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滅びの邦  作者: 懐中最中
第一部 失いし記憶
1/6

1.曇り、気温24度。中央軍病棟、277号室

どうもこんにちばんは。懐中最中です。かいちゅうもなかです。

執筆するのは初めてです。あらすじって難しいですね。

これから少しずつこの小説を書き進めようと思っております。

ジャンルは多分シリアス系戦記?になればなーと。

※若干のグロ要素が投稿主の気分により入る可能性があります。ご了承ください。苦手な方は注意。

※投稿頻度はまちまちです。一ヶ月に一回は更新したいとは思っておりますが、もしそうならなければすみません。

 その夢はいつも、起きたときには忘れてしまっていた。

 それは、薬特有の好きになれない香りの漂う、この病棟で目を覚ましたとしても変わらないことだった。うっすらと開けた目に一番に飛び込んでくるのは、家族の心配そうな顔というわけもなく、時々点滅を挟みながら、鈍くこちらを照らしている蛍光灯だった。ゆっくりと自分の寝ているベッドの解像度が高くなり、次いで出来の悪いラジオのような音質の無線の耳障りな音が耳に捩じ込んでくる。洗濯のしてあるシーツの香りがしてきた。

 目線を横に動かすと、瓦礫と泥で汚れ、腹部には大穴が開き、袖が切り裂かれたようになっている、ボロ雑巾のようになった軍服がハンガーに掛かって揺れている。肩に書いてある紋章もなんだったのかわからないほどに薄くなっている。耳をすませば、遠くからは看護師たちの喧騒と、発砲音が時々聞こえた。ここは軍の病棟だろうか。

 どうやら、また()()したようだ。

 起き上がって、損傷部位を確認しようと体を起こす。腹部に痛みが走った。敵と交戦中に、傍腹に銃弾を受けてからの記憶がない。何か懐かしい夢をみたような気もするが、思い出そうとするたびにその映像に靄がかかるので、結局何だったのかわからない。が、特に気にすることでもないだろう。

 いつから寝ていたのだろう。分厚いカーテンで閉じられた窓の隙間からは、赤橙色の光が微かに漏れていた。病室着を捲り上げてみると、貫通した穴こそないものの、右の脇腹には縫合してある傷跡が黒ずんだ血で固まっている。触ってみると、針が何本も刺さっているような鋭い痛みを感じて、慌てて手を引っ込める。

 軍に属してから幾度となく負傷することがあったが、どうしても痛みには慣れない。ベッドの横に備え付けられたサイドテーブルから、箱から無造作に散らばった痛み止めの錠剤を二、三つまみ、口に放り込む。薬の効果が現れるのを待つ間に、看護師が一人、カルテを持って入ってきた。

「お目覚めでしたか。体調はどうですか?」

彼女はサイドテーブルを機械的に片付けながらそう聞いた。彼女の目元のクマを見ながら、俺は大丈夫だとかなんとか適当に答えた。彼女は聴こえたのかそうでないのかわからなかったが、それはよかったですね、とだけ言った。

 頭が覚醒してくると同時に、戦場に復帰しなければ、と頭の中に浮かんだ。居ても立っても、というよりは義務に近い感情だった。彼女もそれを理解しているようで、カルテに何か書き付けると、では私はこれで、と言ってすぐに席を外した。俺は念の為、彼女の足音が聞こえなくなるまでじっとしていた。心臓が脈打つ。蛍光灯が薄く瞬いた。

 ついに彼女の足音が聞こえなくなり。私は軍服を着るためにベッドから降りる。シャツは病院のものを拝借し、ボロボロの軍服を羽織った。ついでに置いてあった栄養補給パックも失敬しておいた。痛みは無くなったとはいえ、どこか体のコントロールがうまくいっていないようで、着るのには少し手間取った。まあ毎度のことなので、じきに慣れるだろう。そう考えながら無線を腕のポケットに突っ込む。

