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絶滅種  作者: てつまる
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脱出

無謀な3作品 同時連載・・・・・・どうなることやら

本田が飛び出し、続いて倉本が飛び出したと思った途端に、派手な衣装を身に着けた女性が踊り場に転がりこみ、続いてスポーツバックが2個放りこまれた。


転がりこんだ拍子に女性のミニスカートはまくれ上がり、二人ともお尻丸出し状態で突っ伏していた。


目のやり場に困り果てて、中澤と川口がそれぞれのコートを2名の女性にそっとかけた。


続いて同じような衣装をまとった大人の女性が扉を潜り抜け、魂が抜けたように床にヘタリこんだ。


本田と倉本が扉を潜りぬけると途端に


「イナ、阿部、直ぐに、そこの廃ロッカーで扉を塞いで!川口と中澤は3階の扉の内ロックを閉めてきてくれ。」


名々が瞬時に行動を起こした。


「倉本、こ、このロッカー何が入ってんだか?くそ、重てぇぞ。平山、手伝え!」



稲本の要請に、平山と本田が駆け寄り、4人がかりでロッカーを動かして扉を封鎖した。扉はガンガンと叩かれて続けていた。


「3階の扉はロックしてきたぜ。ついでに、気休めだけど回りのゴチャゴチャした物、積み上げといたぜ。」


肩で息をしながら、中澤と川口が戻ってきた。


階段の窓から外の様子を確認していた倉本が、窓から離れて、首を軽く窓に向けて振った。


メンバーが交互に窓から外の様子を確認した。


「見える範囲で10~15体くらいだよな?ここのビルってどんな造りだっけ?正面玄関ってどんな感じやった?」


中澤がメンバーに問いかけた。誰一人として正確に覚えている者はいなかった。


「あの~」


アミが遠慮気味に倉本達に声をかけた。


「あ!ごめん。ごめん。挨拶もまだだったね。それより君、ここの従業員だよね?ちょっと教えてくれる?」


挨拶もそこそこに、アミは倉本達の輪の中でビルやビル周辺を説明していた。


「なるほど、階段をくだると1階が表玄関で道路に面したEVがあるビルの正面ね。そのEV横に出るんやな。扉はエレベータの裏?、ということは扉を出たら右方向にEVを回るようにして出るんやね。地下は駐車場?。行ったことは?ない?ぞうか。駐車場から人の出入りは出来る厨?房の人が言ってた?

駐車場の出口、そう、車の出るところは、EVをはさんで階段と逆方向?。つまり、階段は御堂筋側、駐車場は堺筋側ということやね。」


知りたい情報を入手した倉本は、中澤と川口に女性に男性陣のコートなどを渡し、外に出る防寒対策を指示し、阿部、平山には階段の上下の見張りを指示し、本田と稲本を呼び脱出経路を検討し始めた。


「人の数から言っても、堺筋側がベストちゃうか?3~4ブロック北に上がれば、警察署(南署)があるぜ」稲本


「いや、この手のパニックだと、生存者は警察を頼るから逆にゾンビがよってこうへんか」本田


「堺筋側にしよう。まず、駐車場の出口なら最低でも3~4メートルはあるだろう。EV横だと、2名横並びで通るのが精一杯や。

駐車場なら、最悪分散して走り抜けれるやろ、それと、堺筋をそのまま東方向にいけば、上本町とかのオフィス街やし、人は少ないんと違うかな?警察は状況次第で考えたらええんちゃうか?」倉本


「それより、早くビルを出たほうが懸命やぞ」倉本


2階と3階の踊り場で見張っていた阿部が小さく口笛を鳴らして全員に注意を促した。

上のほうから、何かの音がしたと思った途端に、階段を転げ落ちるような音に変わった。一気に全員が2階に集合し、倉本の指示を待った。


「もともとの陣形で行くぞ。女性陣は木刀を持っている僕とあいつの間にいてください。

地下駐車場から出るぞ、最悪の場合は駐車場からは個別に逃走になるかも知れへん。地下についたら、赤のドレスの方は稲本。グリーンのドレスの方は本田。ピンクのドレスの方は私と行動してください。イナ、お前はこの女性が持ってきた斧もってくれ。」


