷蔵棚の前で2名殺られてた・・・・」


倉本は抑揚のない声で応えた。


先ほどの全裸の女性と警察官の死体のところに行き、用心深くその死を確認した山口は


「こいつも使えねぇな・・・・」


立ち上がり、倉本と本田に向き直り


「車ん鍵よこせ」と左手を差し出した。


2人は車の鍵などもっていないが、倉本がいきなり


「本田、逆らっても無駄みたいや!おとなしい、鍵だし!」


倉本の意図はわからず、素のままに本田が答えた。


「鍵?俺は持ってないで・・・・ずっと後部座席で寝とったやんけ。!」


「あっ!そうか。わりい!わりい!俺やな」


倉本は右や左のズボンのポケットを探すフリをしていた。


(疑っとらへんみたいやな。一か八か特殊警棒で反撃か…後はズボンの後ろポケットを探すふりだけや)


倉本が右腰の後ろに差し込んでいた特殊警棒を握ってタイミングを計るために山口の方を見た瞬間、本田を横に突き飛ばしながら自分も冷蔵棚にめり込む様に身を横に振った。山口と井沢の後ろには、内臓の無い女性と首を食いちぎられた警察官がユラユラと揺れながら近づき、それぞれが山口と井沢の肩口に大きな犬歯をつきたてた。


「いてぇ!いてててて・・・ぎゃぁぁぁぁぁぁ!」


肩の肉を食いちぎられた山口の指はその痛みに耐えかねて拳銃の引き金を絞った。弾は突き飛ばされる直前に本田の頭があったところの壁を削った。


拳銃が発射されたのを確認すると、倉本は本田を抱き上げて木刀を置いた正面出口に走った。


後ろでは、山口が肩に噛みついた女性ゾンビと揉み合いながら床をゴロゴロと抱き合う形で転がっていた。頼みの拳銃は手から落ち、ベルトに繋がったスパイラルコードで身体の近くにはあるはずなのだがコードを手繰り寄せる手段がなく噛みつこうとする女性の顔を必死に手で突っ張る形で防御するので必死だった。


「ごらぁぁぁ!助けんかぁぁぁ!」


山口は相変わらず上から目線で誰にともなく怒鳴りつけていた。


隣では、クスリでラリっている井沢が逆にゾンビの首にかじりついていた。もちろん、ゾンビほどの咀嚼力はなくゾンビにとっては獲物が更に接近してくれたに過ぎなかった。

肩の肉の次は、当然柔らかい首が狙われた。ゾンビは首にかじりついている井沢の頭を強引に引き剥がしカブリと喉笛に犬歯をたてた。


「へっへっへへへ!エクスタ……」


井沢が言い終わらないうちに噛み千切られた喉から鮮血が吹き出し、井沢は四股をピクピクと痙攣させながら絶命していった。


床でゾンビの犬歯から必死に逃れていた山口は


「クソッタレ!は・な・れ・ろ!」


僅か数時間ではあるが、既に数カ所で略奪や陵辱を繰り返していた悪徳警官ではあるが、ある意味その場その場でゾンビとそれなりの死闘を繰り返していた男である。突っぱねている手を徐々にゾンビの顎の下にずらしていき、顎を支点に一気にゾンビを首を捻り頚椎をへし折った。


自分の顔の横に崩れ落ちたゾンビの死に満足し、ゾンビの身体の下から這い出そともがいている時木刀を手に戻ってきた倉本達に気づき


「早く助けろよ!てめえらはよ。」


更に、静かに木刀を持ち上げた本田に気づき

「おれは、化け物じゃなく正真正銘の人間だぜ!てめえら、人間も殺す気かぁ?この人殺し野郎!」


唾を吐き散らしながら山口は喚いていた。人殺しと言われ、本田の木刀はピタリと止まってしまった。


(けっ!トーシローが!こうなりゃこっちのペースや。何とか言いくるめりゃ勝ちや!)


