転生公爵令嬢は婚約破棄を目指す──が、それが些末な出来事になるくらい、卒業パーティーがカオスに陥った件
※行間以降、コメディ的には多分蛇足です。
お好みでご高覧下さい。
「ケイシー・ホランド公爵令嬢、前に出よ!」
卒業パーティーの会場である、学園の庭園広場。ド派手な赤いドレスを身に纏った男爵令嬢を腕に引っ提げてそう宣ったのは、私の婚約者である第一王子殿下。
(とうとう来たわね……!)
私はそう思い、内心でほくそ笑みながらも淑女の仮面を被り、恭しくも堂々と足を踏み出した。
──私、ケイシーには前世の記憶がある。
顔だけ美形でどうしようもないクソ坊っちゃまの後ろ盾として公爵令嬢の私と殿下の婚約が決まった際、初顔合わせで殿下に『ブス』と言われた私は、突如前世の記憶を思い出したのだ。
鏡に映るはキツい顔立ちの美少女──前世知識が告げていた。
自分の役どころはおそらく『悪役令嬢』だ、と。
実際にそんなサブカルのテンプレ通りに行くかどうかは別として。
どのみちこのボンクラ第一王子がウチの権力と国王夫妻の溺愛ムーブで王太子になるとか、冗談にも程がある。
良識ある一国民としてなんとしてでも阻止すべき案件。
それにせっかく美少女公爵令嬢に転生したのだから、私も美少女達に囲まれたキャッキャウフフな学園生活を満喫したかった。
なので一応ヤツの『テンプレムーブde 王太子♡』防止策として、婚約時に『王太子となるまで妃教育は受けない』『不貞した場合、相手有責で速攻婚約破棄』という文言を入れた書類を忍ばせておいた。
あと学園生活中の護衛兼監視役として、私には王家の影が付いている。
(案の定コレとは……テンプレにも程があるわ。 でも──だからこそ)
最早こちらには一分の隙もないわ!
冤罪をふっかけようとしても無駄無駄無駄ァッ!
そんなことも知らず、ドヤ顔をしている殿下と怯える演技真っ最中の男爵令嬢。
(王命を無視し男爵令嬢如きと不貞の上、冤罪をふっかける気満々ね。 ふっ、自滅ざまぁルートだわ)
さあカモン! 婚約破棄!
返り討ちにするまでもなく、ざまぁされなさい!!
「きゃっ! で、殿下ァ……アタシ怖いですわァ~」
ふたりの前へと私が歩み出すと、男爵令嬢シャーロットがよりプルプルしながら殿下に引っ付いた。
……しかし男爵令嬢赤いわ~。
名前も確かシャアロットだし、なんかこう、三倍速で動きそうで嫌だわぁ~。
余裕のあまり、そんなどうでもいいことが脳裏に過ぎる。
やんごとなき血筋の赤い彗星と略奪男爵令嬢如きを並べてしまったことを申し訳なく思いつつも、どうしても浮かんでしまう『さあ星のように堕ちるがいいわ! 三倍速で(笑)』という呪いの言葉を隠すように扇子を開き、ふたりに対峙する。
「貴様のような傲慢な女は我が妻として相応しくない!」
ふっ……残念ですわね!
傲慢なのは顔立ちだけでしてよ!
学園で淑女として慎ましやかに、かつ協調性豊かに女の子達とのキャッキャウフフを楽しんでいた私の評価は、傲慢とは程遠い。
顔しか見てやがらない証拠だが、まあ本人が顔しかいいところがないので仕方ないかもしれない。
さあさあ、それより婚約破棄宣言よ!
早く早くゥ!!
「私は貴様との婚約を──」
よっしゃキター!
──と、私が思った時だった。
バターンッ!!
激しい音を立てて、一人の令息が倒れたのだ。
「だ、大丈夫か?!」
「うう……なんてことだ……!」
皆の視線は完全に、モブだった筈の急に倒れた令息へ。しかも彼は、打ち付けた頭を擦りながら、こう宣い出したのだ。
「俺は今……前世を思い出した!」
「「「「エェェェェェェェェェェ?!」」」」
なんとモブ令息まで前世を思い出したらしい。
まさか……
彼も異世界転生者?