倉本が指示するや否や、男性陣が一斉に行動を起こしたが、 女性陣はわけがわからずウロウロするだけであった。


本田が1人の女性の手を引いて、階段を降り出すて他の女性も習ったように後を追った。


(この娘、キャバ嬢やんな?しかし、手なんかぷよぷよやんけ。こんな瑞々しいキャバ嬢の手なんか知らんわ。てか、化粧濃いけどめちゃ若いんちゃうか?高校生やったりしてな)


木刀と言う武器を手にして、余裕綽々の本田は自分が引き連れる女性にそんな印象を感じていた。


何の問題もなく1階に達し、念のために1階の扉にも


「ここをロックしたら、この扉の向こうで助けを求めてる人を遮断するんやんな?せやけど、階段側にロックって変なビルやな」


先頭の平山がボソッと喋りながらロックをかけた。


また、上の方の階で人が転げ落ちる音がして、一同は黙って地下への階段を下っていった。一同は、地下1階に到着した。


「さぁ、こっからが本番やで!」


本田は、木刀が手から離れないように、木刀を握った右手をハンカチで結わえていた。


小さく鋭い口笛がなり、一同は後方を振り返った。稲本が何かの合図をよこしていた。


倉本と本田が自分たちが呼ばれているだろうと判断し、扉から離れて、1階への登り口に近づいた。


「音の原因がわかったわ。あんまり顔出さずに階段覗いてみ」


稲本が階段を顎で差した。


本田が、顔を少しだけ階段に出すと、目が合ってしまった。と、同時に叫びかけたところを稲本がタオルで無理やり口をふさいだ。


両目とも真っ白に白濁しているのに、見られているような気になった。口が自由になった途端に、興奮しながら


「お前!あんなん見てよう叫び声ださんかったなぁ」


「いや、何となく予感してたんや。窓から見たゾンビ、かなりフラフラと歩いとったやろ?多分あいつら、階段ようおりへんで、せやから転げ落ちとるんや」


稲本が喋り終わらない内に、また激しい音がして、足元にゾンビが転げ落ちてきた。


突然のことで、稲本も本田も平山も身動きが出来ない間に、ゾンビは誰かの足を掴もうと這い出した。


ドスッ と音がした途端にゾンビの後頭部に木刀が突き刺さっていた。


無言で、倉本が木刀をゾンビに突きたてていた。


「案外と脆いな。人の頭蓋骨は……」


ゾンビを軽く蹴りとばして、動かないことを確認し、ことさら、うわずるわけでもなく平然と言い放ち、他にいないかと階段を数段登って確認をし始めた。


「一体だけみたいやな。映画や小説と同じや。頭、潰したら死によるわ」


あまりの手際良さに、唖然とする3人を小突きながら


「しゃきっとせいや!」


と言い放ち、扉に向けて歩いていった。


「く・倉本。お前、最強やなぁ」


本田が呆れ顔で言いながら、他の2人と倉本の後を追った。


再度、扉の前に集まったメンバーを見渡しながら


「さぁ、いよいよだ。この扉の先はもう建物内ちゃうから、360度回りを注意してや

それと、雑居ビルやけど警備員がいててもおかしないのに、見かけへんやろ?

地下に警備員室がある可能性大やで、ほんで、警備員がゾンビという可能性もあるから、迂闊にちかづくなよ。2メートル以内に近づかないこと!わかったかな?