内心勝利を確信した山口は、たたみかけるように


「俺は警官やど!拳銃も扱える!てめえらも子分として助けたるわ!食いもんも女も…全部奪ったもん勝ちや!王様やで!はよ、上のゾンビよかしてか!」


倉本が、足の甲を使いゾンビをどかすと山口は


「こっちのあんちゃんの方が話しが…ガッ!な・何ガッ!」


倉本は無言で山口の口に爪先で蹴りを入れあと、更に木刀で死なない程度に殴りつけた。


「こんな奴は人間やないわ。気にすんな。ほんまやったら、殺すとこやけど…まぁ情報を聞き出してからでも遅ないやろ。それより、そこのポン中トドメささな動きだしよったら面倒やで」


「せやな、ナンマイダ!」


本田が木刀を頭に突き立てた。


「さぁ、事務所ん中やな!せやけど俺苦手や!」


倉本はデリカに郁恵を呼びに戻った。


悪徳警官の山口を気絶させて、手錠を両手両足にはめて事務所の廊下に放り出しているあいだに、郁恵が事務所で陵辱の限りを尽くされた高校生を優しく慰めていた。


その頃には由紀も奈緒美も徐々に正気を取り戻し始めて、郁恵と一緒にその高校生に涙しながら慰めていた。


男3人は、絶命したゾンビを慎重にデリカを動かして外に出し、店内の血溜まりを掃除していた。流石にコンビニである、ゴム手袋から消臭剤まで足りない物はなかった。24時間営業ではないコンビニだったので、電動シャッターを下ろして一応の安全を確保して、一同はコンビニの2階にある2部屋の休憩室の片方に集まっていた。

「さぁ、先ずは自己紹介からやな」


倉本は全員を見まわしてゆっくりとした口調で話し始めた。


「まずは俺からな、名前は倉本宗一郎。30歳。しがないサラリーマンで、八尾に嫁と娘(13歳)がいてる。他の二人とは大学時代のサークルの仲間や」


「俺は、本田信正。建築事務所で働きながらバイトでホストもしてる。まぁ売れてないヘルプ君やけど…年は倉本と一緒や。あと、実家が剣術道場やから、木刀さえあればゾンビは怖ないわ」


「僕は稲本隆之。長野の製薬会社勤務。本田と僕は未婚です。」


「女性陣では私が一番最年長ね。織田郁恵です。3ヶ月前に会社が倒産しちゃて……なかなか他の仕事が見つからないんでセクキャバでバイトしてました。年齢も言わなきゃだめ?ですよね?……笑わないで下さいよ、キャバで働いてたくせに28です。」


よほど恥ずかしいのか…言い終わると顔を真っ赤にして下を向いた。


「高倉由紀です。朝日ヶ丘高校の2年。17歳です。ち・ちょっと事情があって友達の奈緒美とアミさん…いや、郁恵さんのお店に今日からアルバイトに来てました。

セクキャバって知らなかったんです。セクキャバとキャバって何が違うんですか?って…わ・私何言ってんだろ?こんな時に……やだ……あ・あのアミさん、倉本さん、本田さん、稲本さん助けいただいてありがとうございます。」


ボロボロと涙がとまらない由紀に郁恵が近づきそっと肩を抱きしめた。


「わ・私は武田奈緒美です。奈良の富雄女子学園の2年です。わ・私が悪いんです。由紀ちゃんをこんなことに巻き込んでしま……」


奈緒美も郁恵にしがみついてオンオン泣き出してしまった。男3人は展開に対処出来ずにオロオロするばかりであった。


「私は橋本香織。高校3年です。まぁ殆ど学校行ってないけど…外見の通りで、俗に言う落ちこぼれやし…今日のことも、まぁ犬に咬まれたみたいなもんやと思てます。

こんな異常な状況やから、えーと、倉本?さんに本田?さんに稲本?さんやったっけ?

助けてもろたし他の女の人は普通の人達やし、こんな私のために涙流してくれたお礼もあるしどうせ汚れついでやから、溜まったら私で抜いてもらったらかまわへんです。

あっ!避妊だけはしてもらいたいんやけど…」


投げやりではないが、自嘲気味に笑い顔でごまかそうとした。

「おい…」


倉本が一言注意しようと腰を上げかけた時、既に由紀がは脱兎のごとく香織の目の前まで行き、手加減なしに平手打ちを見舞った。


香織が吹っ飛ぶほどの勢いであり、平手打ちをした由紀本人も肩で大きく息をした興奮状態であった。


「バカ!バカ!バカ・バカ・バカ・バカ・バカ・バカァァァァァァァ女の子がそんなん言うたらあかんやろ!投げやりになったらあかんわ!」


徐々に鳴き声に変わりながら


「ついさっき、私や郁恵さん、奈緒美は……お店の料理する人と女店長さんに命を助けてもろてん。料理する人なんか、たっくさん迫って来るゾンビに1人で立ち向かって……グスッ、グスッ…………

