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緋色のキセキ  作者: Kou
第一章~はじまりを共に~
9/84

休息

「今日はほとんど貸切なんだが、一部屋くらいなら優遇できないこともない。ただし、料金は二人分いただくぜ」


 言うが早いか、カウンターの上に置かれた金貨をポケットに滑り込ませた。


「おい!1人はガキなんだから、一人分で十分だろ!?」


 マスターがややむっとした表情でリーフを見据える。悪態をつくリーフ

の脇腹をフレイがこずく。


「ちょっと、変に挑発して泊めてくれなくなったらどうするの!?どうせ私のお金なんだから、あんたがむきになることじゃないでしょ?」


「いんや!渡り鳥たるもの、例え少額でも無駄にするなんて許せねぇ!しかもこんなぼろっ・・・」

 

 リーフの口をあわててフレイがおおう。


「で、どうするんだ?他をあたるのか?」

不機嫌そうにマスターが尋ねる。


「泊まるわ!料金も二人分で」


フレイが愛想笑いを浮かべて答えると、マスターは表情をやわらげ、

「部屋は二階の一番奥だ。今日はVIPなお客さんが泊まっているからな。お嬢ちゃんたち、くれぐれも騒ぐんじゃねぇぞ」

 と言って、二階へと続く階段を顎で指示した。


「VIPって?」


 あどけない子供の目で見上げるフレイに、店主は嬉しそうな表情で顔を近づけた。フロアにはフレイとリーフしかいないのに、「ここだけの話だ」と言い添えて店主は答える。


「聞いて驚くなよ。昨日から、あのウェンデル王国近衛騎士団『クロスナイト』が宿をとってるんだ」


「え!?あの王家直属の部隊が、なんでまたこんなへんぴなところに!?」


 へんぴという言葉に多少眉をひそめたが、子供相手だと思ったのか、店主は気にせず続けた。


「さぁな。なんでも、お忍びらしいぜ」


「でもあの『クロスナイト』が来てるってことは、それ相当の人間もいっしょってことよね?」


 テンポよく進む店主とフレイの会話が理解できず、リーフは首をかしげた。


「その『クロスナイト』ってのは、そんなにすごいのか!?」


 店主の顔がいきなりアップで迫ってきて、リーフは思わず半歩後ろに退いた。


「どこの田舎者だ!?ウェンデル王国近衛騎士団、通称『クロスナイト』といえば、ウェンデルの王族を守るために組織された、エリート中のエリート部隊だぜ!」


「で、誰がお忍びで来ているの?」


「それが、来たのは騎士だけで、肝心の王族の姿は見当たらないんだ。でも、きっと用心に用心を重ねて、こっそり入ってくるのかもな。あの美人と名高い、クラリス王女か、はたまたその妹のクラリーネ王女か!」


「案外、ひげ面の大臣とかだったりしてな」


 夢見る店主は、リーフの言葉も耳に入っていないようだ。


「そんなわけだから、失礼のないようにな」

 そう言って、放り投げるように部屋の鍵を渡す。


「ったく、つくづく愛想がないおやじだぜ」


「でも部屋が手に入って良かったわ」


 リーフはこんな宿に大金を払うなんてと、まだぼやいている。


 二階の奥の部屋は、西向きの窓から降り注ぐ光で、陽だまりのように暖かい空気が立ち込めていた。窓を挟んでベットが二つ、向いあって置かれている他は、タンスと鏡がひとつづつの質素な部屋だ。


「ぼったくりだな」


 文句を言いながら、リーフは背負っていた大剣を壁に立てかけ、ベットの端に腰かけた。


「あんた以外と金にうるさいのね~。私は案外好きだけど、こういう日当たりが良い部屋は」

 もう一方のベットに大の字に寝転ぶと、背中の柔らかい感触に、フレイは思わず微笑んで目を閉じた。


 ベットで寝るのは、何カ月ぶりだろう。船内では、ずっと柱と柱の間に引いたハンモックの上で寝ていたから、自由に体を動かせるだけで、フレイにとっては金貨以上の価値がある。


「明日は王宮に行くんだろ?」


「王宮の門を通してくれれば、だけどね」


 フレイはもちろん、リーフも屈強な渡り鳥の男たちに比べて線が細い。肩に背負った大剣がアンバランスに映るのはそのせいだ。その体つきから、とても大剣を軽々と振り回す姿は想像できない。


「なぁフレイ、さっき言ってたウェンデル王国、だっけ?それってそんなにでかい国なのか?」


 少年のように尋ねるリーフに、フレイは驚きのあまり目を見開いた。


「あんた、本当に知らないの?」


 冗談だろうと思ったが、どうやら本気のようだ。


「本当に田舎者なのね」

 とつぶやいて、勢いをつけてベットから状態を起こし、先ほどベットの横に放り投げた袋の中から、色あせた紙と、ペンを取り出した。そしてその紙の上に、地図のようなものを描くと、描き終えた紙をリーフに示した。


 リーフも上体を起こして前のめりに乗り出して、フレイの書いた紙を覗き込む。

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