第1話
その出会いは突然だった。
いつものようにVRMMOの世界にログインし、隣街に買い物に出かけたときのこと。中世的な街の中、普段は気にならない路地裏が、今日に限ってはなぜか気になった。
なにか路地裏で戦闘イベントが始まったところでこちらはランカー。何も怖いものはない。
路地を進んでいくと、なにやら古めかしい看板を見つけた。そこにはユズの店と書かれていた。
こんな路地裏に店、か。なにやらイベントの香りがするな。そう思ってその扉を開けて中に入る。
閑散とした店の中には様々なアイテムが陳列されていて、それはもう素晴らしいと思った。特にガラスケースの中に飾られている武器たち。機械的な見た目をしていて厨二心をくすぐる。プレイヤーメイドの最上級も最上級のものだと思う。
なんでこんないい店が知られていないんだと疑問に思いつつ見て回ると、カウンター席で白衣を着た女性が眠っていた。よほど客が来ない店なんだな。後彼女、プレイヤーだな。NPC表記がでないし、眠ってるしで十中八九プレイヤーだろう。店がこんなにさびれてるのもかわいそうだしなんか買って帰ろうか。これも何かの縁だし。
店員の女性が眠っている間に陳列されているアイテムを一通り見て回ったところ、飛んでもないアイテムが売られていることが分かった。
クエストとかでもなければそこそこ手に入りずらいエリクサーや、一定時間特定ステータスを大幅上昇させるポーションなど、なかなかのレアリティを持つものが比較的安価で売られている。
買い得だな。そう思って良さそうなものをいくつか持ってカウンターの女性の元に向かう。エリクサーを5本、彼女の前において、そして声をかける。
「起きてください。こちら購入するので」
「ほぇ? あ、あぁ、ボクのお店によく来てくれたね……。何を買うのかな?」
声をかけるといまだ眠そうながらに対応してくれた。
「エリクサーを5本と……もしよければショーケースの剣を」
ショーケース入りの武器たち。様々な種類があるが俺は剣士だからな。剣を集めるコレクターとしても剣を買いでいいだろう。間違いなくかなり性能の良い武器だし、今使ってる剣とも見劣りしないからきっと活躍の場はできるだろう。
ちなみに全財産のうち5分の1が飛ぶな、あの剣だけで。でもそれだけの価値はある。
「え、あれ買うの? お金大丈夫?」
「大丈夫ですよ。こう見えて上位帯の人間ですから」
今は街を歩く時用の軽装だから見えないとは思うが、これでも100万以上のアクティブユーザーがいるD2の中で総合ランキング31位の人間だからな。
「なるほどね? じゃあ1000万とエリクサー5本で50万だけど……。1000万だけでいいよ。エリクサーはおまけであげる」
「え、いいんですか? ありがとうございます」
エリクサーは高難度クエストあたりを周回しないと基本集まらないアイテムだ。制作するにも難易度が高すぎて基本高価になる。それをおまけでいただけるとはなかなかありがたい。そういうわけで俺は1000万を即決でお支払いした。
「まぁいくらでも作れるしね。武器、買ってくれてありがとう。はいこれ」
なにやらエリクサーがいくらでも作れるという恐ろしい言葉が聞こえた気がするが気のせいだろう。女性がなにやらシステム操作を行うと、ショーケースの中にあった剣がカウンターに現れた。
「ありがとうございました。じゃあ、また来ますね」
そういって俺は店を後にしようとしたところ、引きとどめられた。
「ちょっと待って! せっかくの初めてのお客さんだし……。フレンド登録しない?」
「フレンド登録ですか? 別に構いませんよ」
「おお、ありがとう!」
システムからフレンド申請が来た旨の通知が来る。それを承認してと。どうやら彼女はユズというプレイヤー名らしい。
「ユズさんというんですね。これからよろしくお願いします」
「よろしく、ヴィンセント! <反逆>とフレンドになれるなんてびっくりだよ」
俺のプレイヤー名はヴィンセント。高ランカーとして一応二つ名も持っている。<反逆>という二つ名だ。どうしてこんな呼ばれ方をしているのかはいまいちわからないけどな。
「まぁ由来不明の二つ名ですけどね」
「確かに。なんでこんな二つ名なんだろ」