店長さんも私と変わらんくらいの背のちっちゃな人やったのに………笑ってゾンビの群れに突っ込んでいったんや!!!助けてもらった命を……女性を粗末にしたらあかん!!あかんて……そんなんしたら店長さんに叱られるわ。香織ちゃん1人でそんなん背負わされへん!わ・私も、私も……経験ないけど、私もするから、怖いけど私もするから…香織ちゃんだけ辛い目には会わさへん。せやから、そんなに自分を安売りせんといて……」


ヨロヨロと香織に近づき香織を力一杯抱きしめながら、由紀は絶叫していた。


「おい、おい…」


言いかけた倉本を郁恵が制しながら、奈緒美に声をかけ二人に近づいていき、倉本達に部屋を出ていくように目配せした。


倉本達はなすすべなく、部屋から退散した。男性陣が退室した休憩室では鳴きじゃくる由紀にしがみつかれ、途方に暮れている香織と由紀が落ち着くまでじっと待っている郁恵。オロオロとしている奈緒美が微妙な空気の中にさらされていた。ひとしきり泣きつくした由紀がオズオズと香織の身体から遠慮がちに離れた。


「ごめんなさい!叩いちゃって!」


由紀が香織に必死に頭を下げていた。


「かまへん、かまへん。私も投げやりな言い方過ぎたんなもしれへんわ。しかし、あんた…イノシシなみやな!」


香織が由紀の頭を撫でながら言った。


「イノシシって!それは言い過ぎちがいます?私は香織さん……」


由紀が膨れっ面で文句を言いかけた時にパンパンと手をうち郁恵が割って入った。


「由紀ちゃん、間違ってないよ。それに香織ちゃんも間違ってない!二人とも立派だよ。」


どちらも立派と言う言葉に3人ともキョトンとした表情で床に座り込んだ。


「いい?よ~~く聞いてね。岡ちゃん、あっ!この人はさっきの料理する人ね。

それと沙織さん。店長ね。

2人が命がけで助けてくれたんだから由紀ちゃんと奈緒美ちゃんは何があっても生き残らなきゃだめだよ。倉本さん達にも助けられたよね!最初はもっとたくさんいてなかった?覚えてる?」


奈緒美は他にも思い出そうとしながら


「ほんとだ!スッゴく大きい人や髭の人がいてた!途中ではぐれたんですか?」


「ビルから出て、少ししたところで助けを求めてた女性を助けようとして…………」


郁恵は中澤が絶命する瞬間を思い出してそれ以上言葉が続かなかった。


しかし郁恵は気持ちを奮い立たせて


「香織ちゃんの経緯は私達にはわからないわ。でも、わかっているこてがあるの。わかる?由紀ちゃん」


「すみません。わかんないです。」


「そう。別に恥ずかしがることじゃないからね。私達は偶然、岡ちゃんや沙織さんや倉本さん達に助けられたんだよね。

でも、香織ちゃんは残念ながらそんな人達に出会わず、あいつらと出会ってしまっただけ。そうして私達も香織ちゃんも、今ここで生きているの!

たまたま、倉本さん達が立派な人達で…一歩間違えれば香織ちゃんと同じだったのよ。

私なら香織ちゃんと同じことをしたわ。

いや顔を叩かれてる香織ちゃんはかなり抵抗したんだと思うけど、私なら死にたくないからきっと進んで淫らに男性が喜ぶこと全てをするわ。だって死にたくないから…………。」


「そんなことあらへん!私、勉強出来へんし、親からもほったらかしやし……

唯一、お金を稼げるんが……身体やし。でも、ウリとかはやってへんで!一応、彼氏ばっかりやしみんな、ご飯とか食べさしてくれるから、私の身体がお礼みたいなもんやねん。せやから、そうやって中学から生きてきたから、全然大丈夫やねん。