 やっと着終わった軍服の上からバトルライフルを装備し、ブーツを履く。弾数が少ないのか、カートリッジベルトの重みを感じない。後で整備班に言っておかなければなどと考えながら立ち上がった。さっきまでは重さなど感じなかったのに、全てを装備して立ち上がると急激に足が重くなる。片方の足を半分引きずるような体勢でやっと病室を出れば、そこは戦場のような有様である。いや、正にここは軍の病院なのだから戦場にあることに違いないが。

 血に塗れたベッドの上で、千切られた足をつけてくれと喚くもの、末端部分の腐食が始まって、迫り来る痛みを堪えきれずに暴れるもの。体の欠損は見られないが、顔が真っ青で目が虚空を見つめたまま微動だにしないもの、自分と同じように銃弾を受けて血を軍服に滲ませ、足をひきずっているものーーー。

 一人一人に看護師や医者が回り懸命な治療を行う一方で、一人一人と命の灯火を消していく人々。俺はその光景をただ見つめることしかできなかった。目を覆うことはできない。自分にできるのは、戦場に一刻も早く帰還することだけだ。

 俺は()()を振り切るように病棟の出口へと走り出した。肩に下げた小銃が不恰好な振り子のように振れる。何人かの看護師に当たり、訝しげな視線をむけられた。それをほんの少しの愛想笑いと会釈でかわしていきながら、俺はポケットに入れておいた栄養補給パックに手を伸ばした。

 あまりうまい物でもないが、戦場に行く前に摂取しておくべきだろう。そう思いながら片手でパックの蓋を捻り開け、口をつける。瞬間、口の中に青臭い、例えようとするならば大豆を生で齧ったかのような、はっきり言って不味い味のペーストが口の中に広がった。思わずそのまま吐きこぼしそうになる。

 パックを潰して喉に中身を押し込み、辛うじて嚥下する。軍生活も長いが、このただ栄養を補給することだけを考えられた、食物と呼べるのかどうかも怪しいゲル状物質には全く慣れない。ほぼほぼ毎日食事はこれなのに。本来ならば味などにいちいち頓着する必要などないのだが…まだ口の中に味が残っている。全く、ひどい味だ。本当に。

 中身を吸い終わったパックはズボンのポケットにでも挟んでおいた。後で捨てておこう。

病棟を出ると、もうオレンジ色の恒星が地平線に飲み込まれようとしているところだった。斜陽が病棟の外壁を照らして目が眩しい。体の周りをじんわり湿った空気が取り囲み、首筋がどことなく不快だった。もうすぐ夜になる。すぐにでも自軍へ帰還しなければ。

 自軍はここから飛行機で十分ほどの場所だろうか。正直ここから自身の属する隊、「M-14」がどの程度離れているのかわからない。巨大な一枚の壁のようになった戦線は国を守るように西側に配置されている。その両端はどこにあるのか俺は知らない。それどころか自軍以外の隊の位置さえもしらない。知っても何の得にもならないし、第一職務に関係ない。

 自軍へは到底駆け足では行けないので、俺は無線を肩から外して小さく声を発する。

「クロノス」

 数秒の間があったのち、無線から少し低めの声の合成音声が応答した。

「こんにちは。目標地点をどうぞ」

「M-14だ。急ぎで頼む」

「了解。ポータル…起動中。目標、M-14。対象…フィム=ライ、声紋により認識完了。到着地点の安全性は期待できません。…起動完了。移動を開始します。カウント開始、3、2…」

無線に内蔵された人工知能が自動でポータルを制御し、俺は誤って次元の間に取り残されたりすることのないようにしっかりと無線を掴んだ。

 「1、0」

カウントが終了すると同時に耳鳴りと浮遊感が俺を襲う。ついで体が中心から捻れるような感覚。視界では超高速の何かが上下を移動していき、青い光が高速で点滅している。数秒の間の後、バンっと音が鳴った直後に足から再び地面の感触を感じる。目の前には下手くそな字で、「エリアM 第14軍隊」と書かれたカーキ色のテントが一つ、砂煙を纏って鎮座していた。遠くからは薬莢の落ちる澄んだ音がする。テントの周りでは何人かの勲章をつけた上官たちが話し合っていた。彼らはポータルで移動してきた俺を訝しげに見つめた。俺はその視線を無視してテントの中に入る。中にはこの軍隊の隊長がいるのだ。そいつに一応帰還の報告をしなければいけない。できるだけ目を合わせないように、入ってすぐの入口のところで俺は目線を下にし、膝を折って頭を垂れた。