そしてもしや、物語にありがちな私を救済してくれるイケメンキャラなのでは!
でも失礼だけど、高位貴族でもなければお顔もモブみ溢れる感じよ?!
予想と現実の乖離に困惑したが、案の定その予想は外れていた。
倒れた彼の前に駆け寄り現れたのは、下級生の素朴で可憐なご令嬢。
「ようやく思い出してくれたのね!」
「ああっ……?! 君は俺の前世の妻!! 待っていてくれたのかハニー?!」
「もう離さないわダーリン!」
前世の世界はわからねど、なんか違うタイプの転生者らしいことが判明。
なんで今なんだ。
ひしっと抱き合うふたりに、呆気に取られながらもちらほら巻き起こる拍手。
感動的ダナー……ではなく!!
幸せなのは結構だけど、婚約破棄の空気が台無しじゃないの!
「で?! 殿下! なんですの?!」
「あ、ああ……」
無理矢理話を戻した私に、殿下は婚約破棄宣言をするべく、気を取り直してゴホンとひとつ咳をする。
「私は貴様との婚約を──」
さあ、今度こそ!!
と、意気込んだ私だったが……
「「ッ!?」」
私と殿下の間にナニカがシュッと横切り、それを遮った。
斜め上空から突然現れた『ナニカ』はなんと、メッセージカードの付いた、一輪の深紅の薔薇。
ザワつく周囲──最早、皆の注目は謎の薔薇へと移っていた。
ちょっとしっかりしてよ男爵令嬢!
赤面積では圧倒的に勝ってるくせに、注目を薔薇に持ってかれてるじゃないの!!(※他責)
「おふたりとも! お触りにならぬよう!」
そう言いながら慌てて駆け付けた殿下の側近騎士が、薔薇に付いていたメッセージカードを拾う。
『またもや邪魔が入った』と思いつつも、やはり気になるので横から覗いてみた。
「──こ、コレは……!」
「……ええぇ?」
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生徒諸君、卒業おめでとう!
君達の輝かしい未来を祝いつつ。
国宝『女神の涙』は私が貰い受けた。
怪盗紳士・グラスマン σσ¬
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それは今、巷を賑わす怪盗紳士・グラスマンからの予告状であった。
いや、『貰い受けた』とあるから予告というより犯行声明か。
怪盗紳士・グラスマンは貴族ばかりを狙う眼鏡の怪盗。眼鏡の下の素顔は疎か、『紳士』と名乗ってはいるものの実際の性別すら不明である。
予告状はいつも、お茶目にもサインの横に手描きの眼鏡が添えられている──
なんか知らないけど、『怪盗〇〇』ってそういうの好きよね~。
大体予告状とか犯行声明とかさぁ……私とか『要る? それ』って思っちゃう方よ。
しかもわざわざポップなイラストとかでオリジナリティを醸して主張してくるの何なの……
承認欲求というか自己顕示欲強すぎな件。
「っていうか『女神の涙』ってなに? そんなモノ学園にあるの?」
「さぁ……?」
私と側近騎士が、目を合わせて疑問を口にする。
「ふっふふふふふ……はーはっはっは!!」
突如聞こえてくる、含み笑い。それは自信に満ち溢れた高らかな笑い声に変わり、パーティー会場となっている庭園へと響き渡る。
「レディースアンドジェントルメン!」
学園の時計台の屋根の上。
パーティー参加者よろしく、派手だが普遍的な正装のコートに身を包んだ男がスラリと立っていた。
首元にはヒラヒラと揺れる真っ白いジャボ。コートと同じ色のリボンで、ひとつに纏めた長い髪が風に華麗に靡き、陽光を背にするその顔は確認できず、眼鏡だけが怪しく光を放っている。
その佇まい──まさに『怪盗紳士・グラスマン』!
