少年の日の夢
陽が傾き、アッシジの広場は金色の光に包まれていた。石畳に長い影を落としながら、フランチェスコは仲間たちと肩を組んで歩いていた。
「おい、フランチェスコ、また剣士の真似をしてみろよ!」とパオロが声を張る。
「ならば敵を斬り伏せる勇敢な騎士の登場だ!」と、フランチェスコは棒を剣に見立て、広場の真ん中で大仰な身振りを見せた。
その姿に、ルカは皮肉を交えて笑う。「お前は本を一冊読むより芝居をしてる方が似合ってるな」
「でも金勘定だけは苦手だろう」とマッテオが笑えば、ステファノが太い声で「それでも俺は、あいつがいれば退屈しない」と断言した。
町の子どもたちも集まり、広場は笑い声で満ちた。フランチェスコはその中心で、まるで舞台の役者のように光を浴びていた。
「いつか僕は騎士になる。馬に跨り、甲冑をまとい、遠い地で名誉を勝ち取るんだ」
フランチェスコの夢を聞いて、仲間たちは口々に囃したてた。「そのときは俺たちも従者だ!」「いや、戦利品の酒を奢ってもらうぞ!」
けれども、広場の片隅から彼らを見ていた一人の少女の目は、少しだけ違っていた。クララ。彼女は家族に付き添われて教会に向かう途中で、騒ぐ少年たちの姿に足を止めていた。その瞳は好奇と戸惑いと、どこか憂いを帯びていた。
フランチェスコはまだ気づかない。己の夢が光と影を孕み、その先に試練が待っていることを。
「なあフランチェスコ、もし本当に騎士になれたら、最初に誰を助ける?」とパオロが茶化すように聞いた。
「決まってるだろう、困ってる乙女だ!」と胸を張って答えると、皆が腹を抱えて笑った。
「乙女より、俺たちに酒を奢ってくれよ」マッテオが言うと、
「そのときは、俺が樽ごと担いでやるさ」とステファノが腕をぶんと振った。
ルカは本を片手に冷ややかに微笑んだ。「騎士物語は読むのは楽しいが、現実は血と泥だぞ。お前はそこまで似合わん」
「そうか? 泥にまみれても、名誉のためなら笑って立ち上がるさ!」とフランチェスコは即座に返した。
四人は顔を見合わせ、また大きな笑い声を広場に響かせた。
その笑いの輪の中心にいる限り、フランチェスコは自分が本当に世界を変えられると信じて疑わなかった。