「上等兵フィム=ライ、負傷しておりましたが幸運にも早期回復し、恥ずかしながら再び戻ってまいりました。微弱な戦力にもなりませんが、是非とも参戦願います」

できる限り感情を押し殺し、丁寧な言葉で報告した。数秒間の沈黙の後、ぱさりと新聞を置く音の後に、頭の上から静かな低い声が降ってくる。

「…ご苦労。貴殿の迅速な回復を心より嬉しく思う。この戦場は国を守るための最前線の戦いである。是非とも優秀な戦果をあげてもらいたい」

「はっ。ありがたきお言葉、感謝します」

 心にもないこと言いやがって。内心でこの隊長に向かって唾を吐く。姿勢は崩さない。

「それでは、貴殿の小隊へ戻るがよい」

「失礼します」

 そのままの姿勢で速やかに、しかしゆっくりとテントを出る。テントを出ればもう外は薄い群青色の空だった。薬莢の音も消え、束の間の静寂が辺りを包む。上官たちもいなくなっていた。その足で小隊のテントへと向かった。もう夕食どきだろうか。いくつかのテントから明かりが漏れている。小隊のテントにたどり着いた。どうせ必要などないだろうが、一応帰還報告をしようと俺はテントに入った。

「フィム=ライ、ただいま帰還しました」

 するとまず、中に居た何人かがバッとこちらを振り向き、瞬時に目を逸らした。何人かが隣にいた者と視線を交わし、ヒソヒソと何か呟く。別に、いつものことだ。奴らの横を大股で通り過ぎ、テントの備蓄の補給パックを二、三個引っつかんでテントの外に出た。見張り用の椅子に座る。冷えてきたので軍服のボタンをしっかり閉めたが、ボロボロの軍服のボタンをいくら閉めたところで防寒着にはならず、諦める。胸ポケットについたバッジが目に入った。

 俺のつけているバッジは1つ。勲章なんかではない。丸い暗赤色の金属板にデカデカと『血の騎兵』と書いてある、簡素なものだ。しかしながらこれこそが、俺が嫌われ者である最たる所以である。

 便宜上の説明では『血の騎兵』とは、この軍隊総員約1億7000万人以上の内でもわずか数十人ほどしか存在しない、軍司令部直属の軍隊で、所属するものは皆軍にその身を捧命を惜しまず戦う、勇気あるもの達であるとあった(軍則に書いてあった)。だがこんなことはもちろん真実ではない。あくまで便宜上での話である。”軍上層部にとって邪魔な存在”を集めて司令部が直接監視している隊、それが『血の騎兵』の真の姿だ。ここに属するものは危険を顧みない指令を受ける上に、一切の名誉を受けることはできない。上層部に楯突いた者はこの隊に入れられ、公認の”嫌われ者”になるのだ。そうすれば上層部にとって邪魔なものは孤立し、味方を失う。わかりやすいバッジという烙印がついていることによって隠すこともできない。バッジを投げ捨てようものなら、内蔵されている位置測定システムによって捨てたことがばれ、明日中には軍則違反をした者として晒し者にされるだろう。そうなればもう、軍人として生きることはできない。だから俺は、今日も明日も静かにバッジをつけて従軍する。

 俺には帰る場所がないから。

 

ここまで読んでくださり、ありがとうございました。

あらかたのストーリーは決めてありますが、それに従って進むとは限りません。

何かご意見があればどうぞ。

次話も読んでいただけると幸いです。投稿主は喜びます。

最後にもう一度、ここまで読んでいただき本当にありがとうございました。


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