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絶滅種  作者: てつまる
3/7

始まり:セカンドパンデミック

2009年9月。


ワールドフューチャー製薬のワクチン開発チームが、長野県の地下水の未知成分を利用し、ワクチンを完成された。


翌10月より、世界各国の首脳や政府関係者、医療、軍・治安関係者に優先的にワクチン接種が開始された。

一般市民には遅れて12月のクリスマスから接種が開始された。


国家規模の接種計画はほとんどの国で、希望者には年内に接種されることになった。


誰もが予想だにしなかった事態を人類は自ら選択した瞬間であった。



2009年1月15日


大阪 難波ミナミ宗右衛門町のとある居酒屋。


「では、亡き友。黒田祐介と白井健一郎の冥福と。ここにいる全員が生き残れたことに感謝し乾杯!」


今回の発起人であり、関西浪速大学・第4期ラグビークラブ主将の、川口信一が乾杯の音頭をとり、テーブルを囲んだ男達も口々に「乾杯!」と、手に持ったジョッキをぶつけ合った。


テーブルを囲んだ7名はとても、ラグビークラブ出身とは思えない、どこをどう見ても普通のサラリーマンだった。


大学時代は、練習よりミーティングと称した飲み会とコンパに明け暮れた普通の大学生と何ら変わり映えしない、所詮は同好会のメンバーであった。


それでも、同好会として大学に認知されていたのは、メンバー全員が高校時代に他競技などで十分な実力を持ち、関西のラグビー同好会ではトップクラスの実力だったからである。


「黒田と白井がチャイナ・インフルエンザで死んでから1年たっちまったなぁ。」


阿部勇次が、ホッケを食べるわけでもなく箸でつつきほぐしながら、誰に言うわけでもなく話し始めた。


「結構、周りの奴達がバタバタと逝っちまってよ。俺の部署なんざぁ、15人もいなくなって、俺が最年長者になっちまったよ。まだ『命の水』が外国より早くに供給されたのが救いだよな。ヨーロッパの支社なんて、全員お陀仏だもん。」


「んだな。ほとんどの日本人が親類や会社の同僚や親近者の誰かを亡くしたんだ、最愛の恋人が!妻が!子供!がなんて話しに同情してたらキリがない状態だかんな。」


阿部がほぐしたホッケに箸を伸ばしながら、中沢剛はうんざりするように相槌をうった。


「まぁその分、12月と1月は、どんな会社でも法事休暇には文句言われねぇからな。でなきゃ、俺も12月にじいちゃんと母ちゃんの法事で休暇とったばっかだったから、連続で大阪に帰ってこれへんかったわ。」


「しかしよ。今年もチャイナ・インフルエンザのパンデミックだってテレビで言われてるだろ、お前らはワクチン接種したかのか?」


稲本隆之が、僅かジョッキ1杯で顔を真っ赤にしながら一同を見回した。


「そうそう!お前。ワクチンは打つな。いざと言う時は『命の水』(長野県の地下水)飲め。って送ってきたよな。」


川口が返事をした途端。


「俺んとこにも来たぜ」


「俺も」と……


全員に送られていた事が判明した。


「何だ、お前。全員に送ってたんかよ。」


本田信正は、稲本の肩をバンバン叩きながら最期には、肩をがっしりと掴み息がかかる程顔を近づけ小声で続けた。


「お前、長野のワールドフューチャー製薬に転職してたよな?水の発見もワクチンの開発もあそこやんな?何ぞ、秘密でもあるんか?

まさか、またの名をアンブレラコーポレーションとか言って、変な研究してへんやろな?」


「の・信正~。お前、30になっても、バイオ君やってんのか?アリスやアンデットなんか、ゲームの世界やって!」


酒臭い息から逃れつつ言い訳を言った稲本は、一同の視線が自分に注がれている事に気付いた。


「稲本!冗談なしやで。何か知ってるんか?あの荷物とあの指示は流石に不気味やで。

俺んとこなんか、嫁さんや子供や嫁さんの実家に、ワクチン止めさすので離婚騒動やねんど!

