第6話
楽しかった時間も終わり、北口についてしまった。ここから出れば、そこからは推奨レベルが130の凶悪なダンジョンだ。俺はユズとつないでいた手を放して、装備を変更する。
いつもの火力特化装備ではさすがにコスパが悪い。最前線で攻略を行う時のカウンター戦術メインの装備に変更だ。
いつもの火力特化装備は星がモチーフだが、今の俺の装備は騎士のようなイメージを抱かせる鎧だ。剣も『星銀の剣+50』から『神怒の剣+50』に変更だ。
「なんか騎士っぽいね、ヴィンセント」
「まぁそういうコンセプトの衣装だからね。ユズは白衣着る?」
「そうだね。ボクも戦闘には白衣が必要だし」
ユズはそういうとシステムを操作して白衣を着こみ、ネックレスをしまった。少し名残惜しいな。本当に似合ってたのに。すると、ユズは次の操作で魔導書を取り出した。
うん……? 魔導書? 確か<機神>のユズも別のものではあるが魔導書を使っていたような気がする。いや、<機神>は普段から誰ともつるんでないから情報がほとんどないんだけどな。武器は魔導書って噂を聞いたことがある気がする。
まぁさすがに偶然、か? 怪しい気もするが……まぁ今はいいか。第一惚れた女を疑ってどうするってんだよ。たとえどんな姿であろうとも好きでい続けるのが男ってもんだろ。
「よし、じゃあ行こう!」
「おう。腕の見せ所だな」
できるだけいいところも見せたいしな。ユズとともに街の外にでる。街の外の洞窟は光の鉱石がちょこちょこ露出しているだけで、それ以外は暗闇だ。俺は暗視のスキルを持っているので問題なく前が見えるが……ユズはどうだろう。大丈夫か?
「ユズ、前見えるか?」
「当然見えっ…………ないね。少し支えてくれると嬉しいかも」
なんか間があった気がするけど。そういうことなら俺はユズの手を取り支える。
「ありがとう。敵とか来たら離しても大丈夫だからね。動かないから」
「了解。俺が魔物はやっとくから安心して待っててね」
いいとこ見せようと思ったが、見えないもんな。じゃあ仕方ないか。
「ありがとヴィンセント。便りにしてるね」
なんだろう。惚れたって自覚したからかすごくかわいく見える。キラキラして見えるというか……。あ、後ろに魔鉱石見えてた。
「ん? さっそく来たか」
俺の気配察知が前方に一体の魔物をとらえた。
「ユズはここで待っててくれよ?」
「う、うん」
少し先に進むと、4mほどの蛇の魔物がいた。『黒蛇 Lv.134』。なるほどね。
俺は剣を構え蛇の前に立ちはだかる。蛇と少々にらみあうと、しびれを切らしたのか蛇がかみつき攻撃を仕掛けてきた。
俺は蛇のかみつき攻撃を剣で受け止め、後退する。蓄積は154。蛇の火力はその程度か。貯めてもあまり意味ないな。
俺の剣は相手の攻撃を受ければ受けるほどそのダメ―ジを蓄積する。そして、スキルの発動時に基礎攻撃力にそのダメージ分を加えて攻撃可能になる。
ちなみに基礎攻撃力とは自身のステータスのSTRと武器の攻撃力を足した値だ。スキルを使うとここに倍率が入る。
基礎攻撃力×スキル倍率×クリティカル倍率-敵防御力的なイメージだ。その基礎攻撃力にダメージを加算できるのでかなり火力が上昇するのだが、正直いって154だとたいして変わりはない。
「まぁレベル134ならこんなもんだよな。俺の防御力もそこそこあるし」
俺はスキル発動の準備をしながら蛇に近づく。火力特化の時ほどAGIに優れてないから少し遅いけどな。そんな俺の様子に蛇はさらにかみつこうとしてくるが俺はそれをすべて剣ではじく。ちなみに剣受け流してもはじいてもダメージは蓄積するぞ。おそらく蓄積が1000にとどいたであろう時、俺はスキルを発動した。
「『神の怒り』」
今回は蓄積を使用するスキルのうち、単体相手で火力の高いものを選択した。俺の剣は一撃で黒蛇のHPをすべて削り取り、勝利を収めた。
ちなみにこのゲーム、欠損という使用はなく、切られたりするとその跡が残りHPバーが減るだけである。だからたまに首を一発で両断するような攻撃をしたとしてもHPが残ってたりする。
「お疲れ、ヴィンセント! かっこよかったよ!」
戦いが終わるなりユズがこちらに来て俺のことをほめてくれた。
「ありがとうユズ」
「ほんとにかっこよかったよ! じゃあ先に進もう!」
ユズはその小さな手で俺の手を取った。あれ、このくらい中で迷いなく手をつなぐくらいには見えるのか?
それってほぼ見えてるんじゃないか?
「ユズ、見えてるか?」
「え? あー……ミエテナイヨ」
すごい片言な気がするんだけど。
「と、とにかく先行こ! ボク早く素材ほしいし!?」
「ん? ああ了解」
すっごくごまかされた気がするけど、まぁいいか。手をつないでくれるなら俺としても嬉しいしなぁ。