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4.運命的な出会い

イライザはあれから何度も私を部屋に招き入れた。

私はそれに抗う術を持たなかった。

十二歳の子供である私は邸から追い出されたら生きてはいけない。

だからただひたすら耐えた。

苦痛でしかない時間を、「誰か、誰でもいいから助けてくれ」そう願いながら。けれど助けなんて来ない。

助けてくれる人間はいない。誰もいない。


だから・・・・・。


大丈夫、大丈夫、大丈夫。

平気。

大したことない。

これくらい、何でもない。


そう、自分に言い聞かせ続けた。


「蛙の子は蛙って言うのは本当だな、アナベル」

「そうですね、お兄様。娼婦が産んだ子供が男娼なのは必然のことですわ。ああ、穢らわしい。どうしてお母様はあんな穢らわしい子供を使っているのかしら」

「そんなの決まっているじゃないか、アナベル。お母様も穢らわしい存在だからだよ」

「ああ、そうね。そう考えるのならお似合いの二人ね」

アナベルとローラントは自分の母親を嫌悪しているのか。

“穢らわしい”と彼女たちは言う。

私の存在、自身の母親に対して。でも、それだけではないだろう。

自分達以外の全て、あるいは自分達を含めた全てに対しての言葉なのかもしれない。


◆◆◆


父は母と離婚した。そして、イライザを後妻として迎え入れた。

彼女は私の義母になったけど、だからといって私とイライザの関係が変わるわけではない。イライザは気が向いたら私を部屋に連れ込んで奉仕を望む。

私は彼女に逆らわなかった。彼女に乞われるまま彼女の望む通りのことを忠実に行った。

心も体も穢されていくけど、どうすることもできなかった。

その関係を続けて二年が経過した。私は十四歳になった。

十四歳の冬、母が死体となって帰ってきた。

二年ぶりに見た母は痩せ細っていた。殆ど骨と皮だ。彼女の持ち物から伯爵家所縁の物が出て来たので親切な方が母を届けてくれたのだ。届けられる距離に母は居たのだ。なのに一度も私に会いに来てはくれなかった。私の存在なんて忘れてしまったのだろうか。

母は葬儀をあげることも伯爵家の墓に入れてもらうことも許されなかった。

誰もいない寂れた場所に母の墓はポツリと作られた。

「寂しいの?」

呆然と母の墓の前で立ち尽くしていると青銀の髪にシアンの瞳をした少女がいた。

「君は?」

「リズ」

見た目は貴族の娘のようだけど、服装はボロボロで一般平民よりも下、おそらくスラムの子供だと思われる。もしかしたら父親か母親のどちらかが貴族なのかもしれない。

リズと名乗った少女の手には数本の萎びれた花が握られていた。

少女はその花を母の墓の前に供え、まるで慰めるように母の墓を撫でる。

「寂しいね」と言いながら。

そんなことをしても死者には何も届かないのに。何の慰めにもならないのに。

「お兄ちゃんも、寂しいね」

「・・・・・私は」

寂しくはない。そう言おうとしたけど言葉が出てこなかった。

リズが私の手を引っ張る。まるでしゃがめと言わんばかりに。言うことを聞く必要はないのに私はまるでそれが正しいかのように自然と地面に膝をついた。

すると少女は視線を合わせた私にとても嬉しそうに笑いながら私の頭を撫でる。

「良い子。お兄さん、良い子」

何を持って「良い子」になるのかは分からない。年はもいかない子供のすることだ。深い意味なんてないだろう。

分かっているのに、涙が止まらなかった。

気がついたら私は自分よりも小さい女の子の体に縋りつき、泣いていた。

リズは嫌がる素振りもせずに私が泣き止むまで私の背中を撫でた。その手が優しくて、温かくて更に私は泣いてしまった。

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