8.ただ目的のために
「きゃあぁぁぁっ!」
珍しくイライザ、父と私、三人が揃った夕食の席。イライザがどうしてもといい、何の気まぐれか父がそれに答えた。その結果行われた親子水いらずの夕食。それを初めて十分程度した頃、父が急に喉元を抑えて苦しみ出した。
「父上、どうされましたか」
慌てて駆けつけると大量の血を口から吐き、倒れた。
それを見た侍女が叫び声をあげ、聞きつけた使用人が食堂に集まる。
「すぐに医者の手配を、早くっ!」
「は、はいっ!」
男の使用人が私の指示を受け慌てて部屋を出ていく。その間も父の呼吸や心音は弱くなっていく。
「あははは」
その中、一緒に食事をしていたイライザ。彼女のことまで気を回していなかったので存在を忘れていた。その彼女が苦しむ父を見て、嬉しそうに笑った。その姿を使用人たちは恐怖した。それぐらい異様な光景だった。
「これで全部、私のものだわ。あはははは。やった、やったわ。あははははは」
イライザは狂ったように笑い続ける。
「イライザ、父の食事に何かしましたか?」
「ええ」
イライザは父の介抱をしている私の元に来て、私の頬を撫でる。うっとりとしたように、まるで愛しい人でも見つめるような目で彼女は私を見る。
「これであなたは伯爵になれる。全てはあなたのためよ。あなたと私の未来のため」
彼女は自分の世界に酔っているようだった。
騎士がこの事件を調査する必要はない。
これだけ多くの使用人の前で自分が犯人だと自白しているのだから。
◆◆◆
父は死んだ。
毒死だ。
父に運ばれた食事に致死量を超える毒が入っていることが調査の結果、分かった。イライザが使用人や私の前で自分が毒をもったと自白していたので彼女の身柄はすぐに騎士団が抑えた。
「何をするの!私は伯爵夫人よ」とイライザは叫び、私に助けを求めて来たけど私は彼女に背を向けて騎士団の事情聴取を受けに行った。
そこでイライザが依存性の高い違法薬物を服用していたことを聞いた。
父が毒で苦しんでいる時の様子がおかしかったのはその薬によるものらしい。確かに、普通は自分が毒を混入させたとはどんな馬鹿でも言わないだろう。
薬の作用でハイになっていたため、イライザは自分から大勢の使用人の前で犯行を暴露したのだ。そのおかげで騎士団は大して調査をする必要がなくなったので不謹慎だが有難い事態ではある。
まぁ、イライザに気づかれないよう彼女の飲み物にその薬を入れていたのは私だけど。
「犯行に及ぶ際、気持ちを落ち着かせるために薬を服用したのだろう。彼女の症状の重さから日頃から薬を服用していたと思われる」
「・・・・・そうですか」
「その、聞きづらいんだが、夫人は、君に性的な関わりを強要していたと複数の使用人から聞いたのだが」
「本当です。私の本当の母は私が幼い頃、使用人の男と出て行きました。その頃からイライザに言うことを聞かないと邸から追い出すと言われていました。子供の自分が邸を追い出されては生きていけないのは明白なので従うほかありませんでした。追い出されないために自分から媚を売って気に入られようともしていました」
事情聴取を担当した騎士団の人は痛ましそうに私を見る。
「今は私も十六になったので追い出されても生きていけるのかもしれませんが、幼い頃受けた脅迫が私に彼女を拒否できなくさせるんです」
「何もおかしなことではありません。虐待を受けた人にはよくあることです。すみません、辛いことを聞いてしまって」
「お仕事ですからね、気にしないでください。・・・・・イライザはどうなりますか?」
「毒を夫人が購入した証拠はすでに出ています。夫である伯爵の毒殺に加え、あなたに対する性的虐待。どのような刑罰が下されるかは今の段階では言えませんが、重い刑罰が下されもう二度とあなたの前に現れることはないでしょう」
「そうですか」
私はホッと胸を撫で下ろす態度を取った。
騎士団の事情聴取を終え、私はまっすぐと邸に帰った。
イライザは刑罰が決まる前に隠し持っていた毒を服毒して死んだ。
一旦完結になります。
別作品にてエーベルハルトとリズの物語を描きます。
そちらは現在、構想を練っています。