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姉妹スイッチ  作者: 中尾
第一章
1/12

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 あれは、良く晴れた日だった。


 なんてことはない。学校から家に帰宅する途中、神社を見つけた。


 大きな井戸が設置されただけの小さな神社。



 自分の中で何かが惹かれた。



 井戸に腰かける。そしてしばらく空を見ていた。


 均等な青で塗られた空。


 寒い冬が終わり、だんだんと過ごしやすくなってきている。


 雲は薄く広がって、太陽がちらほらと顔を見せる。そんな時だった。



「やぁ」



 彼女ムムが私に話しかけてきたのは。





 微笑みを浮かべた彼女は、私に近づく。

 こんな小さな小学生の私に。


 当然ながら不快感を持った。


「何か用?」


「用といってしまえば、それまでなんだけどね。


 つまるところ、君に用があったわけじゃない」


 彼女は、一歩ずつ近づく。


 腹まで伸びた長い真っ直ぐな髪。前髪はセンターで分けている。

 身長は小さくも高くもなさそうな印象を受けた。



 彼女を一番印象付けるのは、その黒い瞳。



「黒い瞳、()()()()


「ありがとう。良く褒められるよ」

「それ自分で言っちゃう?」


「自分で言わなければ誰も言ってくれないんだ」


 そんなことなさそうだけど。

 首を傾げる小学生に彼女は微笑んだ。


「珍しいから美しいからと忌み嫌われたこともある。


 この瞳は必要以上に目立ってしまうから。


 君のように褒めてくれる者も、差別する者も同じように私の瞳を指摘してくれるよ。


 狂気と信仰心は表裏一体なのかもしれないね」


「狂っているようには見えないよ」


「そう? なら別に言う必要はなかったのかも。


 黒い瞳は何故か人を二つに分ける。嫌悪と信仰、きっかりとその二つに。


 もっとも私はどちらであっても構わないと思っている。認識を見直すような自虐はしない主義でね」


 彼女は小学生の隣まで来ると、同じように井戸に腰かけた。


「君は、何故ここに?」

「……」

「答えたくない? もしかして警戒されてる?」


「何の用? あなたみたいな人、知り合った記憶もなければ見かけた記憶もない」


「オーケー、その通り。


 私は君と初めて出会ったよ、姿を見せたのはと言う意味だけどね。


 ふむ、しかしながら不思議だね。


 私のことを怖がっている様子も見せない」


「怖くないから」小学生は素直に答えた。

「私は君が怖く見えるよ」彼女は笑った。


 しばらく沈黙していたが、とうとう彼女は諦めたように肩をすくめ本題を切り出した。


「君のお父さんについて、話が聞きたいんだ。


 勿論、与えてもらうばかりじゃない」そう言って、彼女は名刺を手渡した。




 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 探偵事務所 江ノ南中央区1-13

 ムム   TEL ***-****-****

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




「探偵?」


「そう、探偵だ。


 わざわざ名探偵と書かないところが売りだよ。分かる?


 書く必要もないほど才が溢れているから、見て判断してくれとそういう意味を込めている。


 逆にもし、名探偵と自分で書いている非常識な奴に出会ったなら、彼らは自分に自信がないばっかりにそういうことをしていると理解していたほうがいい。


 本物は、見かけだけをどうにかしようとなんてしないからね」


「それは、自己紹介?」

「厳しいことを言うね。私のことを偽物だと思う?」


「実際名前を聞いたことないよ。ムムなんて名前の探偵を私は知らない」


「それは君が知らないだけ。

 自分で認識しているよりずっと、世界は広いはずだよ。


 それに残念なことに人間というものは、自分の興味があるものしか知ろうとしない。


 身近にどれほど難解な謎が隠されていても、それを見ようとしなければ謎ではなくなってしまう」


「ふーん」


 小学生はムムの嫌味な言い方を翻すように、話題を変えた。「ムムの苗字は?」


「嫌いでね。わざわざ名乗らない」

 ムムは、子供っぽい顔をした。


「私が役に立ちそうだと思ったら、いつでも連絡してくれて構わない。


 たとえ深夜だろうが早朝だろうが私はいつでも応じるだろう。電話でも良いがあまり推奨していない。


 お金がかかるからね。君のじゃないよ、私の。


 探偵という職業はあまり利益を追求しない、いわゆる非営利組織と似たり寄ったりなんだ。


 毎月大変な思いをして……やけに話を逸らしてしまった。


 まぁともかくどんな手を使ってでも君の助けになる。


 保障しよう」


「君って呼ばないで。

 私には新垣マナっていう名前があるんだから」


 マナは、君と呼ばれることに歯がゆさを感じた。


 もしかしたら、ムムはすでにマナの名前を知っていたかもしれない。


 でもあえてマナは苗字も含め全てを名乗った。


 そもそも苗字が嫌いだというムムとは違い、マナは自分の苗字をいたく気に入っていた。


 それがマナの()()でもあった。


 小学生であるマナは、しかし苗字についてよく知っていた。



「オーケー、マナちゃん。私はムム、よろしくね」

「よろしく、ムム」


 それがマナとムムの出会いだった。

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