二度目のバットエンド
一度目の人生、最後に見たのは、逆恨みで向けられた刃だった。
婚活アドバイザーとして、他人の結婚人生だけを応援していた私。
『成婚率90%の婚活女王』を欲しいままにしていたのに、まさか結婚させたカップルが離婚したからって殺されるとは思ってなかった。
二度目の人生は、異世界転生し、裕福な伯爵令嬢ロエリア・ブルーウィングになった。
きらびやかなドレスと宝石、夢のようなお屋敷、素敵な香りの紅茶と味覚と視覚をくすぐるスイーツたち。
転生前の記憶を取り戻した時、思い浮かんだのはただ一つ。
〃こんな素敵な世界に生まれたんだから、ロマンスをとびっきり楽しんでやるわ!〃
そう考えたのがダメだったのかしら。
先王が先立ち残した遺言のおかげで、王国は王位継承争いの真っ最中。
【国の利益になる相手(重鎮)と結婚して、有益さをもたらした者に王位を継がせる】
転生前の知識で社交界に新しい流行を巻き起こしていた私は、
先王から文化勲章を授かるほどの時の人になっていたから。
おまけに、神が授けたこの美貌!そして、前世の婚活スキルを持ってすれば、
第一継承権を持つ皇太子デュークと結婚するのは簡単だった。
それなのに王族にはいびられるわ、メイドたちからは馬鹿にされるわ、
あげく幸せを誓ったはずの夫であるデュークからの暴力に苛まれる日々。
今度こそ幸せになれると思ったのにー…。
結婚して半年、今日でそんな淡い願いを祈ることもできそうにないみたい。
だって、ベッドの上で、デュークが私に短剣を突き刺そうとしているから。
「もう飽きたんだよな。だから、死なない程度に楽しませてくれよ」
(なんて勝手なのかしら…。でも、もう手が動かない)
殴られ蹴られ弄ばれた身体はピクリともしない。
これが女王様ですって?笑っちゃうわね…。
「さようなら、ロエリア」
(ええ、さようなら。私の人生)
だけど、次の瞬間、倒れていたのは私じゃなかった
憎き夫は、黒々しい血液に浸ってこと切れている。
黒い甲冑に身を包んだ、赤い瞳。兜の奥に隠されている無骨表情が透けて見える。
王位継承者の1人であり、最強の騎士団長ウィンター・オルレアン公爵。
隙間から見える白い肌、重々しい長剣を軽々と振り下ろすその姿はまるで死神。
でも、私には世界でたった1人、地獄から救ってくれる神様に思えた。
「王妃殿下」
「あ…ありが…」
「死んでいただきます。国の為に」
夫の次に、私に刃が振り下ろされるその瞬間まで。