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姉妹スイッチ  作者: 中尾
第二章
9/12

小さな衝撃①

 加茂家に着くとマナは躊躇わずにチャイムを鳴らした。



 ピンポーン。



 新しいタイプの呼び鈴に、ほのかに香る木の匂い。まるで新築のような感じだ。


 植木鉢には色とりどりの花が咲き、植木には最近切り揃えられた後がある。


 土は赤茶色の栄養豊富そうな色でついさっき水をかけられたように湿っていた。



 勝手にチャイムを鳴らされ焦る遠州などお構いなしに、マナはもう一度チャイムを押した。



 ピンポーン。



「はいはい、なんでしょうか……あら? 警察の方に、新垣さんのお嬢さん。どうされました?」


 ドアを開けたのは、ご高齢の婦人だった。


 薄ピンクのワンピースに、沢山の宝石が付いた長めのネックレスを身に着けている。歳は六十前後といったところだろうか。


 少しきついローズの匂いが、遠州の鼻を掠めた。


「警察署長官の遠州といいます。いや、昨日の捜査ではあまり打ち明けられなかったのですが、彼女、新垣マミさんが第一発見者でして。


 犯人らしき人物を見たと、そういうもんですから。ご近所の方にも、そんな怪しい人物はいなかったか聞き込みをしているんですよ」


「まぁ……、つらかったでしょう。大丈夫?」


 加茂カナエはマミの方を不安そうに見つめた。「ありがとうございます。加茂さんは見ていませんか? 昨日」


「昨日は主人と二人で家の整理をしていたの。バッタンバッタンと色々なものを動かしていたから、変な人や音を聞いても何も気が付かなかったでしょうね」


「そうですか」「お役に立てずごめんなさいね」


「おうち綺麗だよね」

「あら、ありがとう。


 私自身、家具とか物件とか見るのが好きだから、嬉しいわ。よく家具屋さんなんかに行ったりして、理想の家を妄想するのが好きなのよ。


 ここに越してきたときも、偶然理想の家を見つけられたと思って、嬉しくってしょうがなかったわ」



「五年ぐらい前に引っ越しされたと聞きました」

「そうなんです。私たち夫婦で、子供もいませんから。


 元々は北中央に住んでいたんですが、この歳で病院が遠いと不便でしょう? 西区出身の者同士、ある程度の貯金はありましたから、南中央区のどこかに引っ越そうということになりましてね。


 色々と物件を眺めていたのですが、一番よさそうだと思ったところが契約済みになったときなんか、ショックで一日落ち込みましたよ。


 結局、踏ん切りが早い方が得をするのだと知りました。それでここにすぐ決めたんです。ここの間取りは二の次に、場所という点で決めました」


「柳さんとは顔見知り程度と伺いました」

「まぁ、ご近所付き合いというやつですよ」


 カナエは少しばつが悪そうな顔をした。「隠してもしょうがありませんが、それ以上に関わったことはありません」


「昨日はずっと家に?」

「ええ、まぁ。食材を買いに行くときに一度外へ出ましたけど、一時過ぎごろかしら。


 その間は主人が家で留守番をしてましたし」


「ご主人は今もご在宅ですか? よろしければ、お話を聞きたいのですが」「今呼んでまいります」



 カナエが呼びに行っている隙に、遠州はマミとマナに耳打ちした。


「いいか? 奥さんの相手を俺がするから、君らはその間に旦那さんの方に不審者の件を確認してくれ」

「わかりました」




 数分後、ケイイチが顔を覗かせた。後ろには、カナエの姿もある。


「お待たせいたしました。昨日不審者を見かけたかという話でしたね。


 残念ながら見ていないんです。昨日は模様替えのため、何度か庭やら玄関先やらに出たんですが……お役に立てず申し訳ない」


「よろしければ、不審者を目撃した新垣マミさんの話を聞いてあげてくださいませんか。


 奥様は、どのルートで買い物に行かれたか、こちらに地図がありますので記載していただいてもよろしいでしょうか」

「ええ」「構いませんよ」



 ケイイチは、マミに近づくと言った。「大変だったろう、昨日は」

「加茂さんも大変だったでしょう? 警察官がいっぱい来て」


「いやなに。ウチは、妻が柳さんと接点なかったからね。妻の人選びに感謝しているところだよ」


「柳さんってどんな人だった?」

「どうというか……まぁ、私たちとは住む世界が違ったんじゃないかな。だからこそ、妻はあまり関わらなかったんだろう。


 時たま挨拶をする程度だったが、彼女も家で花を育てているだろう? あそこに咲いている花はやけに立派でいつかアドバイスでもなんて話していたぐらいだよ。


 妻はひどく引っ込み思案だからね、私が率先して話すことが多かった」


「おじさん個人で会うことはなかった?」マナは尋ねた。

 ケイイチは、ゆっくりと目を細めた。「どうしてそんなことを?」



「なんとなく」



「私個人として、柳さんと仲良くさせてもらっていただけだよ。……妻には内緒にしておくれ。


 機嫌を損ねるといけない」


「ケイイチさん以外に、柳さんと仲良い人っていた?」

「それこそ、新垣さんは仲良くしていたように見えたよ。流石江ノ西区の英雄だと感心した。


 あとは、深川さんとかも仲良くしていたかな? 柳さんに関してはそれぐらいだよ。



 それにしても……君たちの母親は何をやっているのだろうね。引っ越してきて姿を見かけたことがないと思っていたら、家を出て行ったと言うじゃないか。


 本当に彼女に対しては誰も彼もいい顔をしないことは目に見えているよ。“英雄”が結婚相手として選んだことが不思議なくらいさ」


「……そうだね」マミは反論するのを止めた。


「なんで? お母さん良い人だよ」マナは素直に反論をした。



 マナの顔を見て、ケイイチはふっと笑った。

「マナちゃんは、今小学何年生かな」

「ニ年生」


「そうか。じゃあそろそろ知ることになるだろうから、おじさんが入れ知恵をしてあげよう。


 江ノでは、東区で生まれた人はそれ以外で生まれた人と大きく異なる。東区は東区で生きるべきだ。じゃないと、お母さんのようになってしまうからね」


「お母さんって、東区出身なの?」

「そう聞いてるよ」

「誰から?」

「誰だっただろう……妻と二人でいるときに聞いたということは、覚えているんだけどね。そのとき、久しぶりに妻の怒った顔を見た。


 西区出身の女と“英雄”が結婚しただなんて! きっと騙されていたのね! とね。


 彼女、生粋の西区出身でなんでも自分の思い通りにいかないと性が合わないから」


 ケイイチは、マナの頭をポンと撫でた。

「英雄から生まれた君たちには、関係のない話だろうけどね」

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