強欲な魔法使い
その洋館は深い森の中にあった。道に迷った私は道を尋ねようと洋館の扉を叩いた。何度叩こうが呼び掛けようが返事はなかった。
困った私は思い切って扉を押した。扉はギィと軋んだ音を出しながらゆっくりと開いた。人が住んでいる様子は無く、あちこちにクモの巣がはり、どこも埃まみれだった。そっと中に入ると床に一冊のひからびた本が落ちていた。私は埃にまみれたその本を手にとった。
表紙には『強欲な魔法使い』とあった。埃を払いながらページをめくった。
一ページ目には重々しい鉄格子の門の絵とともにこう書いてあった。
『心して開くが良い。とても強欲で傲慢で極悪な魔法使いが今もここにいる』
ニページ目には古ぼけた洋館の絵とともにこう書いてあった。
『強欲な魔法使いを捕らえた。魔法使いが改心しているならば解き放つも良し、そうでなければそのまま閉じ込めておくがよいだろう』。
三ページ目は地下に降りて行く暗い階段の絵とともにこう書いてあった。
『用心せよ。強欲な魔法使いは改心したふりをしてあなたに助けを求めるであろう』
四ページ目、頑丈そうな鉄格子の絵があった。鉄格子の向こうは暗くてよくわからない。おそらく魔法使いはここに閉じ込められているに違いない。
『見極めよ。魔法使いはそう簡単には改心できぬであろう』と書いてあった。
五ページ目をめくる手は緊張し震えていたが、ゆっくりとページをめくった。
鉄格子のすぐ向こうに人が横向きに座っていた。そしてうつむき加減にこちら見ている。
頬はこけ手足は痩せ細り、ボロ布のような物を身につけている。
そして魔法使いの言葉があった。
『どうか私をここから出して下さい。私は十分反省しましたし、もうとっくに改心しております。私にはあなたを、世界中の人間を従わせる大王にする事もできます。世界中の金銀財宝をあなたの元に集める事もできます。世界中の美味とされる食べ物を集める事もできます。どうか助けて下さい』
その横にはこう書いてあった。
『改心しているようであれば次のページを開くが良い。魔法使いは解き放たれる』
少しとまどったが本当にそんな事があるとは到底信じられず、ゆっくりとページをめくった。
『強欲で傲慢で極悪な魔法使いを捕らえた』という言葉と鉄格子の絵が書かれていたが、鉄格子の中には誰もいない。いやいなかった、が、徐々にうっすらと何か絵が浮かんでくる。人のようだ。見慣れた服を着ている。その人間は驚いた表情でこちらを見ている。
「わ、私が…」