ただでさえ、毎日地雷源を歩いてるみたいな家庭状況やねんからな。」


倉本宗一郎が呆れ顔で言い放った。


「俺も、4年ぶりに出来た彼女、看護士なんだけど、一生元気でいて欲しいから、なんて言われて断れかったんだ。

イナには悪いと思ったけど……」


平山 一が頭を掻きながらペコリと頭を下げた。


「いや~悪い。この通り謝る。」


稲本はテーブルの上で上半身土下座の形で謝った。


「会社の先輩から妙な話しをされたもんで……何となく嫌な感じでさ。まぁ、『命の水』があれば助かると思って、その後バタバタしてて事情連絡もしなかったし……すまん。」


「すまんじゃあかんわ。その妙な話しとやらを聞かせてもらわな、みんな納得せえへんで!」


本田が逃がすものかと、たたみかけようとした。


その時、ガヤガヤとしていた居酒屋の雰囲気がザワザワした雰囲気に変わり始めた。


「おい!携帯のワンセグで他のチャンネル見てみい!」


「なんやこれ?新種の宣伝やろか?むっちゃ、キモイで、よく放送出来るよな。」


あちらこちらから、囁きではない声が漏れ始めていた。


「おい!何か変な感じやで」


平山が辺りをキョロキョロしながら不安げに言った。


倉本が、ザワザワしている周りのテーブルにならい、携帯電話を操作しながら、ワンセグテレビを立ち上げた、最初に映し出された画面を視て、思わず立ち上がってしまいテーブルにある、数々の皿やジョッキグラスの幾つかが、床に落ちて粉々に弾け飛んだ。


「…………………!?」


倉本の突然の行動にびっくりしながらも、阿部と川口が倉本の左右から、携帯の画面を覗き込んだ。


画面には、逃げ惑う人々とそれを覚束ない足取りで追いかける、血だらけで見るからに死人そのものがところ狭しと歩き回っていた。


阿鼻叫喚の音声から、リポーターらしき人物の音声が入り、画面が女性に切り替わった。


リポーターは車の助手席にすわり話し始めていた。後部座席からカメラマンが撮影しているらしかった。


「2時間程前に、ここ東京のサラリーマンの憩いの場所、新橋で原因不明の事態が発生しているとのことで、我々取材班は来ております。」


ドン!と音がして、車のフロントガラスに血だらけの手が現れて、そのまま、何度もフロントガラスを叩き始めた。


「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!いやぁぁぁぁぁぁ!もういやぁぁぁぁーーー。」


必死に理性を保っていたリポーターの理性が吹き飛んだ。


「林さん!く・車だして!」


運転席の人物の左手を掴みブンブンと振りながらリポーターは死に物狂いで


「早く!早く!私達も食べられちゃう!早く!」と叫び続けていた。


「林!久美ちゃんを黙らせろ!黙らなかったらハンカチでも口ん中に突っ込め。」


画面が荒々しく揺れ動き、運転席と助手席の間が映し出されて、激しくもみ合う手と音が続いた。


「う~・う~」


と言う声と、ダッシュボードを蹴り上げているらしい音の中。


「視聴者の皆さん。」


うわずった、震えた男性の声が語り始めた。


「カメラマンの高槻です。リポーターがご覧の状態なので、私が喋ります。難しいことはわかっておりません。」


一旦言葉が途切れて、大きく唾を飲み込む音がした。


「人が襲われてます!襲っているのも人です!但し、襲っている人間は、一様に、大怪我をしているか、死者としか思えない者ばかりです!まるで、映画のゾンビ、アンデットと同じような状態です!

決して、ドッキリ番組や映画の宣伝ではありません!」


「今、新橋で起こっている事態をライブでお伝えしています!

我々、取材班のメンバーにも噛まれた者がおります。手当てのため、我々は現場を放棄しますが、視聴者の方々!これは事実だと信じて下さい!

