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姉妹スイッチ  作者: 中尾
第二章
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正義の槍②

 江ノ警察署に行くと、眉間にしわのある男が出迎えてくれた。


 付き添ってくれた警察官が敬礼をしている当たり、かなり偉い人なのだろうと推察できる。


 そんなに歳はとっていないようにも見える。あっても三十後半か三十前半ぐらいだろうか。


 右眉に一本ある眉間のシワのせいでそれ以上にも思えなくもない。


 ただ眉間のシワ以外は、存在感のない眉毛に存在感のない目、そして薄い唇と印象は薄い。


 身体もどちらかと言えば細身の体型で、手は関節が出て骨張っている。



「……昨日はよく眠れたか?」

「えっと……はい」「うん」


「そうか。……もう行っていい。ご苦労だった。引き続き周りの聞き込みを頼む」

「はっ!」


 マミは横目で警察官を追った。ふと彼と目が合う。


 かと思えば、彼は優しく笑った。


 思わず頭を下げた。

 ここまで連れてきてくれたことと、それ以外のこと。


 マミは改めて彼に感謝した。



「君たちはこちらへ。……聞きたいことがある」


 手前に設置されたソファに、促されるまま座った。机には水の入ったコップが二つ。「親御さんには連絡したか?」


「……お父さんには何も。お母さんはいません」

「そうか、いらんことをさせたかもな。一応、君たちの父親……新垣ツバサさんにはこちらから連絡をした。


 警察署に同行してもらうことも含めてだ。心配していたよ。それはそうだと思う」


 新垣ツバサ。消防署勤務であり、江ノではちょっとした有名人だ。一部の人間からは英雄と呼ばれることもある。


 警察関係者にはマミやマナのことが筒抜けらしい。


 警察官は少し躊躇いつつも、目の前にいる子供二人に名刺を手渡した。


 身元を明かしておいた方が得だと判断したのだ。


「”遠州メイヤ”さん」


 肩書も何もない。記載されているのは、名前と連絡先のみ。


「新垣マミと、新垣マナで間違いはないな?」


「そうです」

「うん」マナはポケットから携帯を操作して、ムムに電話をかけた。


 指示通りマナーモードになっていたマナの携帯に遠州が気付くことはない。


 画面をチラリと覗けば、ムムとの通話画面が表示されている。マナは安堵しそのまま携帯をポケットに押し込んだ。


「死んでいた彼女に、心当たりは?」

「近所に住む柳さんですよね。昨日写真を見て知りました。普段からよく余ったご飯を分けてくれたり、お小遣いをくれたり。


 五年位前に引っ越してきた方です」


「それ以外は?」


「そんな特別な人じゃなかったと思います。近所の方という認識以外持っていません」


「さて。じゃあ発見したときのことを話してくれ。できるだけ前後も含めて」



「学校が終わって、荷物を置きに家に帰って。


 その後に、マナ……妹を迎えに行こうとした道中で見つけました。公園は抜け道として使っていたので、学校終わりにも通りました。


 さっきはなかったものが置いてあって、変だなと思って近づいて」


 辺りを包む異様な雰囲気。


 匂いよりも先に、空気が違うことに気がついた。


「……そこで、発見しました」喉元に彼女が顔を出す。


「水を飲め。普段から、その公園を通っているのか?」

「ありがとうございます」一口飲み、マミは首を振った。


「そうです。少なくとも学校に行くときには必ず通ります」


「そうか。それ以外に昨日のことで気がついたことはないか? 


 冷静になった今だから気づいた現場の状況なんかがあればそれもぜひ聞きたいんだが」


「何も。


 ……でも誰かが通りかかったような気がします」


「ほう、背格好は?性別は分かるか?」


「多分男、だったと思います。誰かがこちらを見ていただけではっきりとした性別までは」


「その人物はどこにいた?」


「私が発見した場所から見えたので……ちょうど公園の入り口近くだったと思います。


 すぐにどこかへ行ってしまったので、どちらに逃げたのかは分かりませんが」


「なるほどな。


 犯人は、君が公園を通ることを知っていた可能性が高いというわけだ」


「どうしてですか?」


 マミの疑問に答えず、遠州はかぶりを振った。

「ともかく、他に柳ミカについて知っていることを教えてくれ。


 先程引っ越してきたと言っていたが。理由を聞いたことは?」


「柳さんから? いいえ。挨拶をしてもらったぐらいで特に何も」


「それ以外には何もないんだな?」

「嘘はないです。でもどうして?」


 遠州は少し悩んだ。


 子供にこんな話をして良いものなのかと疑問を持ったのだ。勿論、警察の立場としては話すべきではない。


 しかしそれ以上に遠州の胸にあったのは、誠意であった。真実を伝えることが彼女らのためにならないのであれば伝えようとはしなかっただろう。


 遠州は思い切って伝えた。


「これはお前らの父親から口止めされていた。だから今から俺がいうことは、独り言だ。


 そう思って聞いてくれ。



 死んだ柳ミカという女性は、君たちの()()だ。



 そもそも、柳という性は君たちの母親の旧姓であった。


 どういう訳か分からないが、つまりそういうことなのだ」



 マミは意味が分からなかった。


 何も理解ができなかった。



「そっか」マナは腑に落ちた。

 マナには心当たりがあった。柳ミカなる人物に見覚えがあったのだ。どこでかは分からない。


 しかし、()()()()()()()()


 それがまさか母親とは。


「妹の方はこの事実について知っていたのか?」


「私が生まれたときから、お母さんはいなかったよ」マナは呟いた。「柳さんのこと昔に見たことある気がしていただけ」


「私も聞いたことなかったです。そうですか。まさかこんな近くにお母さんがいたなんて」


「事情については、詳しく知らん。


 新垣さんは話したがらない。つまり、何故かそういう訳があって君たちに話を聞いている。


 何故柳ミカ、いや、新垣ミカは柳ミカなどと旧姓を名乗って家族の近くに越してきたのか。


 何故、柳ミカは殺されたのか。


 何故、柳ミカを一番に発見したのが、娘である新垣マミなのか。


 たまたまなのか、あるいは。



 その点がどうにも納得いかない」


 遠州は二人に情報を全て開示した。


「もう一度聞こう、柳ミカについて。


 覚えていることがあれば教えてくれ。できるだけ、多く」


 マミは意味を理解した。

 遠州が聞きたいのは、近所に住む女性としてではない。


 私の母親として、柳ミカがどういう人物であったのか聞きたいのだ。


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