深夜1日目
「どうしよう、金がない」
水島刃は、財布の中身を見て嘆息した。
大学を中退してからは、パチ屋に通う日々、もともと俺には何もなかった。大学も親が行けとうるさかったから、適当な大学を選んだ。
何も変わらない、日々をのうのうと生きている。そんなある日のことだった。
大学で知り合った友達に、パチンコに誘われた。
初めて入ったパチ屋の中は、機械の音がうるさく、周りを見渡すと、みな、平気な顔で機械と向き合っている。俺は、よくこんなところにいられるなと思っていた。
初遊戯、ものの5分もしないうちに1000円札が消えた。
ウソだろ、ちょっと座っただけで、俺の1000円が消えたんだが。
はあ、馬鹿馬鹿しい。こんなの何が面白いんだ?
友達は俺に向かって、
最初はそんなもんだよ、ここで辛抱強く待っていれば楽しい時間が必ずやってくるぜ。釣りと同じだよ。
そう言うものかと、俺は納得する。
12000円を使ったあたりから、それがキタ。
突然の激しい音、さっきまで静かだった俺の台が騒ぎ出したのだ。演出はよくわからないが、液晶の向こうでは激しい戦闘が行われている。
おっ、おおおお!
俺のハンドルを強く握りしめていた。
「おい馬鹿! 球止めろ! もったいないだろ!」
え? 俺は、唖然とする。
友達が言うには、保留が4つ溜まっているときは抽選を行っていないので、スタートに球が入っても無駄だとか。
そう言うのは、もっと早く言ってほしかった。
そうこうしているうちに、ボタンが出る。
俺は、ボタンを押した。
ユニコーンーーーーーっ!!!
画面が虹色に輝き、図柄が揃う。3図柄だ。
333
その時、画面が引き裂かれて3000になる。
友達は興奮していたが、俺はよくわからなかった。
どうやら、確変と呼ばれるものらしい、そこからは凄かった。ハンドルを右に捻っているだけで球がいっぱい出てくる。最初はうるさいと思っていた音が、いつの間にか心地よく感じ初めていたのだ。
これが噂に聞く、ビギナーズラックと呼ばれるものだったのだろう。
ユニコーンが馬車馬のように走ってくれたお陰で、俺は大勝ちした。
お金に変えると、10万円になる。
ただ座っているだけで、こんなに稼げていいものなのか。
店を出た後にも、俺の鼓膜には、ユニコーンと叫ぶ声が聞こえ続けていた。
そんなこともあって、俺はパチ屋に入り浸った。
勝つ日もあれば、負ける日もある。
俺は自制の歯止めが効かなくなり、とうとう、借金をしてまでパチンコを打つようになっていた。
借金は膨れ上がり、お金が借りれなくなるくらいまで俺は追い詰められていた。
やばい、親には言えない。
俺は、返済のお金と、パチンコを打つお金を作るためにバイトを始めることにした。
効率よく稼げるバイトなんてないよなぁ、そう思っていると、
ある求人に、視線が止まる。
夜勤警備
業務内 モニターの監視
時間 0時00分〜7時
資格不要
日当 10000円
これだ。
俺はすぐに申し込みをする。
電話をすると、明日から来てくれと言われた。
翌日、吉野と言う人から簡単な説明を受けて、俺のバイト1日目が始まった。
「信じならないよな〜、ただモニターを見ているだけで、後は自由にしてていいって言うだからな」
俺は、不思議に思う。
こんな効率がいいバイトを、なぜ、辞めていくのか。
吉野の話では、バイトを引き受けた人は1週間立たずに辞めていくらしい。
「こんな快適なのに」
俺の前には、二つのモニターが並んでいた。
右のモニターは、俺が今いる事務所の監視カメラの映像が映っていた。
左のモニターは、画面が9個に分割されており、各フロアの監視カメラの映像が映っている。
時刻は1時である。スマホゲームをしながら、時々モニターを確認する。
「今のところ、異常なしと」