年の割に結構教えこまれてるから…大概の男は満足させたれるんやで……ほんまに、そうやって生きてきてん。」


「香織ちゃん、かまへん、かまへん。誰でも自分の生き方があるんや。香織ちゃんがそれならそれでいい!でも、一つだけ約束してくれへん?私も、倉本さん達に助けてもろた時正直助かりたいから、由紀ちゃんも奈緒美ちゃんも見えてへんかってん。

全身全霊で7人全員にご奉仕して、奴隷になってでも守って貰おう。生かして貰おう。

言われたらどこでも受け入れよう、どこでも股を開こう。口でもどこでも受け入れよう。そして喜ばれるよう歓喜の声を張り上げよう。って覚悟しててん。

せやけど、倉本さん達はそんなよこしまな気持ちなんか微塵もないねん。

亡くなった4名の倉本さん達の仲間、岡ちゃん、沙織さんみんな・・・『助ける』って言う純粋な気持ちだけやねん。

せやから、私が、香織ちゃんや由紀ちゃんや奈緒美ちゃんを守るんや。そのために必要ならどんな男にも媚びる、どんな男とでも寝る男が望む事はなんでもして、貴方達を守るわ。だから、香織ちゃんは駄目、まだ若いんだから・・・・ねっ!それだけ約束してね。お願い。」


真剣な郁恵の顔に目に、香織は何も言い返すことが出来なかった。郁恵の決意を汲み香織も一言だけ郁恵にお願いした。


「わかりました。その代わり私とも1つ約束してもらえます?郁恵さんに何かあった時、郁恵さん1人では相手に出来ない数の時、私も引き受ける、助ける、協力する。由紀ちゃんや奈緒美ちゃんは2人で守る。どう?こんな馬鹿じゃあかん?私も何かに役に立ちたいねん。」


「香織ちゃん」


郁恵と香織はヒシと抱き合った。


由紀と奈緒美は、あまりにも物凄い決意にただ唖然とするばかりであった。


ツンデレちゃんこと由紀は


(郁恵さ~ん、香織ちゃ~ん、それって妄想すぎるんちゃう?悲壮感バリバリやん。倉本さん達、全然そんなんちゃうやん。さっきは私も雰囲気に飲まれたけど…冷静に考え直した方が……ええんちゃうんかな?)


奈緒美にも意見を聞こうとすると、奈緒美はウルウルと感激しまくり状態であった。


(あかんわ!倉本さんらに期待するしかないんか!)


テンションの下がる由紀であった。


「由紀ちゃん、奈緒美ちゃん!良いわね!倉本さん達を呼んで来て」


郁恵と香織は女性陣の話しの件を赤くなり青くなり倉本達に説明した。


「・・・・・・・・・」


「・・・・・・・・・」


「・・・・・・・・・」


3人は開いた口が塞がらなかった。3人の反応を見て、奈緒美が怒りだした。


「郁恵さんと香織さんの決意を聞いたんでしょ?何んとか言ってや!それとも、私達全員、手篭めにせな満足出来へんの?そ・それなら、私も何でもするわ。今直ぐパンツ脱げばいい?く・口は下手やで、彼氏歯が当たって痛いて怒られるねん。

その代わり、由紀は、由紀だけは勘弁したってな!由紀はバージンやねん!!!!」


郁恵と香織についで奈緒美まで言い出した。奈緒美にいたってはスカートの中に手を入れており、真っ赤な顔で今にでもパンツを脱ぎそうな勢いである。


(バージン、バージンって叫ばんといてや、恥ずかしいやん。たまたま相手がおらんかっただけやん。な・奈緒美も何パンツに手をかけてるん!へたに男を挑発してることになるとちゃうん?初体験が乱交とから輪姦とか?冗談ちゃうで!)


プルプルと怒りが込み出す由紀であった。


(このままでは今度は由紀ちゃんが……おい!肩がプルプルし始めてるやんけ!

何か途轍もないこと言い出しよるぞ!何とかこいつらの妄想をとめやな!ゾンビより難儀なことになるぞ!)


冷静な倉本が始めてうろたえた。


「あっ―――――うっさいのぉ!何、ねぼけたこと言うとんじゃ!何?犯される?何でもする?あほらし、そんな事より生き抜くことが最優先や!まだなんの状況もわからんのに!アホみたいな妄想、かってにしとれ。むしゃくしゃするから、山口痛めつけてくるわ!」

(よくやった!ノブ。抱きしめたるわ。チャンスは1回こっきりや!イナがボケっとしとる今や!)


