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灰春論理  作者: 透瞳佑月
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2話

 深夜までロックとアニソンを交互に流す再生リストをデスクトップから再生しながらネットニュースを見る。僕の街で起きてる通り魔事件の新たな犠牲者が出た。通り魔の「変身バット」というあだ名の由来は、犯人がどこからともなくコスプレ姿で現れて、金属バットで無差別に人の頭をぶん殴ることから来ている。被害者は奇抜な衣装に気をとられて詳しい特徴が思い出せない。これで被害者は二十五人。重傷者十二名、意識不明八名、死亡者五名。

 金属バットに対しての世間の認識が狂ってるんだわな。ヘルメットや自転車と同じ様に売られてて、バットケースに入れて持ち歩けば「野球が趣味なのかな?」くらいにしか思われないで雑踏に溶け込めちゃうこの世界が馬鹿なんだよ。僕には武器にしか見えない。


 3年前、僕らのはじめましてを思い出す。    


 人を殺そうと思ったときに、あまりにも簡単に手に入ったあの金属バット。


 今季の異世界アニメの時間になった。


 アニメ。アニメ。


 温泉回でケモミミ少女や巨乳のエルフが肌もあらわ。視聴者の気分が良くなるためだけの映像を眺めていたら、頭がぽけーっとしてきた。これなんだよな。ディス・イズ・アニメ。ANIME。


『注文通り』な最高のアニメが終わってベッドに寝転がる。


 倒れて死んだフリしか出来ないでいると、脳が腐って溜まった膿が身体を毒虫に変えていく。


 思い浮かべるのはさっき観たアニメの裸体。アニメ美少女を思ってオナニーをしていたはずなのに、射精するときに考えていたのはハルヒのおっぱいのことだったから、みんな死んじゃえ。




 早波玲の嫌いなところを考えながら保健室に向かっていた。


 早波玲は精神的な問題から保健室登校の女の子。


 窓際のベッドでノートや教科書や筆記用具と一緒にいつも眠っている女の子。


 訪ねれば彼女はいつも変わらないでただそこに居る。変わるのはこっちだけなんだ。それは一人で来ていたり、誰かと一緒に来ていたり、死ぬほど死にたかったり、登校中に蓋の空いたランドセルを背負って走る小学生を見かけたあとだったり、とにかくこっちがどんなときでも、彼女はいつもあそこにいるんだよ。


「僕が来たぜ」


「サク。入っていいよ」


 夜みたいな色をした長い髪。


 壊れそうなほど華奢な躰。


 消えちゃいそうなほど白い肌。


 孵化したばかりの天使は今日も世界で一番綺麗な女の子としてそこに居た。


「さっきね、良い夢を見たんだよ。トレンチコートのおじいさんにサジタリウスに住む孫まで手紙を届けるよう頼まれたから、特急列車に乗って香港からニューヨークに向かってね。途中で手紙が無くなったから、待ち合わせ室からサクに電話をかけて手紙の中身を読み聞かせたんだ」


 そう言ってレイは笑顔を咲かせる。宇宙から星が一つ消える音がした。


 最大最強にアイ・ラブ・ユー。世界中のラブソングを集めたって足りやしない。大好きで、愛してる。死にたくなるくらい愛してる。こうやってすぐワケが分からなくなっちまう。マイスリーなんて目じゃねえよ。


 早波玲って女の子はさ。保健室のベッドよりガラスケースかなんかにそっと置いておいてさ、百年経っても千年経ってもなにも変わらないように、誰にも手が届かないように大事にしまっておかれるべきなんだよ。そんなことは出来ないのは知ってるよ。でもさ、やっぱりそう在るべきなんだって思うな。


「サク、眠いよ。お話を聞かせて」


 僕は目をつむったレイにお話を聞かせる。通り魔もいじめっ子も居ない、優しくて温かいものだけで出来た世界の話を。


 まだ太陽は沈んでいないのに、窓の外には合成写真のような月が浮かんでいた。

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― 新着の感想 ―
引き込まれました。 内容しっかり書かれているので 私のお気楽作品とは違く深いです。 ゆっくりしっかり見させていただきます。 ブクマ 評価いたしました。
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