第6話 意外な場所へ
富永から俺のスマホにメールがあったのは、明後日の23時過ぎだった。
それによると楓の目に映っているのは北海道内の住所表示だ。
富永の調べでは、そこは限界集落だそうだ。社長と楓は駆け落ちして、ここに逃げたのだろうか?
俺はこの件を社長夫人には報告せず、いきなり現地へ飛ぶ算段をつけたのだ。
北海道まで飛行機で行き、その後は電車で行ける場所まで乗り、最後にはタクシーで現地に向かう。
よく晴れた日だ。青い空が美しい。6月の北海道は涼しかった。
「お客さんも移住希望者ですか?」
タクシーの運転手が、俺に尋ねた。60代ぐらいの男性である。
「ま、そんなところですかね」
そう回答した。
「田舎暮らしに憧れて、都市部から来る人がいるけどさ。やめた方がいいですよ。コンビニもカラオケもないし、住人は排他的だしさ。そもそも暮らしやすいなら、限界集落になんかなりっこないのよ」
「そうかもしれませんね」
「ところが最近ここへ来て、突然移住する人が増えたのよ。ちょっとびっくりしてるんだよね」
「そうなんですか」
「1ヶ月くらい前にも若い女の子が来てさ。アイドルみたいな可愛い子で、驚いたわ」
「こんな子じゃなかったですか?」
俺はスマホに楓の画像を呼び出して、相手に見せる。
「チラッと見ただけだけど、そうだったかもしれないね。お知り合い?」
「姪っ子です。しばらくこっちで暮らしたいなんて言ってたから様子見に来たんです。そろそろネをあげてる頃かな」
俺は笑いながら、嘘の説明をした。やがてタクシーは現地に着く。
家屋が距離を置いてまばらに建っていた。
空き家も多いらしく、人の姿が見えない。
俺は運転手に料金を払う。遠くまで来たので結構な金額だ。
楓がどんなつてを使ってここまで来訪したのかわからなかった。
家出するなら仕事のある都市部の方が良さそうなのに。
集落をあてどなく歩いていると、70代ぐらいの女性が現れた。
「あなた一体どちらから? この辺じや、見かけない顔ね。見学の人?」
「ま、そんなところです。移住希望なんですよ。東京の生活には疲れちゃってね」
「ありがたいって感謝したいけど、都会とは何もかも違うわよ」
「でも最近移住者が増えてるとかって聞きましたけど」
「その通りよ。小麦畑で働いてくれたり、色々ありがたいわ。お米を除けば日本の食料自給率って低いでしょう。そういう意味では自給率を上げるのにもちょっぴりとだけど貢献してる」