本田が、怒鳴り散らして階段をくだっていった。


「本田、ゾンビに噛まれた奴やから要注意やぞ!なんや返事なしか?イナ!頼むで、見てくるわ!」


(脱出成功や!優しい稲本君!あとは任せた。骨は拾たる!)


倉本が、ゾンビから逃げるより早く脱兎のごとく階段を下りて行った。稲本は1人ぽっつと取り残された。


いきなり怒り出した本田とその勢いに奈緒美はシュンとして、縮こまるように床に体育座りし、頭を身体に抱え込み丸まるまった。


(毎度のことやなぁ。男と女の話しはいっつもこのパターンや!本田はキレたふり、倉本は本田に格好つけて逃走。大学時代と変わらんやんけ、進歩のない奴らやなぁ。

しっかし、オナゴ達も強烈な妄想やんなぁ。郁恵さんって、どMなんかぁ?参ったわ。)


頭を掻きながら困り果てた稲本は、郁恵と香織の間に同じ様に体育座りをして、ボソボソと話し始めた。


「郁恵さんと香織ちゃんは、俺達がそんな風な男に見える?」


首を振る2人。


「そう、ありがと。こんな混沌とした状況やから心配が心配を呼んで、変な妄想みたいなんに駆られただけやで・・・・・倉本がコンビニに入る前に、中途半端に非常時の男の性やなんて心配させた挙句に香織ちゃんの件やからなぁ。郁恵さんが神経質になるのも無理ないわ。香織ちゃんも、頼りどころを自分で探さなあかんかったしな・・・・・

なぁ、今の話しはお互いに忘れへんか?」


「でも、倉本さん達に何か・・・・言いたくは無いけど何かあったら、そうなるかもしれないんですよね。」


うなだれながら、郁恵が押し殺した声で質問してきた。


「ごめんな。覚悟はしといて・・・・・・」


ビクッとして、郁恵と香織が顔を上げた先には困ったような笑顔をした稲本がいた。


「やっと亀が顔だしよったわ!俺一人やったら覚悟しといてもらうけど、倉本に本田もおるから安心し、簡単にはそんな状況にはさせへん。ほな、下行こか!俺らが山口をしばいてる間に女性の仕事頼むわ。奈緒美ちゃん、パンツ脱ぐ覚悟で旨いもん食わしてな」


踵を返して稲本は階段を下って行った。残された4名は・・・・・


「熱病にでもかかってたんかな?」と郁恵が無理に明るくし


「ほんまや、いや!っちゅうほどされたのに、欲求不満やったんかな?」


香織がまたくだらない話しで誤魔化そうとした。


「ほんま、乗せられてむっちゃ恥ずかしい想いしたわ!なんで、彼氏にHの最中に怒られる話しせなあかんの!パンツも・・・・・ちょびっと濡れてしもたし・・・・」


奈緒美は本気でイライラ怒りながらも・・・・


「まぁ、由紀の貞操は守れたからよしとするか!その代わり、今日の『女』当番は由紀と言うことで・・・・おいしい食事をお願するかな。ツンデレちゃん!ご飯を作りたまえ!」


4人はお互いの顔を見比べながら、惨事以来初めてお腹の底から笑い声をあげた。


(奈緒美も何が貞操の危機は免れた。よ!あんたの行為が一番危険やったやん!でも、良かった。)


一階事務所


猿ぐつわをされた悪徳警官 山口が椅子に縛り付けられていた。椅子をギシギシ軋ませながら声にならない唸り声を上げ山口は暴れていた。後ろから本田が手加減をしながら木刀で肩を打ち据え、やっと山口は大人しくなった。稲本が慎重にタオルを捻った猿ぐつわを外した。


