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滅びの邦  作者: 懐中最中
第一部 失いし記憶
2/6

2.晴れ、気温23度。エリアM第14部隊、野営地。

どうもこんにちばんは。懐中最中です。かいちゅうもなかです。

二話目です。ヒロインを出します。

いい感じに壊れた主人公を模索中。

※若干のグロ要素が投稿主の気分により入る可能性があります。ご了承ください。苦手な方は注意。

※投稿頻度はまちまちです。一ヶ月に一回は更新したいとは思っておりますが、もしそうならなければすみません。

 突然顎に衝撃が走った。頭が急に覚醒し、軽いめまいを覚えながらずり落ちた小銃を肩まで引き上げる。要らぬことをぐつぐつと考えているうちに随分と眠りこけてしまったようだ。誰も見張りを代わらなかったのだろうか。恒星が地平線から顔を覗かせ、オレンジ色の光線で辺りを照らしている。手はカチカチに冷えていた。まだ冷たい風が吹き込み、ボロボロの軍服を突き抜けて、寒さが身に染みる。ぼうっとどこを見るでもなく座っていると、不意に肩を誰かに叩かれた。突然不意をつかれ、驚いて腰に挿しておいた拳銃を抜きかけたが、背後からふわりと漂った白檀のような香りで、相手が知っている人物だと気づき、ばれないようにそっと元に戻した。頭の片隅にあった記憶を呼び起こす。

「…伝令部隊の…『鈴鳴』だったか?」

 彼女は軍直轄の暗躍組織に属している『鈴鳴』という名の女だった。コードネームなどではない。何でも、元々捨て子だったらしく、元々の名前がなかったそうだ。実際は知らないが、多分自分と同じかそれより年下だろう。まだ女というには幼い容姿は、少女特有の儚さを纏っていた。

「…左様でございます。OHR上層部からの伝令を伝えに参りました。」

 彼女は右手を腹の前におき、左手を背に置いて俯いた。少しずつ登ってきた日の光で、若干顔が陰る。伝令部隊特有の機動性を重視した薄い黒装束がヒラヒラとはためく。

「伝令は一点です。『全テノ血ノ騎兵ニ告グ。本土近海ニ敵戦艦ノ目撃情報有リ。昼マデニ血ノ騎兵本基地ニ集合セヨ』とのことです。」

 彼女は仮面のような顔のまま、抑揚のない声で伝令を伝えた。内心でまたか、と思いつつ俺は立ち上がり、シワになっている服を直す。

「了解した。すぐに向かう。」

 短く応答すると、彼女は顔を上げて少し眉を下げた。この国ではあまり見ないような透き通るような白髪が揺れ、薄い碧色の彼女の瞳を隠したが、髪の奥からほんの少し彼女の感情が読み取れた。

「あの…大丈夫ですか?軍服、随分ボロボロでございますが」

「…問題ない。また修繕しておくから」

「…左様でございますか」

 俺がそういうと、彼女は呆れた表情を一瞬したが、また元の無表情に戻った。

「では、集合いただきますよう、よろしくお願いします。それでは」

「ああ。」

 彼女は、ポータルを使い、その場から消え去った。一人、戦場の端に残される。起床の時間を知らせる笛が、物悲しさを纏って俺を避けていった。俺はあくびを噛み殺し、陽の光を浴びながら軽く背中を仰け反らす。またずり落ちた小銃を担ぎ直し、俺はまた無線に声をかけてポータルを起動した。今回は予め目を閉じることに成功した。持ち上げられるような浮遊感を少しの間感じた後、足に硬い衝撃。危うくつんのめりそうになったが、かろうじて耐えた。

 目を開いたそこでは、戦車や戦闘機を整備しているもの、銃の歪みを治しているもの、刀を打っている者、弾丸を製造しているものなどが齷齪と働いていた。すぐに鉄錆の匂いと火薬の匂いが俺の鼻に届く。甲高い金属と金属の擦れ合う音、ハンマーか何かで金属を叩く音や、マシンガンのような、ミシンのような打撃音。こんな騒音の中では、まともに会話さえできやしないだろう。俺はそう思いながら、やかましい工場内を奥へと進んでいった。ボロボロの軍服を身に纏った俺を興味深げに見つめるものもいたが、大抵の職人はこちらには見向きもせず仕事に打ち込んでいる。仕事熱心なわけではなく、単に興味がないだけだろうが。俺は特に視線を動かすこともなく奥へと進んでゆき、端の方で椅子に腰掛けて弾丸の検品を行っていた、肩幅の狭い薄汚れた老いた男の肩を叩いた。

