第5話 女性の行方は?
俺はその、目に映し出された物が一体何なのか気になった。そして、こういったのを分析するのを得意とする男の名前が脳裏に浮かんだ。
俺は赤羽岩淵駅の近くにあるアパートに向かった。そこはかなり古い建物で、昭和の頃からありそうな雰囲気だ。そして少し斜めに傾いている。
俺は階段で5階に上がった。エレベーターなんて物はない。呼び鈴も押さずノックもせずにドアをそっと開いてみた。施錠はされていない。
甘ったるい香りがする。大麻の匂いだ。中はワンルームで、1人の男が背中を向けてパソコンに向かって何か叩いていた。イヤホンをしている。
全く手入れしてないであろう長髪は、背のあたりまで伸ばしていた。この男は富永だ。
俺とは旧知の仲だった。俺はそのまま中に入る。さすがに気配を察したのか長髪の男が振り返った。
「何すか? 深沢さん! 勝手に入ってこないでくださいよ」
「普通に呼び鈴鳴らしても居留守使うだろうからな。気をつけた方がいいぞ。俺じゃなかったら、お前刺されてたかもしれねえからな」
「家宅侵入じゃないですか。もうあんた刑事じゃないでしょう。警察に通報しますよ」
俺は思わず爆笑する。
「ああ、やってみろ。警察が貴様みたいな前科者と、辞めるまで真面目にデカをやっていた俺とどっちを信じるか。別に俺は不祥事起こして辞めたわけじゃないからな。そして、この大麻の匂い。110番したら麻薬担当が喜ぶな」
長髪の男が苦い顔をした。
「今日は、何しに来たんです?」
「この画像を見てくれ」
俺は、富永にスマホを見せる。それは早紀のスマホにメールで送信された早紀の写真であった。
「可愛い子ですね」
突然富永の顔が、嬉しそうな笑みを浮かべる。
「お前がストーカーしそうな子だろ」
「最近はやってませんから」
富永は、石でも飲みこんだような顔をした。
「この子の目に、何か映ってるのがわかるだろ? それをチョチョイと調べるのが、お前の今回のミッションさ」
「ち、ちょっと待ってくださいよ」
富永は、半泣きだ。
「何で、俺がそんなのやるんすか?」
「お前、こういうの得意だろ。それでアイドルの目に映った画像からマンションを突き止めてストーカー行為に走り、警察の厄介になったんじゃないか。金なら出すから協力しろや」
「いくらですか?」
「まあ、お前次第だな。明日の24時までに調べて報告してくれ。断ったり期限までに連絡なければ大麻の件を警察にちくる」
「明後日の24時までにしてください」
「いいだろう。頼んだぜ」