正義の槍④
「柳ミカは、新垣宅の向かいに家を構えていた。公園があるのはその手前の道沿い。
つまり新垣宅のある通りに、犯人の居があるだろう」
地図を指差しながら遠州が二人に問いかけた。
公園は規模が小さく、何個かの家が取り囲む形で作られている。緑地計画か何かの一環で作られたようだったが、今や見る影はない。
管理する者がいないのだから当然ではあるが、現在残っているのはある程度の遊具と砂場、一つしかないベンチ、周りを取り囲む生命力の高い木々のみであった。
「たくさんいるね」
「ここらは南中央区でも過疎化地域だから、それに関しては助かったと言わざるを得ない。
南中央区の別の場所であれば労力は何倍かになっていた」
「ここらへんの全部に聞き込みをするつもり?」
「いや、ある程度の聞き込みは終えている。
結果、アリバイがある奴ら・接点のない奴らは省く。とは言っても、結果的に五家族九人にものぼる。
決して少ないわけではない。
……早々に船から降りる気になったか?」
「降りる? なんで?
まだ船の外側を見ただけなのに。宝島にたどり着くまで乗ってさえいればいいんだから」
マナの言葉は遠州の眉間のシワを増やす結果を生んだ。
遠州は何も言わずに地図をしまい、新たな紙を二人に見せた。
「これがその人たちってことですね」
「そういうことだ。知り合いはいるか?」
「はい。大体は」「ま、だろうな。心中察する」
遠州はため息をついた。
母親を殺した容疑者が全員知り合いだとは。
江ノ中央区ではありがちだが、地域の仲が親密すぎるというのも問題かもしれない。
最も西区も親密ではあるのだが、あそこはまた中央区とは別の問題を沢山抱えている。
東区に関しては場所そのものが問題であるので、挙げてはキリがないほどだ。
「順に行くぞ。
まずは新垣宅の隣、加茂ケイイチとその妻カナエ。子供はいない」
「物静かな方たちですよね。
その方達も五年前くらいに越してきました」
「柳ミカと同時期に引っ越しか。怪しいといえば怪しいが」
「それを今から調べるんでしょ」
遠州は口を閉ざした。
聞き込みの結果、加茂ケイイチには柳ミカと逢引をしていたという情報があったのだ。
自分たちの母親が不倫していたなど、そんなことは知りたくないだろう。
まぁ実際のところどうかは行って聞いてみなければ分からない。
遠州はぐっと手に力を入れた。