局からの連絡では、都内各所、いや全国で発生しているとのことです!以上です。」


「林!出せ。氏家を病院に連れ行くぞ!……構わんゾンビなんざぁ挽いちまえ!」


画面は突然、スタジオに切り替り真っ青な男性アナウンサーが映っていた。


「マ・マジかよ!?これ?」


画面の覗き込んでいた、阿部は力なく椅子に座り込んだ。


川口は声もでていない。


「みんな!出るぞ!」


倉本が一同に言い放ち、伝票を持って、レジに急いだ。


「まだ、注文の品来てないぜ!俺のカラアゲがまだ来てないんだってば!」


ズンズンと歩く倉本に川口がフラフラと着いていく背中越しに中澤が文句を言った。


「つよし……ゾンビだ。街ん中じゅう、ゾンビがうようよしてんだ。もう終わりや。」


力なく椅子に座ったままの阿部が唸った。


それを聞いた本田が、隣のテーブルで、ブルブルと震えながら、携帯の画面を食い入るように視ている、OLから携帯電話をむしり取り、画面を数秒眺めて


「ヤバいぜ。阿部、林、中澤、稲本。倉本を追っかけるぞ!早くしろ!」


本田が、残ったメンバーの尻を叩いて、出口に向かった。レジ回りは、支払いを済ませて帰ろとする連中で満杯状態であった。


「倉本!出るぞ!これレジに無理やり置いとけ!」


万札を1枚。倉本に押しつけて、本田はラッセル車なみに人混みを掻き分けて進んで行った。


倉本も、伝票と万札をレジの横に放り投げ、川口を引っ張り本田を追った。


「お・お客様。会計がまだ……お釣りが・・・・・」


伝票と札を眺めて、店員がうろたえていた。


エレベーター前に全員が到着したところで本田が誰になくに言った。


「わからんけど、なかりヤバいんじゃないか?。」


「兎に角、エレベーターで1階に!」


平山がエレベーターのスイッチを触ろとした瞬間に、倉本が平山の腕を捕まえた。


「待て!エレベーターの中から出て来たらどうする?本田、お前、この手のゲーマーだろ?どうなんだ?」


「倉本~~。ゲームと現実は違うわ。だって俺、手ェ震えてるし……」


本田が自身の両手を凝視していた。


「わかった!なら、試合と一緒だ。俺が仕切るってことでいいな?・・・・・・・本田は、意見があれば頼む。お前の知識は多分役に立つと思う。ちなみに、武器として最適な条件は?考えられるだけ挙げてくれ。」


全員を見渡しながら、異論が無いことを確認し倉本は通路の左右を注視した。


あまり、大きくない雑居ビルの居酒屋である。通路のあちこちに、 色々なものが雑然と積み上げられていた。


倉本はしばし考えを巡らせて、一同に指示を出し始めた。


「エレベーターはヤバそうだから、階段で行く。3階だから外までは僅かだしな。武器になりそうな物を捜すぞ!」


「のんびり探してる間はないからな!その内店からどんどんと客が引きはじめる!そうなると、間違いなくエレベーターが作動するぞ!本田!武器の目安は決まったか?」


意外と冷静に倉本は指示を出していた。


「わからへんけど…バットとか……」


なかなか、思考が一つにならない状態で本田は答えた。


「こんなところにバットなんかあるかぁ!」


中澤が、通路にある荷物を片っ端から、荒らしながら怒鳴った。


「おい!ここ。倉本!こっち来てくれ!」


稲本がロッカーを開けながら倉本を呼んだ。


ロッカーの前に来た倉本は、小さく口笛を鳴らし


「イナ!でかした!」


と嬉しそうな声を出した。ロッカーには、店舗の防犯用なのか、2本の木刀があった。


一振りは普通の木刀。もう一振りは、鉄の芯が入った素振り用の木刀だった。


「本田!」


倉本は叫びながら、本田に木刀を放った。


木刀を握った本田は片手でブン・ブンと2回振りごたえを確認して、ニヤリと笑った。


「集合!」


倉本が一同を集めて、それぞれの品を確認した。


中澤と阿部が木製のモップ。


稲本はステンレスの物干し竿。


平山と川口は何も見つけられなかったようだ。


しばし、倉本は考え、平山と川口に、空のビールケースを持たせた。


「よし!降りるぞ!

