地獄の沙汰も報酬次第
プリムスマギアって……第一の街の名前だ。プリムスマギア……城の名前でもある。そして…… それはあの街の城主の名前からつけられてる。
この世界は街ごとに代表者がいて、そこでそれぞれ思い思いに統治し、そして大陸ではその集合体として、街ごとの代表者による合議制が敷かれてる。
現実世界でいうと……アメリカみたいな感じだ。プリムスマギアが州で、セカントリスやテルティポルトもまた州、それらが集まって合衆国、みたいな。
しかし、今はそれどころじゃない。
「あー待て待て待て、今その名前を受け入れるだけの準備ができてないからまた後でな」
「は、はい……え?」
「ユキ行くぞ!」
「はーい」
先にあの暴れまわってるドラゴンを処理しないと。ま、俺はタンクやるしかないんだけどな。
☆
「んで、どうしようか」
ドラゴンはあまり強くなかった。知能も低く、俺抜きでぜんぜん攻めきれた。ユイナ曰くあれは一番弱い種で、この世界で一番高い山の山頂にいると言われてるドラゴンなんかはとんでもない強さらしい。近寄らんとこ。
「その話が本当なら、問題ですよね?」
「問題だな。今頃プリムスマギアは大騒ぎだろ。だって自分のとこのお姫様がドラゴンに連れ去られたんだ。よっぽど運良くないと死は免れない」
「私、よっぽど運が良かったんですね」
「運がいいとか悪いとかそういう問題でもないと思うんだがな」
にっこり笑う姫様と、苦笑いする俺とユイナ。エリスとユキはよくわかってないのかぽけっとしていた。
「もしかしてプリムスマギア戻る?」
エリスが嫌だなって顔に出しながら聞いてくる。
「とりあえず連れ去られた場所までは行こうか。どこで馬車ごと連れ去られたんだ?」
「ええと、セクントリスを出てすぐでしたから……」
「高原入る手前くらいか、じゃあそこまでは戻ろう」
俺たち4人とプラスお姫様1人は山を降り、セカントリスまで戻ることとなった。
☆
「あれ? もしかしてあれか?」
「あ、あれです、あれです! みなさ〜ん!」
高原を出て街道を歩いていると、セカントリスにほど近い場所に人だかりができていた。その背格好から騎士団のようで、ティナ関係だということは明らかだった。お姫様......ティナとはわりと打ち解けられたと思う。
「姫様!」
「セレスティナ様!?」
どよどよどよと、騎士たちの間にどよめきが広がった。そりゃそうだ、死んだと思われててもおかしくないわけだし。
「あれ、でも、騎士の人数が多いですね? 知らない人もいて……」
たしかに人数多いな、300人くらいいるぞ。そしてそのつぶやきを聞いていた偉そうな、多分実際偉い騎士の親玉みたいな人が答えてくれる。
「姫様が連れ去られてすぐ、現在いる人数では手も足も出ないと判断して、セカントリスに応援を……」
「ふーん、確かに妥当な判断かもな」
「え゛」
俺がその騎士の判断に関心すると同時に、近場からカエルが踏まれた時の声みたいなのが聞こえる。
「ほ、本当に、セカントリスに、応援要請したんですか……!? アルフレッド、嘘ですよね!?」
「背に腹は変えられず……」
「な、なんてこと」
わなわなわなと、ティナ姫が震えだす。なにか、妙だな。
「なあ、変なことに巻き込まれる前にここから離脱しないか?」
ティナ姫と騎士が重い空気感の中会話している間に、俺は小声でパーティーメンバーへ提案する。
「……ここで見捨てるのはちょっと薄情なんじゃないですか」
「でも、明らかにこのまま首突っ込んだらヤバイことになるって俺の中のセンサーが警報鳴らしてんだ」
「確かにあの感じただ事じゃないし、巻き込まれたくないなら離れたほうがいいよ」
「そーっといこ、そーっと」
4人の同意が取れたところで、ゆーっくりと回れ右をして、戻ってきた道を進もうとしたその時。
「おや、どちらへ行かれるのですか?」
別の騎士たちが目の前に立ちふさがってくる。 邪魔だ一兵卒ども!
「いやー俺たちはもうここにいる必要ないんで、では、お邪魔しましたぁ〜」
そう言って、彼らの横を通り抜けようとするも、彼らは頑なにどかないどころかこちらの拘束を図ってくる始末。
「ティナ様と一緒にいた怪しい集団を、このまま行かすわけないでしょう」
「いやいや、ほんと関係ないんで」
「関係ないなら、なぜティナ様と一緒にいらしたのです?」
……うっ、逃げ道がない。その時、話が一段落ついたのか、姫様がこちらに加わってきた。
「その方達は私をドラゴンから助けてくださった命の恩人です。丁重に扱いなさい」
「……ハッ!」
ティナがそう言うと、俺たちを拘束しようとしていた騎士たちは素直に引き下がっていった。
「すみません、警備が厳重で」
「これくらい当然だろ。じゃあ、俺たちはこれで」
「待ってください!」
そのままテルティポルトへ向かおうとした俺たちを、ティナが引き止める。
「いや、でも通りかかっただけだし」
「た、助けていただいたことは事実ですし、このままなにもせずお帰しすればプリムスマギア家として一生の恥になりますから」
「や、ほんと、いいんで」
俺の内なるセンサーが鳴り響いている。このままなあなあでここに残ったらとんでもないことになるぞと、警告しているのだ。今すぐこの場を離れたい。
「そんなこと言わずに! ね!? ね!?」
ティナは必死だ。俺の腕を掴んで体重をかけてまで引き止めようとしてくる。おかしい、絶対におかしい。
「ちょっとだけ! ちょっとだけですから!」
「そんな先っちょだけだからのノリで言われても」
「だって、だって! このままだったらドラゴンに襲われるよりひどいことになっちゃう! こんなことならドラゴンに食べられていた方がマシでした!」
やばいって、そこまで言うことに首突っ込むのは絶対やばい。とんでもなく悪い人間に捕まってしまったぞ。
「助けてくれたらプリムスマギア湖あげますから!」
「話を聞こうか」
なんだ、この姫様結構いい人じゃないか。