「てめえら!こんなことしてただで済むと思うなよ!俺は警官やぞ!」


「らしいな…山口次郎巡査長。30歳か……俺らとタメやな。」


倉本が暗い声で机に並べられた山口の持ち物を手に取り一つ一つ確認していた。


「タメだと!だからってどうしたんや!警官を拉致して、てめえら!ゴフッ!」


本田の木刀が鳩尾に入り山口は激しく咳き込んだ。


「返しとくわ。」


本田は木刀を肩に担いで山口の周りをゆっくりと歩いていた。


「山口巡査長。俺達の質問に答えて貰おうか。」


倉本は相変わらず机の上の品々を弄りながら山口に言った。


「教えて欲しけりゃ、手錠を取って、飯と飲みもんよこせや!」


唾を撒き散らしながら、まだ偉そうに自分勝手な言い分を喚き散らしていた。


「イナ。女性陣とこ言っといて。多少の悲鳴は無視してな。女性達は部屋に近寄らさんといてな。」


倉本のあまりにも暗い目つきに、稲本は無言で従うほかなかった。それほどの威圧感が今の倉本を覆っていた。


(30にもなって…また人を脅さなあかんのか…)


倉本は山口に近寄りながら溜め息をついた。


「お前、どこの生まれや?」


山口の裸足の左足の親指を軽く踏みながら倉本は尋ねた。


「お前には関係ないやろが!それより手錠外せや!ボケエ!」


「!!!!!!………」


山口が声にならない叫びをあげて、目から大粒の涙を流していた。山口の左足の親指は、倉本の革靴のかかとで力一杯踏みつけられていた。


「相変わらず、えげつないなぁ」


本田は相変わらずグルグルと回っていた。


たっぷりと時間を与えて、倉本はもう一度聞いた。


「どこの生まれや。次はもう少し痛いで!」


「………………」山口は答えようとしない。


(へっ!トーシロが、拷問ごっこつもりか、なめんな。)


逆に山口は無言のまま倉本を睨みつけた。倉本は、山口の右手の中指を無造作に勢いよく逆に曲げた。


「ぎゃぁぁぁぁぁ…」


山口の中指は通常とは逆に曲がり、真ん中辺りから折れた骨が肉を突き破っていた。


「手ぇの指だけやったらあと9回は黙秘出来るな。もう一回聞くけど?」


山口は自分の指と倉本を交互に見て、子供のイヤイヤのように首を左右に降り続けていた。倉本が左手に触れた瞬間に


「だ・だいとう」


倉本は満足げに笑みを浮かべて


「やっと、素直になったやん。ゆっくりと話そか?」


山口は、涙を溜めた目で怯えながら倉本を見て


「け・警官を、ご・拷問するんか…」


「申し訳ないけど、お前咬まれてるやろ?定番やったらゾンビになるんやから、どっちゃにしろおんなじやろ」


あっけらかんと本田は言い放ち、ついでのように山口の頭をコンコンと木刀て叩いていた。


「ほなら、色々と聞こか、山口くん。」


「まず、どこの所属や?」


倉本は山口の目の前に椅子を引っ張り出し、腰掛けながら尋ねた。


「それと、何で警察が動いてないねん。お前ら以外見かけへんのやけど?」


「そ、そんなん俺はしらんがな……」

口答えした山口は木刀で威嚇する本田に怯えなから答えた。


「知ってることだけでかまわへん。無線とかの連絡はどないやねん?こんなんになる直前は何しとってん?だいたい、いつ頃から始まったんや?」


どうも、質問者は倉本。威嚇者が本田と分担が決まっている様子だった。喉をゴクリとならして山口は


「答えたら、助けてくれるんか?」


いきなり山口の目前に木刀が振り下ろされ、山口の前髪が風でしないだ。山口は恐る恐る本田を見上げ、その冷たい目にさらに怯えた。


「俺は天王寺警察の警邏課で、毎日パトカーで市内をウロウロしてるんや。5時間くらい前に、課長から無線で…あちらこちらで人が襲われてるて連絡があって、現場に行けって命令かと思ったら

拳銃で撃っても死なへんみたいやと言うて、発砲許可と予備弾薬の用事をしてるけど府警本部も他の所轄も殆ど連絡が取れへんらしい。そしたら、なんや署内が騒がしいからと無線がきれたんや。」


「5時間前から始まっとったんか!で、それからどないなったんや」


「ほんで、署内の同僚やらに携帯で電話したんやけど…誰にも繋がらへねん。

やっと繋がったんがさっきの二人や。1時間ほどして、課長から署に戻ってこいと無線連絡があったんや」


「課長から聞いた話しやけど……署内でいきなりゾンビが現れよったらしいわ。課長が予備弾薬を取ってかけつけたら、署内はゾンビだらけで…おかしなことに、大半が普通の酔っ払いみたいに歩いとったらしい。その酔っ払いみたいなんが、課長や他の階から逃げ出してきた奴らに襲いかかってくるんやと…

