プレイヤー4人組になって、はじめての冒険だ
「冒険がしたーい!」
「したーい!」
「うるさーい!」
元・聖獣コンビの声がロッジに木霊する。
あのあとユキに経緯を説明したり、行く場所がないからどうにかしろと揺すられ家に部屋を用意し、離れに新しいIIO Linkを設置したりとさらに時間を要した。
鍾乳洞へ行った日から数えて時間にして3日かかり、週末がすべて潰れてしまった。結衣からの着信に気づいたのはそのあと。
電話越しに、ユキが消えたと憔悴しきった声で伝えられた時は、申し訳なさで死を覚悟した。なにがあったか話したら怒られ、しばらく機嫌が直らなかったのは記憶に新しい。
さっきようやく許してもらえたくらいだ、失ったものは大きかったが。
「アラタくん、私たちしばらく新しい場所、開拓してませんよね?」
「そうなんだけど、呪いの道具クエストがまだ完了してないんだよな」
そう、あのクエスト、まだ完了表示になっていないのだ。
厳密に言えばクエストが更新されないのだ。おそらくまだギルドが倉庫を確認してないんだと思う。
「そんなの置いておいてさー、先の先まで進みたい!」
「それもいいが、まずやることがある」
「え、なに」
「ユキのパワーレベリング」
「「「あー」」」
☆
「4人だとサクサクだな」
「全員揃うの、久しぶりですし」
「スキルぜんぜん覚えないよー」
「僕の時もそうだったから諦めて」
「えー」
パワーレベリングを早々に終わらせた俺たちは結局、元・聖獣コンビのオーダーで、メインストーリーを進めることになった。
新しい出会いもあるかもしれないし、俺もやぶさかではない。
セカントリスから先はまだ手付かずだから、とりあえずは……。
「全員まだマップ解放してないし、第三の街テルティポルトに行くか。港町だから魚介がうまいらしいぞ」
「うちの湖でも獲れるじゃん」
「獲れるよなー」
「川魚と海魚を一緒にするな」
こいつら正気かよ? と思ったけど、そう言えばマグロとか食わしたことなかった。うちで出る魚介も鮭とかだし、たしか半分川魚だ。
「海で獲れるお魚も、川で獲れるお魚とまた違っておいしいんですよ」
「ユイナがそう言うなら向かうかー」
「いこー」
君たち、俺とユイナとで態度が180度違うのはなんでですかね?
「……冒険しながらだから、ストレートでは向かわないぞ。まずは途中のセカントリス大高原を抜けてからだ」
☆
「……うわーすご」
「高原だから山登るのかと思った! 助かった!」
どんだけぐうたらなんだこの狐。冒険したいって言ったの自分だろ。
「でも、まさかケーブルカーがあるとは思いませんでした」
「ファンタジーって言っても別に全部が全部中世とか近世じゃないからな、こういうところはなんちゃってなんだろ」
「なんちゃってのが楽だからいいな」
「聖獣だった時はこういうのも疑問持たず使ってたんだから怖いねー」
ユキが、記憶についての話をしているが、たしかに一時的に現実の記憶を消されてゲームの中の自分だけになったら、そういう感想になるか。
そうなると、長くゲーム内で過ごすのは、聖獣にとっては悪影響なのかも。
「でも本当に、近世とか中世みたいな不自由なゲームじゃなくて、そこは助かりました。これで全部徒歩とかだったら世界をめぐるのにどれだけかかるか……」
「今ってどこまでマップ解放されてるんだっけ?」
「昨日の時点で、第六の街まで攻略済みだったはずです。結構進んでましたね」
思ったよりも進んでた。
「あ、そういえばアルバートのことなんですけど、第一段階が倒された時、『四天王アルバート(第一段階)が倒された!』ってアナウンスが出て、攻略組が先進むのやめて血眼になって探したみたいですよ。掲示板も荒れてました」
「なんでそういう話、もっと早い段階でしてくれないの!?」
なんてこった。あれもアナウンスされてたのか。また掲示板では犯人探しとかされたんだろうな。つらいな。
「いやその、エリスちゃんのこととかありましたし、それから呪いの道具関連で完全に頭から抜け落ちてたというか……」
「それならしょうがないか……すまん」
「一応犯人探しはあのクエストがバレた段階で終わってて、攻略組が第二段階に挑みに行って」
「行って?」
「ぼろ負けしたらしいです。聖属性以外効かないらしくて」
「倒せないボスとかダメだろ存在しちゃ」
俺はエルダーリッチを記憶から消し、そう答えた。
「……多分ですけど、IIO側があえて倒せないように作ってるんじゃないかなー、って思うんですよね。私がほら、アレができるようになったのも第一段階倒したあとですし」
「きっかけかなんか用意して、俺みたいな人を増やそうとしてる?」
「多分、ですけど……」
なんてこった、だったら倒せないように作ってあってもおかしくないのか。才能がわかるのって、オマケくらいでしかないんだろうな。
「なーなー、いつまで歩いてればいいの」
「高原だけど山の上ってだけでなにもないよー、あと道合ってる?」
「合ってる合ってる」
「ふえー」
冒険の8割は移動だぞ。その時間は退屈なもんだ。そんなことを思っていたら。
「……ん? 誰かなんか言ったか?」
声のようななにかが聞こえて。
「言ってない」
「言ってないよー」
「私も聞こえました。これ、どこから」
……さーぃ
「ほら、聞こえた」
「ほんとだ」
「怖、幽霊?」
「さすがにそれはないと思う」
4人でその場に待機し、周囲を探っていると。
『ギャアアァァァァァオオオオオ!!』
「おおおおおお!?」
「きゃっ!」「うわあ!?」「なになに!?」
轟音と、突風。高原の草と土が、空へ巻きあがる。
「みんな! 上! 上!」
エリスが上と言ってすぐ、俺たちは上空を仰ぎ見た。
「なんだ、あれ、でけえ……」
竜が、大空を優雅に舞っていた。そして、足には、どこかで襲われたのだろう。掴まれた馬車。そして。
「誰かーーーー! 助けてくださいーーーー!!!!」
そんな悲痛な叫び声が、馬車の入り口から顔を出した人から聞こえてくる。
そして、俺たち4人の前に、ウィンドウが。
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緊急依頼 No. 1/IIO
竜に捕まった少女を救え
難易度:★★★★★★☆☆☆☆
受諾しますか? はい/いいえ
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「マジか? クエストってこうやって発生もすんの?」
「噂には聞いてましたが、本当にあるんですね……」
「まあ、あのまま連れ去られて死なれても寝覚め悪いし……」
「受けましょうか」
「いこう! いこう! ドラゴン!」
「いこー!」
そうして4人とも、緊急クエストを承諾するのだった。まずは、あのドラゴンを追わないとな。





