出会い
フェイトとは違う青年の声が、フレイを現実世界に連れ戻す。頭上に振ってくる斧に気が付き、すんでのところでかわす。
回りを取り巻いていた人々の群れから、悲鳴の後に安堵の声がもれ伝わってくる。どうやら勝負はついたらしい。
まだ幼さの残る青年は、持っていた大剣を、肩に背負った鞘におさめる。青年の足元には、白目を向いた大男2人が、重なって地面に倒れている。青年が少し目を離した隙に、自暴自棄になった男がフレイ目がけて攻撃をしかけてきたのだ。フレイが攻撃を避けると同時に、リーフは攻撃をしかけてきた男を仕留めた。
なぜこうなったのか不明だが、自分に向かって武器が飛んできた状況を把握したフレイは、すかさず声をあげる。
「ちょっとあんた!危うくケガするところだったじゃない!気を付けてよね!!」
「なんだと!?このチビ、せっかく助けてやったのに、お礼の一つも言えねぇのかよ」
「助ける?」
状況が飲み込めないフレイが首をかしげると、野次馬で集まっていた人々の中から、
「あんた、あの2人組みの大男に絡まれて、危ないところだったんだよ。ぼーっとして、怖かったんだろ?」
と状況を説明してくれた。
どうやら昔を思い出していたら、前を歩くチンピラに目をつけられてしまったらしい。
「ったく、親はどこだよ!?」
まだ幼さの残る顔立ちの、16、7歳の青年は、集まった野次馬に目を向けながら、フレイの両親を探している。
「あのお嬢ちゃん、目にも留まらぬ速さで避けなかったか?」
「たまたま運が良かっただけだろ。ったく、こんなところで血が流れなくてほっとしたぜ」
騒ぎを聞きつけた警備員が駆け付けてくる。
「何事だ?」
「クリッパー将軍!」
人々の声色が明るくなる。野次馬の群がりをかき分け、両脇に兵士を連れた、ひときわ背の高い男が現れた。左滑に輝くバレンシア国家の紋章が、彼こそが将軍と呼ばれた男であることを物語っている。そこにいるだけで、ただ者ではない空気が感じ取れる。
「酔っぱらいのチンピラが騒ぎを起こしたようです。旅の少年がすでに仕留めたようですが」
隣に控えていた兵士が説明すると、クリッパー将軍は倒れている男2人に視線を落とし、
「ほう、ずいぶんときれいに太刀筋だな。意識をうばいつつも、人体にまったく影響を与えていない。なかなかの腕だ」
将軍に褒められ、少年は嬉しそうに胸を張った。
「私はこの国の警備の責任者で、クリッパーと言う。荒くれ者を退治してくれたこと、感謝する。旅の者だな。名前は?」
「リーフだ。こんなの朝飯前だぜ!」
どうやら、褒められるとすぐ調子になるタイプらしいが、クリッパーは気にする様子もなく、いたって紳士的な態度で礼を言うと、小さく微笑んだ。
「威勢が良いな。味方だと頼もしいが、敵にはしたくないタイプだ。どうかこれにこりず、バレンシアの町を楽しんでいってくれ」
そう言うと、両脇にしたがえていた兵士たちに、倒れた男2人を縛り上げ、連行していくよう指示を出す。
鮮やかに去っていく将軍と兵士たちの後ろ姿を、集まっていた町人たちは尊敬のまなざしで見つめていた。
いつしか先ほどまでリーフたちを囲むようにできていたドーナツ状の人混みは崩れ、また騒がしい港の姿へ戻っていった。
「で、親はどこだ?」
「子供扱いしないでくれる?こう見えても、あなたよりずっと長く生きてるんだから」
「嘘つけ!どう見ても10歳くらいの子供じゃねぇか。迷子なら、俺がいっしょに親を探してやるよ」
口は悪いが、面倒見は良いらしい。
このまま煙に巻いても、親を見つけるまでどこまでもついて来そうな勢いだ。フレイは大きくため息をついた。