じゃんけん
「詳しい話はまた今度だ。さぁ、今日もモルックをやるぞ!」
耳を少しだけ赤くした佐山さんは、その感情を隠すこともせずに朗らか口元を緩ました。
「今日は三人いるし、じゃんけんで順番決める?」
「そうだな!」
「わ、わかりましたぁ」
最初はぐーの掛け声とともに出された3つの右手は、少女のパー一人勝ちであった。
「ヒィ‼」
——ヒィ‼……って……
一人勝ちのした少女——山田春深の青褪めており、少しだけパーを繰り出した右手が震えている。山田さんが狼狽えているのがわかっているのか、わかったうえで無視をしているのか佐山さんは笑っている。
「強いな! じゃあ、春からやるか! さて二番手を決めるぞ、覚悟しろ田中!」
佐山さんはやる気が満ちているのか、力こぶを作って見せつけている。ただただ、微笑ましいだけの行動に優しい気持ちになる。しかし、佐山さんの後ろから首を必死に横に振る山田さんがいて軽くホラーだ。
——たぶん山田さんは、一番手が嫌なんだろうな。
俺は山田さんに応えるように力強く頷いてみた。そしたら山田さんの首の動きがぴたりと止まり、嬉しそう……というより安心感からか息を吐き出した。
「ほら、やるぞ!」と佐山さんに声をかけられ、本日2度目のじゃんけんだ。先ほどと同じく「最初はグー!」から始まる戦いの勝敗は——
「じゃあ、一番手が春、二番手が私、三番手が田中だ!」
そう、田中洋一の負けである。
山田さんは一番手が相当嫌なのか泣きそうである。
——ごめん。山田さん。俺が勝ったら佐山さんと交渉して順番変えてもらおうと思ったけど……本当にごめん!!!
俺の気持ちが山田さんに通じたのか、彼女は親指を立て笑った。その笑顔はぎこちなさすぎて、罪悪感が募るばかりだ。
「ほら!春からだぞ!」
「あ、ありがとう。あきちゃん」
ずいっとモルックを渡された山田さんは諦めたようにそれを手に取り、真っ直ぐ並ぶスキットルを見つめた。
その立ち姿は先ほどまでのオドオドしていた姿とは想像できぬほど、堂々とした姿である。




