第3話 情報入手?
マジで?」
俺は、驚いた。
「警察が来た時は、まだここを続けるつもりだったから余計な話しない方が良いと思ったし、あたしがあわてて言わなくても、すぐに社長が見つかるって信じてたから」
早紀は、話した。要は職場で嫌な目にあったので、腹いせに暴露するってわけか。それでも良い。
こっちとしては大助かりだ。嘘でなければ。
「お気持ち、とてもわかります」
俺はオーバー・アクション君にうなずいた。
「で、どんな情報を知ってるんです」
「ここの社長、うちの派遣会社から来ていた子と愛人関係にあったんです」
「本当に? なんて名前の子?」
「言っちゃっていいのかなあ」
早紀が、目を伏せた。
「証言が確かなら、いくらか君にお金を払ってもいいと思ってる」
俺の言葉に、早紀が目を輝かせる。マスクの向こうにある口がほころんでいるのが、透視で見えるかのようだ。
「八重樫さんはこの職場で嫌な思いもしたようだし、報酬を受け取るのは当然の権利ですよ。くどいようだけど、八重樫さんの情報が正確なものだっていう条件つきですよ」
「間違いないです。本当ですって。阿南楓って子。でももう派遣会社辞めちゃって、今連絡とれないの。仲良かったのに、なんか裏切られた感じ」
早紀は、眉を曇らせた。
「楓、歳もあたしと一緒だったし、すぐ仲良くなったんだ。でも可哀想な子で、実のお父さんと2人暮らしなんだけど、よく殴られてるみたいで、顔にアザ作ってた」
早紀は、声を落として話した。
「そうなんだ。酷いお父さんだね」
「だから早く家を出たいって言ってたな。都内だと家賃高いから埼玉かどこかでアパート借りたいって言ってた」
「なぜその子が、社長と愛人関係にあると思ったの」
「社長と、彼女がよく話してたの。楓は美人だったから、大抵の男が好きになると思う。それに社長が失踪するちょっと前に楓も家出しちゃったから、偶然と思えない」
「そうなんだ。楓ちゃんとは連絡つかなくなっちゃったの」
早紀は、コクリとうなずいた。
「スマホに電話しても『電話番号使われてません』になっちゃうし、メール送っても戻ってきちゃうし」
「住所はわかる? 彼女のことが心配なんでしょう? 教えてもらえれば楓ちゃん家の近所に聞き込みしたりして、彼女の行方を調べられるかも。無論、君の名前は出さない」
早紀はしばらく迷う素振りを見せたが、やがて住所を教えてくれた。奇遇にもそれは、俺の住む北区内だった。
俺は赤羽駅から離れた雑居ビルに事務所兼住居を借りて住んでいたが、早紀の住んでいたアパートは、京浜東北線の十条駅の近くである。
そこへ行って父親や、近所の人に聞き込み
をすれば、楓や社長の居場所につながる何かを知ることができるかもしれない。