魔剣士メイフィールド
「ちょっとメイフィールドさん。そんな風に見下ろしたら、怖がって何も話してくれなくなっちゃいますよ」
フードを被った男の名は、メイフィールドというらしい。呼び止めた少女は、薄い金色の髪に陶器のように白い肌、エメラルド色の瞳で目を引く美しさだ。強面なメイフィールドとは対照的なやわらかな物腰でメイフィールドを止めようとするが、メイフィールドは少女の手を振り払い、すかさず依頼主の少年に詰め寄る。
「仕事なら俺が引き受ける。このガキたちより、はるかに役に立つと思うぜ」
子供扱いされて頭にきたのか、リーフが少年とメイフィールドの間に割って入る。
「おい、脅えてるじゃねぇか」
「それがどうした?ギルドに一人で足を踏み入れた時点で、たとえ子供でも自分の身は自分で守るのが俺たちのルールだ。自分じゃ解決しない問題を、金で解決しにきたんだ。それくらいの覚悟はあるだろう」
言葉の節々のトゲのある言い方だ。
「とにかく、王宮の仕事は俺がいただく。そこをどけ!」
リーフに詰め寄るメイフィールドの気迫から、ただ者ではない空気を読み取り、フレイは探るようにメイフィールドを見上げた。
―この男、何でこんなに王宮にこだわるのかしら。それに、この雰囲気・・・―
じっと気を研ぎ澄ませる。
―人間・・・よね?でもどこか、普通の人間とは違う空気を感じる。それに、この魔力、いったい何者なの!?―
少年は、リーフの後ろに隠れ脅えた様子でリーフのマントをぎゅっと握りしめた。少年の心情を感じ取ったリーフは、少年を見下ろして微笑む。
「心配するな!俺が守ってやるから」
「ほう、俺とやろうってのか?面白い」
メイフィールドが腰に下げた剣の柄に手をかけると、店で酒をあおっていた男たちが面白がってはやしたてる。
「おい、ケンカなら外でやってくれよ!ったく、これだから渡り鳥ってのは困るぜ」
情報屋の男が、慌てて外に出るよううながす。
「ちょうど体がなまってたとこだ!外に出ろ!」
リーフとメイフィールドは、お互いに適度な距離を保ちながら外に出て行った。
「ったく、ただ単にあばれたいだけじゃないかしら」
面倒なことに巻きこまれ、フレイは思わず肩を落とした。その横に、先ほどの金髪の美少女が歩み寄る。
「まぁ!かわいい♪あの人の妹さんかしら?」
目をきらきらさせた少女にいきなり抱きつかれ、フレイは慌てて少女を押しのける。
「ちょっと、いきなり抱きついてびっくりするじゃない!」
「あ、すみません。よく言われます。でも私、かわいいものを見るとうずうずして、どうしても体が先に動いてしまうんです♪」
ぺろりと舌を出し、まったく悪びれることなく笑顔を見せる少女に、変な奴らにからまれてしまったという確信を強くした。
「妹じゃないわ。しいて言えば、あの単細胞おせっかい焼きの『保護者』って感じかしら」
「赤い髪、珍しくて本当にかわいい♪」
「ってあんた、人の話聞いてるの!?」
どうにも調子が狂う少女だ。それにしても、この少女からも、どこからし魔力を感じる。メイフィールドから感じたものとはだいぶ性質が違うが、魔法が使える以上、あなどってはいけない。
ドカンッ!!
店の外で爆発音が響く。
音を聞きつけたフレイと金髪の少女は、慌てて店の外に飛び出した。フードを被った少年も二人に続く。
まず目に飛び込んできたのは、剣を片手にたたずむメイフィールド。その視線の先には、崩れた壁の瓦礫と、座り込むリーフの姿があった。
「お兄ちゃん!」
フードの少年が心配そうに声をあげる。
「いってー!てめぇ、汚ねぇぞ!急に変な技使いやがって!」
風圧で体が吹き飛ばされたことと先ほどの爆発音の大きさから、それなりに威力のある爆発系の魔法を使ったことがうかがえる。
「魔導士のケンカだ!巻き込まれるぞ!」
先ほどまであっけにとられて静まりかえっていた野次馬の群れが、突然我に返って騒がしくなり、逃げ出していく。
「ちゃんと剣で戦えよ!剣士だろ!?」
リーフの文句に、メイフィールドは鼻で笑って答える。
「あいにく、俺は剣より魔法の方が得意でね。安心しろ、次はちゃんと当ててやる」
そう言って、右手に赤い玉を出現させ、その玉はどんどん大きくなっていく。
「ちょっと!こんな街中でそんな大技!あんた常識ってもんがないわけ!?」
フレイはメイフィールドの攻撃を止めようと、反撃呪文の演唱に入ったその時、フードの少年の声が響く。
「もうやめてください!仕事はあなたにお願いします!ですからもう、攻撃はやめてください!」
高く透き通った、意志の強い声に、メイフィールドは魔法の演唱を辞め、右手の赤い玉はみるみる
小さくなっていく。
「おい!まだ勝負はついてねぇぞ!」
「お兄ちゃん、ありがとう。僕をかばってくれて。僕、うれしかったよ」
そう言って頭を下げると、フードの少年は自分からメイフィールドに歩み寄り、
「ここは目立ちすぎます。場所を変えましょう。僕に着いてきてください」
震える声で語り掛け、人目を避けるように歩き出した。
「無茶してすみません。でも私たちにもどうしても、王宮に行かなければいけない用があるんです。これ、よく効く薬草です。もし良かったら、あの人に使ってあげてください」
金髪の少女は、フレイの手を取って白い袋を押し付けると、慌ててメイフィールドの後を追って行った。