先頭は平山!ビールケースを楯にしてゾンビを威嚇!平山のバックアップは本田!続いて、阿部、俺、中澤、稲本、川口。

川口と稲本は、後方注意な!役割は平山と本田の関係で!阿部と中澤は、漏れた奴の相手!質問は?」


倉本の指示に呆気にとられた一同は……店の入り口から、ガヤガヤと人が流れ出るのに触発されたかのように、階段の入り口に向かって走り出した。


防火扉を兼用した入り口の前で


「中澤、扉、ゆっくりと開けくれ。本田と俺が入るから」


倉本は本田をチラリと見た。


本田は既に、木刀で突きを入れれる体制にして構えながら


「俺が最初に行く」


中澤が恐る恐る手前開きの扉をゆっくりと開けていった、丁度、人1人分開いた途端に本田が 躊躇なく扉に飛び込んだ。


本田が扉の外で構える時間を見越して、3秒ほどして倉本が飛び込んだ。

10秒程して、倉本が顔を出して、一同を手招きし、全員が階段の踊り場に揃った。


人差し指を口元に当てて


「出来るだけ静かにな。音はたてるなよ。」


一同は階段を降り始めた。出来るだけ音をたてないようにしながらも出来るだけ早く降りようとしていた。


先頭の2人が2階の踊り場についた時に、本田が平山の肩を叩き止まるように指示し、後ろを振り向き倉本に来てくれと、手招きをした。


「どうした?」


本田の横まで降りて来た倉本は小声で尋ねた。


本田は、踊り場にある窓と2階の店舗スペースを隔てた防火扉を順に指差して


「条件が全然見えねぇってのはヤバくないか?まず、外の様子を窓から確認せえへんか?」


「そうやな。確かに外が安全とは言えへんしな。」


倉本は後ろを振り向いて、階段の途中にいる仲間に踊り場に降りてくるように指示した。


「何?」


「どないしたん?」


踊り場に揃ったメンバーは小声で口々に、倉本と本田に質問を浴びせた。


本田が説明しようとした瞬間。


「携帯。通じねぇぞ!」


平山が唸った。


一同は、それぞれに携帯電話を引っ張り出し、アンテナ表示を確認して、思い思いに電話をかけ始めた。


「呼び出し音だけや」


「110番も呼び出し音だけや」


「じ・地震の時みたいな、一時的に集中してるだけやんな?」


平山は真っ青な顔で、メンバーを見渡し同意を求めた。


「みんな、どこの携帯使ってる?」


中澤が全員の携帯を覗き込んで


「全滅かよ!」


と天井を仰いだ。


「よう!そんなことは後回しで、まずは安全を確保してから考えようぜ、扉がガンガン叩かれてるし」


本田が馬鹿らしそうに蹴散らす言い方をしたことが気に入らず平山が本田に突っかかった。


「お前は心配する人おらんのか!」


「離せ!」


本田がスーツの襟を掴んでいる平山を突き飛ばし


「心配ってか?電話したからって助けれんか?それより、まずここから出ることやろが!」


扉の向こうからは更に叫び声と叩かれる音が増していった。


倉本と本田がドンドンと叩かれる扉に近づき耳を済ますと、間違いなく助けを求める声がした。


とっさに、本田がドアノブを引いた………


「あかへん!?扉、開かへん」


何度もドアノブを回しても開かなかった。


「!」


「どけ!変われ。一気に開けるからな。本田頼むぞ!」


倉本が扉に飛びつき、ドアノブの開閉ボタンを解除して一気に扉を押した。


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