阿部、悪いけど扉頼むわ。本田、さっきみたいに気ィ抜いてたらアカンで!」


阿部が扉を開けた。開けられ扉の外はありがたいことに、蛍光灯が灯されており視界が確保出来そうだった。


「真打ちは後から来てや」


本田が扉に向かって飛び出した。


地下駐車場には、本田からみて右斜め後方に警備員室らしき部屋と、右斜め前方と左斜め前方に1台ずつ車が止められていた。


「大丈夫そ……」


振り返りかけた本田の右手からいきなりゾンビが襲ってきて、本田ともみ合うように地面に倒れこんだ。


「やばっ!こいつすげぇ力や。」


木刀を右手に結わえたことが裏目にでて、本田は右手が自由に使えずに木刀をかざした状態で何とか突っ張るように支えるのが精一杯であった。馬乗りのゾンビは涎を垂らしながら必死に噛みつこうとしていた。


「ノブ!ゾンビの頭もうちょっと上げろ。」


声が聞こえたか否やのタイミングで、倉本がゾンビの頭をサッカーボールのように蹴り上げた。


ゾンビの首があらぬ方向に曲がり、動きが止まった。


「イナ、阿部!周辺確認!俺は出口見てくる。」


稲本と阿部がおっかなびっくりと駐車場に出てきて、警備員室の方に向かいかけた時、扉の死角の暗がりから、警備員姿のゾンビが現れた。


「で・でたぁ~」


阿部は慌てすぎて、モップを握り直そとした落としてしまった。


「や・やべー」


阿部は助けを求めるように本田の方を見たが、のしかかられた大柄の警備員ゾンビの下から抜け出すのに悪戦苦闘していた。


「ふんっん!」


気合いのこもったかけ声とともに、阿部に迫り来るゾンビの頭が数メートル離れたところを転がっていた。


ゾンビの倒れた先には、斧を肩にかけた、稲本が得意げにしていた。


「サンキュー、イナ。」


そう言いながら、阿部はモップを拾い上げて、本田を助けに行った。


本田と阿部、稲本が扉の向こうの仲間を駐車場に呼び入れている中、倉本が戻ってきて、大柄の警備員の持ち物を漁りながら。


「入り口付近にはあんましおらへんけど、通りにはヤバいほどおるわ。よっしゃ!特殊警棒とフラッシュライトと折り畳みナイフ、ゲットや」


ゾンビの死体から、物資を漁っている倉本に一同は引きつっていた。


「倉本、特殊警棒とフラッシュライトあったわ!」


本田も、首だけゾンビの物資を漁っていたようだ。


「川口、平山、阿部、本田で見張りと扉閉め頼むわ。」


「中澤は女性陣な」


「イナ、警備員室漁りに行くで。」


矢継ぎ早に指示し倉本は警備員室へ向かった。警備員室に到着した倉本は、稲本に向かい


「探しもんは、鈍器系の武器と懐中電灯。それと、飲みもん、食いもん、鞄かバック

電池、地図、ノートパソコン。それと、車が止めてあるやろ、その車種の鍵もな」


倉本と稲本が警備員室で探しものをしている間に本田達はビルとの扉を閉めて、手近な重みのある箱だの潰れた廃棄机などをバリケード代わりに積み上げた。


「しかし、倉本ってあんなんやったか?なんか、雰囲気違わへんか?」


本田の問いかけに、中澤が答えた。


「あいつ、結婚してから大変らしいで、元々気ぃがええやろ。新婚で嫁さんを甘やかして、そのまま、嫁さんの実家にのっとられてるらしいわ。」


「そんなんで、あんだけかわるか?なんか、この状況を楽しんでるみたいやんな?」


川口も不思議そうに倉本に感じる疑問を問いかけていた。


「倉本、ここの警備員、野球が好きみたいやで、バットが3本もあるわ。」


バットを机におきながら、何気に机の引き出しをあけながら稲本が倉本に話しかけていた。


「せやけど、お前、映画の主人公なみやな。なんか、先々が分かってるみたいにみんなに指示だしてるやん。どないかしたんか?」


「しょうもないこと喋ってる暇あったら、手動かせ。おっ、菓子が結構あるぞ。かばんはないけど頑丈そうな紙袋があるな」


しばらくして、倉本と稲本が警備員室から戻ってきた。


「バット3本。懐中電灯2本。お菓子紙袋1杯。大型カッターナイフ2本。ペーパーナイフ1本。果物ナイフ1本。ドライバーセット。車の鍵2本。車用の携帯充電器2個。こんだけが収穫やったわ。」