自己顕示欲の塊ィ!!
だから『女神の涙』ってなによ? という疑問はグラスマンのこの言葉によって判明していくことになる。
「栄えある君達の卒業パーティーで流されるのは、美しき惜別の涙であるべき……よって『女神の涙』はこの怪盗紳士が頂いた!」
なんかよくわからんへ理屈をカッコよく宣う怪盗紳士・グラスマン。
そして眼鏡クイッ。
ザワめきドヨめく中に紛れる、黄色い悲鳴。
あー、うん。
顔はわからんけど確かにエンターティナーというか、なんかファンがつきそうな感じだもんねぇ。(※他人事)
特に眼鏡紳士スキーには堪らないに違いない。
そんな愉快な怪盗眼鏡紳士を眺めつつ。『ああもう婚約破棄どころじゃないな』という諦念とともに、私は横にいる騎士に話し掛けた。
「捕まえなくていいの?」
「いや~俺の職務は護衛なんでぇ……正直勘弁して欲しいっていうか。 ぶっちゃけ側近護衛だって、なりたくてなったワケじゃないですしねぇ~」
「確かに正直」
「ご令嬢を見習ってるんすよ(笑)」
「あら(笑)」
殿下の側近護衛騎士が同志だった件。
王家の溺愛ムーブ馬鹿被害者の。
だが連帯感による小声本音トークをしているうちに、私達は気付いてしまったのだ。
「えっ?! あ……ああっ!!」
その横で、加害者である王家の溺愛ムーブ馬鹿があからさまに狼狽えていることに──
「ない、ないッ! ないぞッ!?!?
婚約破棄後、シャーロットへのプロポーズに使おうと思って宝物庫から持ってきた指輪が!!」
「「…………」」
察し。
どうやら『女神の涙』とは国宝の指輪(についてる宝石?)のことらしい。
「殿下。 それは怪盗が盗む前に、殿下が盗んでいたっていうことでよろしいですか?」
「ち、違う!! ちょっと借りるだけのつもりだったんだ!」
「男爵令嬢へのプロポーズに?」
「そうだ!」
殿下の脳ミソは概ねひとつしか物事を考えられないので、この混乱に乗じて不貞行為の言質を取っておこうとすると、アッサリ犯行を吐露してくださった。
つーか最初から滅茶苦茶語ってたしね。
お前は二時間ドラマで追い詰められた犯人かよっていう程わざとらしい台詞回しには、むしろこちらが驚きを禁じ得ぬ。
よ~し!
予定とは大幅に違うけど、これで婚約破棄確定よ!
「やだなぁ、俺にまで責任及んだら」
「大丈夫じゃない? 護衛であって保護者じゃないんだし。 でも無能な上司を持つと苦労をするわね~、もう辞めちゃえば?」
「辞めても次がなぁ……あ、公爵家で雇って貰えません? 俺、実家と折り合い良くなくて」
「それはお父様と相談しないとだけど、私個人ならいいわよ。 慰謝料も入ることだし」
「マジすか! いや~言ってみるもんだ」
ご機嫌な私が、ブラックな職場でのこの先に不安がる騎士のリクルートにノリで手を貸すと、騎士は舞台を降りる私に物理的に手を貸しエスコートした。
「では生徒諸君! アデュー!!」
「まっ、待てッ!!」
「そうよ! 待ちなさい!」
なんかまだ茶番は続いているが、舞台から降りた私は最早、お茶の間のいち視聴者。あとは観覧に徹するのみ。
お待ちの卒業生の為にも、率先してテーブルに並んでいる飲食物に口をつけることにした。
「貴方も食べなさいな」
「頂きます。 でもアレいいんすか?」
「だって正直『馬鹿を宝物庫に入れるから……』って感想しかないし」
「確かに。 怪盗紳士が持ってた方がマシなのでは、とすら……あっ不敬ですかね~(笑)」
「流石に不敬よ~(笑)」
私達が乾杯してると、チラホラお腹の減った卒業生達も飲食物に手をつけ出した。
そんな中でも、茶番は続いている。
そして新展開へ。