何人か噛みつかれてる間に課長が10人ほど率いて会議室に籠城したらしいんやけど…その内の何人かが…身体がむちゃくちゃ痒いとか騒ぎ出して……倒れ込んだらしい。そしたら、数分で目ん玉が白く濁ったようになって………無事な仲間を襲い始めたんや……課長も何ヶ所も咬まれたけど、みんな撃ち殺して、あっ!頭撃ったら死ぬって課長が言うとった。丁度3人で署の前に到着したんやけど……ゾンビが溢れかえってて………課長に個人携行無線で連絡したら、今のこと教えてもろて、1人でも助けろって……会議室の窓から弾投げてくれたんや。」


「で、市民を助けんと…狼藉してオンナ襲っとってんな」本田

「会議室からは弾だけ違うんや…課長も落ちて来たんや。

課長が地面でピクピクしてて……んぞ!そっから折れた足から骨突き出したまんまで起き上がって……襲ってきたんや!!世紀末なんや!どうせ死ねんや!最後くらい最後くらいええ思いしたないか?オンナかて、喰い殺されるよりマシやないか!…………………ヒィ………………」


本田の最上段の構えから振り下ろされる木刀に悲鳴を上げる山口。


ガッッッツ!


本田が振り下ろした木刀は山口の額のギリギリのところで倉本の木刀に妨げられた。


「邪魔すんなや!倉本!こう言う人間の屑は始末した方がええって!」


木刀を引かない倉本に本田は文句タラタラで食い下がった。


「まぁ、まちいゃ。今の説明は非常に興味深い内容やで!?なぁイナ?」


いつの間にか稲本が戻ってきており、山口の死角の壁にもたれかかっていた。


「ほんまに興味深い話しやな。」


稲本は壁から離れながら山口に近寄ってきた。


「え?何んやねん?その興味深い話しって?」


本田は稲本と倉本の顔を交互に見ながら離れた椅子にどっかりと座りこんだ。


「まず第一に、山口君だっけ?お前、かなりきつく肩の肉を喰い千切られてるよな?」


思い出したように山口は自分の左肩の傷口を見た。


既に血は渇ききっていた。


「お前の話しやったらそんだけ咬まれとったら、もうゾンビになってておかしないんちゃうか?」


山口は必死に首を振り、チラチラと本田を見ながら


「嘘はついてへん!て!指、へし折られて……木刀で頭カチ割られる……のに…嘘ついてもしゃないやん…け」


本田が椅子から立ち上がると


「ほんまやって!信じてえなぁ。いや!信じて下さい。お願いやから……やから…」

よほど本田が怖いのか最後には泣き出しながら嘘をついていないと必死に主張した。


「嘘をついてるなんて言ってへんやろ?少なくともお前の仲間や……途中で見た奴らは、課長さんの言う通りや。無傷のタイプと傷だらけのタイプがいてるな。多分、無傷が襲って傷だらけが発生しとるんやろ。」


「問題は……無傷やな。傷だらけは如何にも咬まれて感染しました。やけど、無傷は何でゾンビになったんや?」


「そんなん、俺にわかるはずないですやん。」


「お前には聞いてへんわ!まてよ!警察?さっきの課長の話しやけど、大半が無傷タイプやったな?課長さんはゾンビになったんわ、咬まれた後か?」


「多分……咬まれた言うてからも数分は普通の喋り方やった……です。」


未だに本田が動くたびに首をすくめながら山口は答えた。


「おい!お前、チャイナ・インフルエンザワクチンの予防接種したか?仲間の2人は?課長さんは?」


「???…………俺は…署内の強制接種の時には旅行でおらへんかったんで一般接種に行けって言われたけど、面倒くさいから行ってない……高橋と井沢はしらんけど…受けたって話しはしてなかっと思うけど…

課長は…胃潰瘍でこの間まで入院してたし、警察病院が一杯で民間病院やったから警察や消防みたいに強制分のワクチンはしてないと思う。

あっ!高橋と井沢は年末から流行ってる、普通のインフルエンザワクチンは受けたって行ってたわ。今、警察内で流行ってるねん……俺は…受けてないけど………」


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