車の鍵を1本ずつ、川口と平山になげて


「鍵が合ってるか見てきてくれるか?あってれば、ガソリンの量も見てきてな」


集められた物資の前で腕組みをしながら倉本は何かを考えている様子だった。


川口と平山が戻ってきて、車は2台ともほぼ満タンであることが分かった。


「旧型デリカとステップワゴンか・・・・・」倉本はつぶやいた。


「よし」


倉本は決断をしたように自分自身にうなずいた。全員を集めて、今後の方向を説明した。


「まずは、車が2台あるので、2グループに分けたいと思う。女性陣は分けるわけにはいかないので1グループとする。

女性陣と組む場合は半数が女性となるので、必然的にチームとしての戦闘力が落ちる。

俺が意見を言う前に、そのチームに入る気がある奴が居れば言ってくれるとたすかるんだが・・・・・」


あからさまに、戦闘力が落ちる=死の確立があがるといわれて立候補する者はなかなかいなった。


「いないみたいだな。まあ、あたりまえやわな。そんなら、俺が決めさせてもらうけど恨みっこ無しやで・・・・・

女性陣と、本田・稲本・俺の6名がデリカ。中澤・阿部・川口・平山の4名でステップワゴン。車についてやけど、女性陣のリスク分を車で相殺していると思ってくれればいい。

デリカの方が車高が高く4WDなんで、車での突破などでは有利だと思う。その分スピードはないけどな・・・

次は武器。中澤班。ここは中澤がキャップな。バット3本。懐中電灯2本。それ、元々のモップとビールケース。

倉本班 木刀2本に斧1本。フラッシュライト2本。女性陣にはカッターナイフか果物ナイフを持ってもらう。

電池やお菓子は人数分け。それと、車で出るギリギリで、警備員からせしめた財布の金で、警備員室横の自販機で飲み物を購入する。先頭車両は倉本班。以上だが。文句があればこの場でたのむわ。」


「あのー」


アキが女性陣を代表して質問をした。


「この先、どこにいくんですか?安全なところなんてあるの?」


「申し訳ないけど、わからへん。どないしたらええんか?さっぱり検討がつかんへん。

今、言えることは、安全な場所を探して、情報を手にいれなあかんことだけや」


「もう、かなり時間食ってるから、いい加減に出発しようぜ!」


本田の一言で、メンバーはそれぞれの配給品を車に積み込み倉本の指示で全員がトイレを済ませた。エンジンをかけ自販機の傍に止めて50本近い飲み物を購入した。

デリカは稲本が運転し、ステップワゴンは川口が運転席についた。


「イナ。天国か地獄かは知らんが、出発しよか。」


稲本は静かにアクセルを吹かして車を出発させた。稲本が車のヘッドライトを点灯しようとした時


「イナ!」


声をかけられて稲本はビクッと反応しブレーキをかけて倉本に顔を向けた。


「な・なんだよ。」


「だいぶ緊張してるけど大丈夫か?街ん中は十分明るいからヘッドライトは止めとこか。多分、ゾンビがたかってくるで。とりあえず、車ん中にいてたら安全なんやから、落ちつかな。事故ったりして横転や衝突すんのが、いっちゃんヤバいからな。」


