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死んでも死にきれない

作者: かんずり

無口なあなたと別れた。

別れを切り出した時さえあなたは何も言わない。

泣きながらあなたに「一緒にいるの、嫌?」って聞いたのにそれも無視?

「生きてる世界が違うから」なんて言葉が胸に刺さる。

確かにそうだったかもしれないけど、私はあなたに合わせるのに。いくらでも変わるのに。ずっと一緒にいたかっただけなのに。


無気力になった私の日々は灰色で、余りにも退屈だった。

でも思えば恋人らしいことなんて何もしていなかったね。

手を繋ぐのも、キスをするのも私からだった。

話しかけないと答えてくれないし、デートだってしたこと無かったや。


変わらないあなたの横で、私は少しずつ歳を重ねた。

乾燥する肌が気になって、2人で使えるように保湿剤を買ったりして。あなたにつけてあげようと触れた時もあなたは何も言わない。

でもどこかへ行ったりしないでそばに居てくれる。無言の愛だと思っていたけど、もう耐えられなかった。


「もういい、好きじゃないなら死ぬから。」

引き止めもせずあなたは部屋の隅にいる。

ああ、本当に好きじゃないんだ。さよなら。せめて最後にあなたの声を聞きたかった。私たち、言葉を交わしたことすらないんだよ。


ドアノブにかけたロープに首をかけてあなたを見つめる。やっぱり何もしないんだ。

意識が途切れる瞬間、あなたの声が聞こえた気がした。


気がついたら私はもう死んでいて、幽霊になっていたみたいだ。

自分の身体がそこにある。青白くなった顔と、全身の力が抜けてだらりとロープに頭が持たれている。

幽霊って本当にいるんだ。なってみないと分からないものなんだなぁ。

身体が地面から2cmくらい浮いていて、服は死んだ時と同じものだ。視界は灰色になっていて比喩ではなく昔のモノクロテレビのようになっている。

強く念じてみるとコップの水が揺れ、家具がガタガタと鳴り出す。

これがポルターガイストか。本物の幽霊になっちゃったんだ。


彼の姿を探したら、意識が亡くなる前と同じ場所から動いていない。

よく見ると私と同じような顔色で、文字通り生気がない。


「あ!こっち来ちゃったの!」

知らない声がして驚いて振り向く。

「いやー、ずっと喋りたかったんだけどさ、俺死んでたし。念じたりはしてたよ?通じてた?通じてたらこんなんなってないか!笑」

ずっと聞きたかったあなたの声は思っていたよりも高くて、生きている時と比べられないくらい明るい。

「俺のことずっと見ててくれたっしょ?まじ愛感じたわー。まっ、これからはこっちで楽しくやってこうぜ!寿命とかないし正にずっと一緒、ってやつ?」


彼のクールな所に惹かれていたのにあまりのギャップに理解が追いつかない。

「そんなキャラだったのね、なんか、意外」

「意外っしょ?死人に口なしなんて言うけどあれまじだね笑なんも喋れん笑これからちょっとずつ俺の事知っていってくれればいいからさ」

無理かもしれない。流行りのセンターパートだった彼の黒髪は見る影もなく、適当に染めたような金髪にチリチリのパーマがかかっている。幽霊も美容院行くんだ。

「そもそもさ、なんで俺の事見つけられたん?毎日来てくれてたけど面識あったっけ?」

「それは、前に大学であなたのこと見つけて…ずっと好きで…」

「顔がタイプ的な!?でもそうじゃないと死体と恋人ごっこは出来んわなー。いや、熱意すごいよ。さすが。あっぱれ。こんな愛されて俺って幸せ者かもなー!」

無駄な元気さが余りにも鬱陶しい。幽霊ってもっと陰湿なもんじゃないのか。

「あの、私、ここ出ていくから。今まで勝手に…その…ストーカーしてごめんなさい」

「出てってもいいけどさ、離れたりは出来ないよ?」

「え、それって…」

「なんかね、死んだ場所に住民票おかないといけないみたいでさー。ちょっと離れるくらいならいいけど、定住するのはここって感じ。俺もこっち来て長いから色々教えるよ。これからは事実婚?みたいな感じで仲良くしてこうや笑」