「怪盗紳士! ソレを返しなさい!」
「シャーロット!」
「アレは私の獲物よ!!」
「シャーロットッ!?」
なんとシャーロット嬢はドレスを脱ぎ捨て、素早い動きと驚くべき跳躍力で学舎の屋根へと跳び上がったのだ。
「シャーロットぉぉぉおぉぉぉ?!?!」
殿下、絶叫。
予期せぬざまぁ。
屋根を渡って時計塔の上を目指すシャーロット嬢。ドレスの下にはピッタピタのボディスーツ……さながら峰不〇子かキャッ〇アイ。
折角の三倍速みたいなスピードだが、生憎ボディスーツは赤くないので『赤い彗星』の二つ名は授けられないのが残念なところ。
そんな見た目と動きと吐かした台詞から、多分コイツも怪盗と思われ。
よもや略奪女の略奪目的が殿下や立場でなく『女神の涙』だったとは。
思わぬ伏兵が潜んでいたものである。
怪盗VS怪盗──なんかのアニメスペシャルかな? みたいな展開になってきたわね。(※完全に他人事)
私が飲食物を食べ出したのをきっかけに、楽団も勝手に演奏し出した。
怪盗VS怪盗の、この場面に相応しいBGMを。
やはり音楽があると違う、ドラマチックさが段違いだ。
音楽って素晴らしい。今まで嗜み程度にしか音楽への関心などなかった私も、これには『NO MUSIC NO LIFE』とはよく言ったものだ、と己の見識を改めるばかり。
シャーロット嬢がドレスの下に隠し持っていたレイピアで鋭く攻撃をすると、グラスマンは流麗にそれを受け流す。ふたりの戦いは美しく、さながらダンスに興じているが如し。
「キャー! グラスマン様~♡」
「だが、劣勢じゃないか?」
「ふっ、甘いわね。 我らがグラスマン様は怪盗紳士! 紳士たる者、女性には手を上げないのよ!!」
「おお……」
黄色い声を上げている女の子のうちのひとりが、ドヤ顔で解説をしているのを耳に入れていると
「シャーロット嬢に金貨一枚!」
「おお~張るなぁ!」
「卒業記念、大穴狙いだ!」
その斜め後方では賭けが始まっていた。
「はいダーリン、あ~ん♡」
「ハニーもあ~ん♡」
更に横では先の前世カップルが、ファーストバイトもどきをしている。
カオス。
公爵令嬢らしくこの状況を憂いてみる。
コレ……誰が収拾つけるのかしら、と。
「立ち位置的にはご令嬢では?」
「いや~無理よ無理ムリ」
もう使い物にならない殿下を省き、この場で一番の高位貴族は確かに私。
だがこんなんどうしろ、っていう。
「ああ……っ、なんだか急に眩暈がしてきたわ」
「あ、押し付けられる前に帰る気っすね?(小声)」
「察しがいいわね(小声)」
「大丈夫ですかご令嬢! 殿下の側近たる私が元婚約者である殿下の代わりにお送り致しましょう!」
察しのいい騎士はよろめいた私を支え抱き上げると、声を張って『元婚約者』アピールをしつつ、自分も職務を遂行するフリをしながらその場の責任から逃れるという、素晴らしくあざとい活躍を見せてくれた。
こうして私は無事、卒業パーティーを終えた。放置して離脱したとも言う。
──なので、ここからは人からの伝聞になる。
激しい攻防の末、肝心要の『女神の涙』を落とした怪盗紳士・グラスマン。
すかさずシャーロット嬢はそれを奪ったものの、突如飛来したロックバードに攫われてしまう。
鳥ってホラ、光るもの好きだったりするから……
そんな彼女と『女神の涙』を窮地から救い出したのは、やはりグラスマン──と、留学で来ていた遠い東方の国の王子様。
今までこの国では隠していたけれど、なんでもこの王子様は猫獣人のハーフだそうで。
久々に目にしたロックバードにテンション爆上がり。(※ロックバード肉はとても美味しいらしい)