「お、おう。了解や!ほなら、行くで。」


再度、アクセルを吹かしてデリカは地下駐車場を登り、車道に躍り出た。


「………………………」


「な・なんや?ビルん中のゾンビと感じがちゃうな?」


あきらかに街行く人々はゾンビには見えなかった。


「倉本!こいつら、……ほとんど無傷やで?生存者ちゃうか?」


本田が車の窓に顔をへばりつかせるように、車に向かってノロノロと近づく人を観察していた。


「わからん!せやけど、酔っ払いにしてはおかしい。…………!?」


倉本は助手席に向かってくる女性を正面に見てその目に釘付けになった。


「イナ、本田。こいつら…目ん玉、白いわ。黒目があらへん。目ん玉、白濁しとる。何があってもドア開いたらアカンで。」

「倉本!ヤバい。中澤達が……」


稲本が叫んだ。


中澤車


「中澤、外にいてる人達誰も怪我してへんで。」


歩くより遅いスピードをコントロールしながら、川口はキョロキョロとすれ違う人々を見ていた。


「せやけど、酔っ払いみたいに足取りは覚束いてないな。みんな同じ感じやで」


阿部も窓から外を覗きながら言った。


彼等は、ゾンビ=傷だらけね死者としか認識がなかった。


「まぁ、倉本らが動かん限りは、黙ってついていくしかないやろ。」


中澤も、外を眺める目を離さずに答えた。


その時、道の曲がり角から女性が飛び出したてきて、中澤達の車を見つけて助けを叫んでいた。


周りから、覚束ない足取りの人々がその女性に近づきつつあり、女性は絶叫していた。


ガチャリとドアがあき、バットを手にした阿部が外に飛び出した。


「助けるぞ!」


中澤が止める間もなく、阿部は脱兎のごとく女性に近づき


「落ちついて、助けにきたから。」


怖がらせないように声をかけて近づくと、逆方向からも酔っ払いが近づいてきた。


「おっさん!周り見張っててな」


酔っ払いに声をかけて、バットと置き女性を落ち着かせようと声をかけた


「クソっ!何やってんだあいつは!平山来い!」


阿部を追いかけて、中澤と平山がバットを手に車から降りた。


中澤は一直線に阿部に向かったが、平山は車の斜め後方から近づく人影を不審に思い、そちらに身体を向けた。


「大丈夫!大丈夫!ほら何も持ってへんやろ!」


阿部は、自分に害がないことをPRするように、大袈裟に両手を広げて、何も持ってないことを強調した。


安心したのか、叫ばなくなった女性の肩に手を添えた時、その阿部の手を酔っ払いがきつく掴んだ。


「おっさん!冗談やってる場合ちゃうで……」


酔っ払いを睨みつけようと顔を上げた阿部は、白濁した目を持つ酔っ払いを見た瞬間に、酔っ払いと信じて疑わなかった自分を呪った。


酔っ払いは、顎が外れるかと思うくらいに口を開け、阿部の右手にかじりついた。


信じられない痛みが阿部を襲った。


「うがぁぁぁぁ~」


そこに、中澤が突入し、渾身の力でバットを酔っ払いの側頭部にヒットさせ酔っ払いが吹き飛んだ。


「ざあまあみろ!」


振り向きながら、地面をのた打ちまわる阿部に


「阿部!大丈夫か。」


阿部を抱き起こしながら右腕を見た中澤はあまりの惨さに、吐き気が込み上げてきた。阿部の、右腕の肉が完全に咬み千切られていた。苦しみ悶える阿部を必死に抑え、何とか車に引きずろうとした中澤は、女性のさらなる叫び声に気づいて、女性を見た。女性は中澤の方を見て大きく目を見開いていた。見開かれた目の意味をしり、慌ててバットを握りしめて振り返りかけた中澤の首に人が咬みついてきた。一気に首の頸動脈ごと咬み千切られた。中澤は苦しむことなく、30年の生涯を終えた。


阿部と中澤が向かった方角から阿部とおぼしき叫び声が聞こえ、思わず後ろを振り返った平山は、転がり回る阿部を必死に引きずろとする中澤が後ろから飛びかかられて首を喰い千切られる瞬間を見た。


声にならない叫び声を上げ、一目散に車に走りかけたが、いつの間にか4本の手が身体にまとわりつき平山は動けなかった。


「離せ!クソッタレ、離せ!」


180センチ・90キロ。メンバーの内唯一ラガーマンらしい体格と見合うパワーを持ち、試合ではまさしくちぎっては投げのパワーの平山が満身の力で抵抗したが、2人の酔っ払いはやすやすと肩と脇腹に激しく歯をたてた。激しい痛みに耐え、それでも車に向かう平山の前にもう1人酔っ払いが立ちはだかった。


