アッシジの空の下
十二世紀の末、イタリア中部の小高い丘に、石造りの町アッシジは白く輝いていた。オリーブ畑と葡萄畑に囲まれ、遠くにはウンブリアの青い山々が連なっている。朝の鐘が響くたびに、商人たちの呼び声と修道士の聖歌が交じり合い、町は今日も活気に満ちていた。
丘の町アッシジは、朝陽に照らされて白い石壁が淡く光り、狭い坂道の石畳は露に濡れて輝いていた。家々の窓辺には赤や黄の花がこぼれるように咲き、通りを渡る風にオリーブの葉がさらさらと揺れる。町を囲む城壁の外には葡萄畑が緩やかに広がり、遠景には緑の丘と青みを帯びたウンブリアの山並みが幾重にも重なる。鐘楼からは澄んだ音が響き、鳩が空を弧を描いて舞い上がる。そのすべてが、豊かで静かな調和を宿す町の息吹を物語っていた。
その町で、一人の子が誕生した。名をジョヴァンニ。だが父親ピエトロは、商いで通うフランスの地に心を奪われており、息子に「フランチェスコ(フランスの子)」と呼び名を与えた。富と華やぎを好む父にとって、それは希望と野心を込めた名であった。
母ピカは、南仏出身の穏やかな女性であった。彼女は教会で静かに祈り、夫の喧騒から離れて子を抱いた。「この子はきっと、主の光を映す人になるでしょう」と、母は胸の奥で囁いた。
幼き日のフランチェスコは、町の通りを駆け回り、誰よりも大きな声で笑った。市場では魚売りと冗談を交わし、広場では旅の吟遊詩人の歌を真似て仲間たちを楽しませた。
その仲間たち――短気だが情に厚いパオロ、皮肉屋で本好きのルカ、金勘定に長けたマッテオ、力持ちで心優しいステファノ。四人は常にフランチェスコの周りに集い、まるで彼の笑いが磁石のように引き寄せていた。
「フランチェスコ、また歌え!」
「いや、今度は剣士の真似をしてみろ!」
「おい、酒場の親父に見つかるぞ!」
そんな声に囲まれ、若き日の彼は夢を大きく広げていった。
その頃、町の教会にはもう一人、彼の運命を静かに見守る少女がいた。名をクララ。名門の家に生まれ、金糸の髪をヴェールに包んだ彼女は、いつも祈りの席から人々を見つめていた。幼いフランチェスコと彼女が言葉を交わすことはまだなかったが、その澄んだ瞳は、陽気に笑う彼の姿を一度だけ見つめたことがある。
空は広く澄みわたり、どこまでも青かった。
アッシジの丘の上で、若きフランチェスコはまだ知らない。
この町を包む光と影が、やがて彼の一生を揺さぶることになることを。