仕事もはじまっちゃったよ!
・・もう、何だか疲れた。まだ朝なのに。
異常に機嫌のよいジョン君と私は一階のだだっ広いリビングルームに向かった。
これは知ってるぞ。「FXF」の五人は共同生活を送っている。マンション一棟買い上げて、それぞれ自分の部屋と皆で集まる部屋、エクササイズルームやシアタールームなんかも完備されてるって。
前、雑誌で読んだことがある。
それに。
どういう理由か分からないけど、私はこっちの国の言葉が分かるし、どこが自分の部屋でどこが集合場所でなどもちゃんと分かってる。ヨン君の記憶も持ち合わせてるんだな。
良かったな。ってよくないな。ややこしいな(やっぱり)。
私たち二人が向かったリビングには、私たち以外の三人がもう来てた。
最年長でリーダーのミヒョン。その下のカン。そして、ヨン君、ジョン君と同じ年のボム君。
この五人で「FXF」だ。
ミーハーだけど、五人揃ってる姿を見てワクワクする。一人、自分だけど・・・
「遅い」
いきなり、ミヒョンに低い小さな声で言われる。
「え?」
遅いって言った?なんか声小さくて聞き取りにくい。
でも、私の「え?」はスルーされる。二回言うの面倒くさい??
「さ、始めよっか」
皆、さっさと定位置に座る。メイクさんも大忙し。だいたい一人に三人はついてる。こっちの芸能人は男の子でもメイクばっちりだもんな。私もさっきから、されるがまま。ものすごい至近距離からメイクさんにメイクされて、息いつするのよ?ってなって苦しかった。
「あのー、息してくださいね」
メイクさんが苦笑しながら言う。
で、ですよね。
隣でボム君がうっすら笑ってる。
そのボム君がジョン君に何やら合図してた。すると、ジョン君が奥からピアスを二つ持ってきて一つボム君に渡す。お互い、同じ形のピアスをつけていた。
そう言えば、ヨン君はピアスしてないんだよね。親からもらった大事な体に穴をあける事はできないって。
何となく、私はさっきジョン君から渡された数珠を見た。
そっと、私の数珠を触ってソファに座ったジョン君。
また、ボム君はうっすら笑っていた。
「はーい、じゃ準備できたら、今日の流れ説明しまーす」
マネージャーさんが前に立つ。今日は、結構真面目系のコンセプトらしい。WHO?WWF?よく分からない英語が並ぶ。イメージビデオを撮るらしい。まあ、私が今更考えてもどうにもならんだろ。ここはヨン君が分かってると信じて、しれっとマネージャーさんの話を聞く(ふり)。
その後、マネージャーさんの手下みたいな人達がいっぱい部屋に入ってくる。私にも二人ついた。
そして、台本を渡される。台本を見ながら、その二人は怒涛の如くしゃべり始めた。
「はい、じゃあヨン君はこの場面でミヒョンさんの肩に手を置いてくださいね」
「その後、二人で揺れてください」
「で、その時、ブレスレットが少し見えるようにしてください」
「カンさんの後ろで手を動かしてください」
「今日は一人にならないでくださいね」
「常に誰かと一緒にいてください」
「ジョン君がしゃべってる時は、じっと見つめてください」
「ジョン君とボム君がからんでる時は、下を向いてください」
「ちょっと寂しそうな感じで下を向くようにね」
「そうそ。それでちょっと離れたりしてみてください」
「でも、離れすぎないように。そこでカンさんが声かけてくれますから。今度はカンさんに手をまわしてください」
「ちょ、ちょっと。ちょっと。ちょっと待ってください!」
「はい、何ですか?」
マネージャーの手下二人がポカンとした顔で私を見る。
「あ、あの・・どういうことですか?」
「・・は?」
手下二人は心底分からないという顔で「は?」と言った。
「手を肩に置くとか、寂しそうな顔とか・・今日のコンセプトと関係なくないですか?」
「・・は?」
手下二人はまた同じ「は?」を繰り返した。
「覚えたセリフを言って。あとは、自然に仲間と談笑。って書いてありますけど」
もらった台本はなぜか二冊ある。一冊目は本当に真面目でつまんない事しか書いてなかった(言い方)。
「え、ええ。それは表向きで。もう一冊お渡ししましたよね」
手下がポリポリ頭をかきながら言う。
「・・いつものやつですけど」
いつものやつ??
「ええ。ファンの考察用です」
当たり前のように手下が言う。
「ヨン君、どうしちゃったんですか?今日の役割に不満ですか?マネージャーさんと相談して書き直してもらってもいですけど」
「い、や。不満とかじゃなくて・・」
私は頭が回らなくなってきた。
でも、ファンだったから、何となくは知ってる。
「FXF」は男性五人グループだけど。すごく仲が良くて。ファンの間では、誰と誰ができてるとか、冗談みたいによく噂してる。
みんな綺麗で可愛いから、仲良くしてるとファンがキャーキャー騒ぐんだ。
コンサートの時だって、仲間同士抱き合ったりしてると、ひときわ歓声が大きくなる。
でも、それって。
本当に仲が良いからだって。
男とか女とか関係なく。
今まで辛いことや苦しいことも五人で乗り越えてきた絆だって。
そう、思ってたのに。
私が難しい顔して固まってたから、手下が気を利かせて?マネージャーさんを連れてきてくれた。
「おい、ヨン。どした?苦しいか?」
マネージャーさんが優しい笑みを浮かべて私の隣に座る。
「苦しい?」
「ああ。お前、まえ言ってたろ。こういうのもう苦しいって」
マネージャーさんがそう言って、私の頭をクシャリと撫でた。
「でもな。お前とジョンを守るためでもあるんだぞ」
マネージャーさんがそう言って、私を優しく抱きしめた。
「分かってるって、お前も言ったよな」
・・ジョン君?
ジョン君も関係してるの??
ヨン君、分かってるって言ったんだ。
「だから、ヨン、頑張れ」
そして、またマネージャーさんは優しく私の頭を撫でた。