稲本の叫び声と同時に、倉本と本田は車を飛び出したが、数メートル走ったところで、酔っ払い(ゾンビ)に取り囲まれた。


「俺が食い止めるから行ってくれ。」


本田が叫びながら、一番近くにいたゾンビに向かって、木刀を上段から頭に振り落とし、振り向きざまに、横手のゾンビの首に斜め上段から木刀を振り落とした。


倉本も3体のゾンビに行く手を遮らていた。


倉本は、まず正面の一体を上段から木刀を落とし頭を粉砕し、右手のゾンビの首に向かって渾身の突きを放った、木刀がゾンビの首から頸椎を貫いたところでゾンビに蹴りを入れ、木刀を抜きながら、左から来るゾンビの足を木刀でなぎ倒し、倒れたゾンビの顔面に木刀を突き刺した。


しかし、倒している間にも続々とゾンビが現れ、じりじりと本田と倉本は後退を余儀なくされた。


「本田!駄目だ!車に戻るぞ!」


「馬鹿言うな!見捨てるのか?倉本!」


「仕方ない!この数相手にしてたら、木刀が保たへん。」


2人がゾンビと戦いながら、中澤達を救い出そうとしている時。


「阿部っ!中澤っ!」


のたうち回る阿部と首から鮮血をほとばしている中澤を、車の運転席から為す術なく見ていた川口は、平山を襲った残りが車に近寄ってきていることに気付かずにいた。

「!!…平山は?」


平山のことを思い出し、振り向いた川口の目に飛び込んできたのは、2体のゾンビが不器用にドアから侵入としようとしている姿だった。


「やべぇ」


慌てた川口は車を発進させゾンビを振り落とそうと、右に左にハンドルを切った。不運だったのは、川口の冷静な判断だった。


これが、普通の人であればハンドルを右に切った瞬間にバランスを崩し車外に放り出されるか、何かをつかみ踏みとどまろうとし、そこに、逆方向の左にハンドルを切られてバランスを崩し放り出されるのであるが……


ゾンビには、ただ獲物に真っ直ぐに突き進むことの知能しかなく、自身が怪我を恐れて行動を躊躇することもなかった。侵入しようとしたゾンビは右にハンドルを切られた時に、向こう脛を折りながら車中に突っ伏した状態になり、起き上がろうと足掻いたところにハンドルが左に切られて勢いよく身体が浮き上がり、浮き上がる途中に獲物(運転席の川口)があり必死に掴みかかろうとし、その脅威的な握力で川口は掴まれてしまったのだ。あまりの痛みに川口は運転を誤り、ビルの壁に追突し気を失ってしまった。川口が次に意識を取り戻したのは、左腕に食い込んだゾンビの犬歯の痛みであった。


「ぐわぁぁぁっ!痛い!痛い!離せ!離せ!あぁぁぁぁぁぁーっ。痛いよう。母ちゃん!母ちゃん!いてぇよ~~」


衝突の衝撃で川口の下半身は潰れた車に挟まれる形となり、逃げることも叶わず何度も何度もゾンビに身体を噛み千切られて絶命していった。


何とか、車にたどり着いた倉本と本田は、阿部と助けようとした女性、そして中澤に無数のゾンビが群がる光景と、ステップワゴンがビルの壁に激突し、運転しているはずの川口がでてこない光景を、黙って見ているしかなかった。