「あん?」

 男は手を止め、椅子を回転させゆっくりとこちらを振り向いた。男は肩を叩いたのが俺だとわかると眉を顰め、頭に巻いたタオルで額の汗を一度拭った。一瞬こちらに視線を合わせたのちふいと顔を背けると、工房を気だるげな目で見やりながら男は口をひらく。

「まだ生きてやがったのか、坊主」

 何を話すかと思えば。いつも通り、男は憎まれ口を吐き出した。

「残念ながら」

 特に考えずに買い言葉を言い返す。

「本当に残念なこった。てめえさえ居なけりゃ俺は今頃軍を出られてたってのに」

 彼は心底そう思っているかのように、やれやれといった様子で腰をかがめて椅子の下から水筒を取った。

「すまんな。俺の分の新型銃はないみたいでな」

「本当に意固地な奴等め。ちょいと上のもんの邪魔だからって嫌がらせにも程があるじゃねえか。全く、おまえが旧式なんか持ってるせいで、俺が弾を作る羽目になってんだからな」

「作りたくなければ俺に新しい銃を寄越せ」

「出来ねえことを言うんじゃねえ」

 水筒をひっくり返して中身を飲んだ後、ぶつくさ文句を言いながら彼は検査していた無造作に散らばった弾丸をマガジンに無造作に詰めた。そして机の引き出しから汚い布ぶくろを引っ張り出し、その袋に『5.57×50mm』と書き、マガジンを入れて俺に渡した。

「はいよ。…お前だけだぞ、こんな旧式使ってるの」

「好きで使ってるんじゃないさ。俺だって最新型の機銃を使いたいと思ってる。」

「どうだかね。」

 彼は肩をすくめ、椅子を元々の角度に回転させ、肩越しに俺に手をぶらぶらと振った。

「ほら、行った行った。俺は暇じゃねえんだ。この工場にいる分、仕事は増えるばかりだからな。」

「ありがとう。いつもすまんな」

「感謝するなら早いうちに銃を替えてくれ。」

「善処するよ。」

 俺は踵を返して工場の出口へと歩き始めた。昼までにはまだ時間があるが、もう特に用事はない。軍服を直すと言ったが、支給品課に行ってもどうせ新品なんかくれないだろう。汚い布袋を肩に掛けながら、俺は無線のポータルを起動した。すぐに『クロノス』が立ち上がる。

「おはようございます。目標地点をどうぞ」

「…'血の騎兵本基地'へ」

 少しの沈黙の後、賢い人工頭脳はすぐに応答した。

「…エラー。そのような場所は存在しません。他の場所をお願いします」

 …どうやら近い場所にワープして、本基地までは歩くしかなさそうだ。ポータルシステムに本基地を入れておかないなんて、嫌がらせに磨きがかかっている。実にうざったい。どこが近かっただろうか。

「A-4だ。A-4へ頼む」

 後頭部をガリガリとかいて、一番近い場所を『クロノス』に伝える。

「了解。ポータル…起動中。目標、A-4。対象…フィム=ライ、声紋により認識完了。到着地点の安全性は良好。…起動完了。移動を開始します。カウント開始、3、2…」

 目をつぶる。本日2度めの浮遊感。いい加減酔いそうだ。吐くと片付けるのが面倒になるので、早いうちに着くといいが。そんなことを考えている間にまた硬い床の衝撃を感じた。目を開けて上を見上げる。そこは自分の部隊のような簡素なテントなどはなく、ずっしりと構えたコンクリートの建物が2、3棟そびえたっていた。人気は全くと言っていいほどなく、まるで巨大な石に睨まれているように感じた。地点Aは司令部があるところで、こうした建物が直線上によく建っている。

 ここに来るのは久しぶりだ。本基地に向かうのも。陽の光を背に受けて足を擦りがちに歩く。踏み固められた地面は、踏み出すたびたびザッザと音を立てた。いくつものコンクリートの豆腐は視認出来るのだが、基地は見えない。昼までに基地に着くだろうか。

