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緋色のキセキ  作者: Kou
第一章~はじまりを共に~
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ギルド

 そんなやり取りをしている内に、二人は『ギルド』の看板が掛かった店の前で足を止めた。扉を開けると、昼間だというのに窓が締め切られ、光がほとんど差し込まない室内は、酒とたばこの匂いでもんもんとしていた。


 見るからにガラの悪そうな男たちが、幼い少女とまだ若い男という、店の雰囲気に似つかわしくない二人組を、物珍しそうに見つめている。


 男たちの視線を無視して、足早に店内に足を踏み入れたえフレイは、カウンターの前まで来ると、背の高い椅子によじ登り、椅子に腰かけ、足をぶらぶらさせながらカウンターの奥にいる男を呼んだ。


「お兄さん、聞きたいことがあるわ」


 呼びかけられた男は、作業をしながらめんどくさそうに顔だけこちらに向けた。

「お嬢ちゃん、ここは遊び場じゃねぇぞ。ケガしないうちに、親のところに帰りな」


 想定通りの答えだ。


 カウンター越しに、先ほどのごろつきからくすねた金貨をちらつかせると、カウンターの奥にいる男の表情が一変した。


「聞きたいことは一つ。町中に貼られている、『王宮護衛兵募集』のビラの背景について。そう難しい内容じゃないでしょ?知っている情報によっては、報酬はもっと奮発しても良いわ」


 金ならあるといばるフレイに、リーフは

「さっきまでなかったくせに」

 と悪態をつく。リーフの脇腹を小突きながら、フレイは情報屋の気を金で引きつけることに成功した。


 カウンターの奥でグラスを磨いていた男は、フレイに近づき、カウンター越しに金貨を受け取ると、周りの目を気にしながら小さな声で語りはじめた。


「この国の状況、どこまで知っている?」


「年のころ、160歳の現国王ルシオが危篤。ルシオ王の息子たちはすでに他界していて、後継者は幼い二人の王子だけ。長男のルカ王子を押す一派と、次男のアルス王子を押す一派に分かれて、王宮内はお家騒動のまっただ中。第一継承権があるルカ王子より、次男のアルス王子の方が町の人々からの人望が厚く、余計に話をこじらせている、ってところくらいまでかしら」


 すらすら語るフレイに、そこまで知っていれば話は早いと情報屋はうなずく。


「おい、フレイいつの間に調べたんだ?」

 入港したばかりのフレイが、この国の内情を知っていることに、リーフは驚きの色を隠せない。


「ここに来るまでの船の中で、いろいろと見聞きしたのよ」


 ウインクで返すフレイに、やはりただ者ではないと再認識していると、情報屋の男が語り始めた。


「ルカ王子は、昔から国民のことより、剣術を極めることにしか興味が無い変わり者だったが、最近ますます人を信用しなくなった。唯一心を開いているのは、幼い頃からの剣術の師であり、今はバレンシア王宮の三大臣の一人である、クリッパー将軍だけだ」


「クリッパーって、さっき港であったぜ」


「もう会ったのか!クリッパー将軍は、立派な方だ。国の治安を担う軍事のトップだが、俺たち下の位の人間にも、分け隔てなく接してくださるし、自ら町の治安部隊と共に見回りをすることもある。ルカ王子が、あの方を実の父親のように慕っているのもわかる気がするよ」


「ずいぶんと信頼の厚い将軍なのね」


「あぁ。だが、クリッパー将軍が率いる軍隊は、とてつもなくでかいからな。第一王位継承権のあるルカ王子を守るのもお役目だが、中にはルカ王子のことをよく思わない連中も含まれている。だから、ルカ王子が本当に心を許せるのは、クリッパー将軍と数少ないルカ王子直属の近衛部隊だけ。中の人間が信用できないから、信用できない者を解雇して、変わりに外の人間を護衛兵に加えようとしているんだろ。金さえ払えば任務をこなす渡り鳥の方が、ルカ王子にとっては都合が良いって訳さ」


 王宮内の複雑な事情と、ルカ王子の猜疑心が、国や権力と縁遠い渡り鳥を護衛兵に選ぶ方向へ向かわせたようだ。


「でも何でこんな時期に?」


 その答えが知りたければ、金をよこせとばかりに情報屋が合図する。フレイはポケットから金貨を一枚取り出し、カウンターに置いた。


 金貨を取り出したはずみで、ポケットから一枚の紙切れがひらりと宙を舞い、リーフの足元に落ちた。


「なんだこれ?訳のわからねぇ文字が書いてある」


 紙切れを拾い上げ、眉をしかめるリーフの横から、フレイが紙を覗き込む。


「さっきのごろつきたちが持ってたものね」


 金の入った袋に紛れ込んでいたのだろう。紙切れに書かれた文字を見て、フレイの表情は急変した。

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