「うぉぉぉぉぉ--」


本田がとめどなく絶叫し続けていた。


由紀と奈緒美はビル内で料理人の岡崎がゾンビの群れに飲み込まれた時点から自らの意識を閉ざしていただけ車内の喧騒は幾分ましであった。


稲本は、歯を食いしばりきつくハンドルを握り締め、叫びたい気持ちを必死にこらえていた。

その稲本の肩に、倉本はそっと手を置きそしてはっきりと意志が伝わる力を込めて


「イナ、行くしかないんだ。車を進めよう。」


更に倉本はバックミラーで、本田と女性達の様子をうかがった。


本田は、ワナワナと身体を震わせ泣き続けておりその横で一番年上の女性アミが優しく肩をさすっていた。ふとアミの視線が上がり、バックミラーの倉本の視線と絡み合った。倉本は静かに目を閉じ軽く頷いた。心得たのか、アミはその胸に本田を優しく抱きしめた。


3列目に座っている2人の若い娘達は、変わらず放心状態であった。


(稲本も本田も限界やな。女性達も2人は限界を越とるし、もう1人もギリギリってとこか?安全に休息がとれる場所を探さんと崩壊やな。どうする?)


「倉本!」


稲本の呼ぶ声に倉本の思考は中断された。


「どうした?」


「渋滞?って言えばいいんか?車が放置されてて通られへん。どないすんねん?」


ブレーキを踏みながら、周りをキョロキョロと警戒しながら稲本は答えた。


(なる程な、車で移動すればお決まりのパターンやな。堺筋まで7~80メートルってとこか、ここからみた限り堺筋には車がなさそうやな!やるか?)


「イナ、歩道。走れ!」


「ほ・歩道?ゾンビいとるぞ」


「轢いてまえ!」


稲本はハンドルを切り歩道に車を乗り上げさせた。歩道に乗り上げたデリカのハンドルを握る稲本は残忍な笑みを浮かべて


「中澤、川口、阿部、平山!かぁーたきとったるからな!」


一気にアクセルを踏み込み、歩道にいるゾンビを軒並み轢きころそうと加速した。


「!」


アクセルの踏み込みに対して、タコメーターは勢いよく右に振れたが、デリカは前には進まなかった。


慌てた稲本はギアシフトを改めてDレンジに入っていることを確認しようと手を伸ばしたところ、シフトに置かれ倉本の手に触れた。いつの間にか倉本がギアをニュートラルに戻していた。


「落ち着け!イナ!」


倉本は冷静に言い放った。


「な・なんだよ。一気にに行けって言ったのはお前やろ?」


「一気に行き過ぎや!

何十と言うゾンビを轢いて、踏み潰して走ったら、タイヤに血肉と脂がこびりついてハンドルが効かんようになるやろ?ゆっくりと、車の左右に引っ掛けるように轢くんや!出来るだけ、轢き潰すんは避けるんや!」


「そ・そんなん分かっとるわ!」


「そうか!ほなら行こか?」


稲本はアクセルを軽く踏み込み、時速15キロ程度のスピードを維持しながら器用なハンドル捌きで、ゾンビを引っ掛けて行った。半数以上のゾンビは地面やビルの壁に頭を激しく打ちつけられる結果となり、起き上がることなく事切れていった。


僅か30秒足らずであったが、稲本は敵討ちの達成感を感じたられた。


堺筋には不思議と走っている車ななく、無人のタクシーなどが乗り捨てられたように点在していた。堺筋に出たデリカを当然のように左折させようとした稲本に


「イナ、キタ(梅田方面)の方がゾンビ多いとおもうで!」


「せやけど、堺筋は北行きの一通やで?俺点数ないねん!………って」


ブレーキを踏みながら稲本は笑い出した。


「法規守ってるもないか!さっきからポリさんも見かけへんもんな!上本町方面やったな!よっこらせっと。」


稲本は堺筋の4車線を目一杯使いUターンし逆走しながら千日前通に出て、点在する車をぬいながら東へ進んだ。


「もう少し先を左折して直ぐの角や!」


倉本が、避難できそうな場末のコンビニがあると言いここまでデリカを誘導してきた。


「なんか、雑居ビルと小汚いマンションばっかりやな?マンション、結構灯りついとるから生存者もいてるかもしれへんな!」


稲本はデリカを左折させながら、建物を見上げてつぶやいていた。


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