曰く『そりゃ~ヨダレだけでなく耳も出るわ!』だとか。
ようやくやってきた我が国の騎士団がロックバード目掛けて矢を射り煽る中、お付きの者の風魔法で空へと上がった猫獣人王子、略して猫王子は、ロックバードの風切り羽根を断つべく攻撃を放つ。
その衝撃でバランスを崩したロックバードは、シャーロット嬢を手放した。落下するシャーロット嬢を華麗に救出したのが、怪盗眼鏡紳士である。
その際『無事で良かった』と彼女の額に唇を落とした挙句、『お転婆が過ぎたようだね、レディ』とか吐かしていたとかなんとか。
シャーロット嬢は顔を真っ赤にしながら『お、覚えてなさいよー!』と雑魚い台詞を残してどこぞへ消えた。目下捜索中である。
しかしこの三流ラブコメ感たるや。
ハニトラかけてた分際でイキナリ清純ぶるとは、許し難いキャラブレ。
奴に峰不〇子ポジションはまだ早かったようだ。
猫王子は褒賞代わりにロックバードを貰い、ホクホク顔だったそう。
余談だが、猫王子の剣は片刃でやや弓なりという日本刀っぽい物であり、語尾は『ござる』らしい。
突如出てきた猫王子の設定が大渋滞な件。
勿論、私と元殿下の婚約は元殿下有責で破棄された。
元殿下は今、断種の上廃嫡予定で離宮に軟禁されている。それだけでなく、今更のように国王夫妻も責任を問われることとなった。こちらも現在、半軟禁状態で監視が付けられているとか。
それ程『女神の涙』は凄いシロモノだったらしい。
「それで『女神の涙』はどこに行ったんですかね?」
私の護衛として引き取った騎士が問う。
騎士の彼は非常に有能だった。
特に物理面で。
彼は性格が貴族らしくなく、職務どうこうよりも空気が合わないことがやる気のなさの主な原因だったっぽい。伯爵家の実家との折り合いの悪さの要因のひとつも多分ソレ。
私個人の護衛とはいえ、一応公爵家に入ったのに気楽になったってのもどうなん……と思わないでもない。自省として。
「う~ん……」
私はどう答えたらいいかちょっと迷い、一先ず笑顔で誤魔化した。
事の顛末を私へ話してくれたのは、王弟殿下である。
陛下の歳の離れた弟である王弟殿下は、25歳とまだ若い美形。
穏和との評判通り、この時対峙した際も口許は柔らかく弧を描いていたものの、どうにもこうにも胡散臭さが凄かった。
王弟殿下は立太子し、次の国王陛下となる準備を着々と進めている模様。
だが、あまりに出来すぎている。
なんかよくわからない事象が起こりまくっただけに、説得力はないけれど。
「……きっとそのうちシレッと出てくんじゃない?」
私の予想では、王弟殿下が怪盗紳士。
この間会った時、確信した。
直接的にグラスマンではないにせよ、そういうキャラクターを配置し動かしたのは彼。
もしかしたら女怪盗であるシャーロット嬢に情報を横流しした、とかもあるかもしれない。
王弟殿下は私に婚約の打診をしてきたけれど、丁重にお断りした。
含み笑いをしながらアッサリ受け入れた王弟殿下の顔には、無い筈の眼鏡が光って見えた気がしたが、ただの幻である。
『おもしれー女』認定をされたような気はするものの、それが『物語の外の人だから』という前提でのモノなら、喜んで受け入れる所存。
「いずれにせよ、こういうのは傍から見てるから楽しめるのよ。 多少謎が残るくらいで丁度いいわ~」
騎士は「なんだか妙に実感が籠ってますねぇ」と、わかってんだかわかってないんだか、すっとぼけたことを吐かしていた。
まだシャーロット嬢を諦めていない元殿下が自ら鉱山行きを志願し、努力と根性で『女神の涙』ばりの原石を掘り当てるのは、まだもう少し先の未来。