キツすぎるだろ。住民票あるなら引越しさせてくれ。

顔が好きだから我慢できるかとも思ったがノリが厳しすぎる。なんでここで死んでしまったんだ。

「死ななきゃ良かった…戻りたい…やだよ…」

ボロボロと泣き崩れる私の肩に彼は優しく手を添える。

「俺も思ってたって。大丈夫、すぐなれるよ。俺がついてるから。」

「住民票、移したりとか、って、でき、ますか、ここ、私、出ていくから…」

「あー、無理無理。それできるなら俺もここいないって笑出かけるなら申請いるし、その期間終わったらしばらく外出とか出来ないから。定期的にこの家には居ないとだよー笑2人なら楽しいっしょ笑」

なんでこいつこんなポジティブなんだよ。

後悔の念がどんどん強まっていく。自分のせいだから誰のことも恨めない。死んでいるから終わりもない。

絶望の日々が始まるのか。

あんなに望んでいたずっと一緒の日々が始まるのに、深い悲しみ以外に何も残らなかった。


他に方法もなくしばらく共に過ごしてみたが、やはりノリが合わない。

少しは家の外に出られるようで、それだけが救いだった。毎日なんの用もなく外出しては行くあてもない散歩をしていた。もう1人になりたい。誰か助けてくれ。

「成仏できる方法って無いの?」

限界が近づいてきた。半ば諦めながら聞く。

「あるみたいだよー。なんかね、死体無くなったらわんちゃんあるらしいで!見つけてもらってそっから火葬?埋葬?なんでもいいけど弔って貰ったらOK的な?俺もそれで友達何人かガチで消えたからね笑」

早く言え。もう1回殺すぞ。

もう死んでからだいぶ立っている。そろそろ誰かが探してくれてもいいはずだ。唯一の友人に連絡を取ろうと思ったが携帯しかないし触ることが出来ない。家族は絶縁に近い状態で家を飛び出してきたから、連絡が無くても不思議がらないだろう。

どうにかして友人に思い出して貰わなくてはいけない。頭をフル回転させて3日、ようやく打開策を思いつく。


散歩ついでにポルターガイストの練習していたおかげでなんとか少しのものを動かすことは出来る。

部屋の隅に生えたキノコを毎日少しずつ動かす。ようやく携帯の側まで持ってくることが出来た。これだけで丸1日かかってしまった。

画面をキノコで操作しながら住所を打ち込む。

ここに来てもらうしかない。こんな手間のかかる方法でしか携帯の操作も出来ないのがもどかしいが、何もしないよりよっぽどマシだ。


連絡して2週間ほどたって、私たちの死体はようやく発見された。私たちは同時に火葬され、無縁仏になるみたいだ。

「ついに俺らも昇天するのかー!天国ってどんなかな?やっぱ楽しそうだよなー!あっちでも仲良くしような!」

「何言ってるのよ。私もうあなたと居たくないから頑張って見つけてもらったのに!」

「そんな悲しいこと言わないでさー。同じ場所で死んだ仲じゃんか」

「とにかく、もうこれでさよならだから。今まで付きまとってきて自分勝手だけど、もう一緒にいたくないの」

「え!それってないよ。だって俺たち…」

彼の言葉が遮られてまた意識が飛んでいく。

どうやら火葬が始まったらしく、身体が徐々に消えていく。熱さは感じずに、気持ちいいまどろみの中で眠るように私たちは消えていく。



次に目が覚めた時には、色のついた世界が広がっていた。生きていた頃と変わらないようで少し違う。

また意識が戻っていることに驚きつつ周りを見渡すと自分の腕に細い糸が繋がっていることに気づいた。綿のように柔らかいけれど切る事はできず、長さも伸縮するようで邪魔にはならない。

どこに繋がっているのか辿るとまた彼がいた。

「おー!きたきた!これからもよろしくな」

「嘘、待って、なんでよ」

「あれ?焼かれる前に言わなかったっけ?

一緒に弔われたら縁ってずっと切れないんだよ。ほら!俺らの「運命の糸」的な?笑これからもずっとよろしくな!」

目眩がする。死んでも死にきれないわこんなん。

「ちなみにこっちの世界ではもう死ぬとか消えるとか無いからさ、ガチのずっと一緒だよ笑」


私はようやくここが天国ではなく地獄なことに気がついたら。

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