 黙々と歩き続けるうちに、中に着ていたシャツが汗を吸って体に張り付いた。水筒をもらってくるべきだったなと半ば後悔しながらも、この何も遮蔽物のない場所で休むわけにもいかず、半ば惰性で基地を目指した。

 額の汗を拭うため少し立ち止まり、空を見上げる。恒星が随分と高いところまで登っていた。晴れ渡った青空で、容赦なく俺を照りつけていた。喉はすでにカラカラだった。だが、持っているのは例の不味いパックだけだ。あんなものでは喉の渇きは癒されない。

 突然、ドドドド…という音とともに地平の向こうから砂埃が上がった。しかもそれはだんだんこちらに近づいてきていた。

 敵襲か?

 半ば朦朧としている頭を振り、小銃を構える。金属部分が熱せられて熱い。依然としてそれは近づいてきていた。いよいよこのままではぶつかる、そんな距離までそれが迫った時、俺は脇を閉めて引き金に人差し指を乗せた。当たるかはわからない。だが覚悟を決めなければ。射撃姿勢をとったその直後、俺の手前で砂埃を撒き散らして不意にそれは止まった。砂埃の後ろに誰かいる。

「ちょっと、撃たないで下さいー。こちらに敵意はないですからー。」

 聞こえてきた声に気づき、慌てて銃を下ろす。本日二回目。やはり過敏になっているのかもしれない。

「あ、やっぱりフィムじゃん。こんなところで何してんの?」

 砂埃が消え去ったそこに現れたのは、同じ『血の騎兵』の女兵士のミナだった。階級は確か陸軍兵士長。その背後には、嫌にゴツいバイクが鎮座していた。砂埃の原因はこれのようだ。

「基地へ出向く途中だ。」

「あー、やっぱり?召集かかったもんね。でも、こんなところで歩いてちゃ、多分間に合わないよ?」

 彼女はヘルメットを小脇に抱え、俺に歩み寄りながらそう言った。前びらきの軍服の間で、真紅のネクタイが薄く揺れている。肩に書かれた「D-6」の文字が燦然と輝く。

「そうはいっても生憎これしか方法がないものでな」

「だけど、このままだと多分あんた干からびるよ?」

「どうしろと?」

 目線を彼女に合わせる。彼女は被っていたヘルメットを再び被り直した。そしてバイクに戻り、それにまたがる。

「乗ってく?」

 ジリジリと背中が焼けていた。喉も限界である。ここで彼女に遭遇したことは一種の幸運だと俺は乗ることにした。

「では、お言葉に甘えて」

 バイクの後ろに回る。シートはやはり熱かったが、立っているよりは随分と楽だった。俺が座ったのを見て、彼女はハンドルを握る。

「じゃあ、行くよ?」

 ……え?

「いや待て待て」

「何?」

 彼女は不思議そうな声音で俺に聞き返した。

「何、じゃないだろう。このまま発進したら、俺は放り出されるのだが。」

 そう。何もつかまないままバイクに乗ると、慣性の法則によって俺は吹き飛ぶ。そうなれば俺はまた徒歩で基地へ行かねばならない。それだけで済めばまだいいが、高速で走るバイクから振り落とされようものなら、俺はまた負傷して病棟送りになるだろう。ちょっとそんな斬新な負傷の仕方は避けたい。さきほど面倒な帰還報告だって済ませたのだ。

「あー。じゃあどっか持ってて?」

 彼女は素気なくそういうと、またハンドルを握り直した。俺は、少し考えた後ゆっくりと彼女の腹部に手を回した。途端に短い悲鳴。彼女は振り返った。俺の手は払われる。

「ちょっと!?触んないでよ!」

「持たないと振り落とされるが!?」

 ついでに持てと言ったのは彼女の方である。

「この変態が。私まだ…」

 彼女は何かを飲み込んだらしく、ぶつぶつ言いながらエンジンを入れた。駆動音があたりに響く。

 何がダメだったのかわからないまま、彼女の腹部にしがみついた。

 全く、人の考えていることはよく分からない。

ここまで読んでくださり、本当にありがとうございました。

次話も読んでくれると投稿主は喜びます。

では三話で。

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