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いきなり攻撃を仕掛けてくる奴、だいたい悪人

「あーあーあー結局忍び込んじまった」


「って言いつつ、メッチャスムーズに入り口の鍵ピッキングしてなかった?」


「幽霊退治にピッキングは基本スキルな。別にやましいことのために習熟したわけじゃない」


「で、その重装備はなに」


 俺たちは一度青梅のホテルまで戻って、念の為持ってきていたケイビング用の装備に着替え、再度鍾乳洞まで足を伸ばしていた。時刻は夜11時、鍾乳洞周囲には人の気配はない。


「俺は最強退魔師である前に人間だからな。霊力で身体能力を多少強化できても、高いところから足滑らせて尖った岩に頭ぶつけたら死ぬ」


「え、じゃあ僕はなんで着替えてないの」


「エリスはここ」


「は?」


 俺は持ってきていた、肩に下げた袋を見せる。


「エリスは獣状態になって先に行くか、この中」


「……これくらいなら普通にスルスル進めるよ」


 ボンッと、エリスが狐に戻る。小さいサイズだと鍾乳洞の中を本当にスルスルと進めて心底羨ましい。


「絶対この先になにかある。いくぞー!」


「おー!」


 そうして俺たちは、普段は立ち入り禁止になっている、そして異常な冷気が流れ出てきている穴へと、歩を進める。


 立ち入り禁止なだけあって、ここまでの道程と打って変わって凶悪で通りづらい悪路が続く。整備しても人は通れないだろう。


「ッグ、キッツいなーこれ。エリスは楽そうでいいな」


「まー、妖狐の状態だと特に狭く感じないしね」


「なにがあるかわからないんだから、勝手にシャカシャカ行きすぎるなよ。しかし寒いなぁ……」


 かなり厚着してきたのに、それでも冷気が貫通してくる。明らかに自然環境で生まれた冷気ではなく、ここに封印されている聖獣がいるのは間違いないようだ。


 願わくは、友好的であってほしい。1箇所目のなんかの精霊は普通に攻撃してきたからなぁ……。ちゃんと誤解を解いて仲直りできたけど、徹頭徹尾敵だとどうしようもない。


 ただでさえ洞窟の中で、異界じゃなく現実で大技使われて崩落とかなったら普通に死ぬ。

 

 俺、最強退魔師だけど、場合によってはわりとサクっと死ぬんじゃないか? 死にたくないな。


「エリスー! 先はどうなってる!」


 先行しているエリスに声をかけると、せまい洞窟の先から声が反響して聞こえてくる、


「どんどん寒くなってるし、水たまりとかは凍ってるよー!」


 うわー、これ位置によっては断念するしかないな。


「あっ!」


「どうした、エリス!」


 エリスが唐突に素っ頓狂な声をあげたので、俺は少しスピードを上げエリスに追いつく。


「アラタ、これ……」


「あー、これは……」


 目の前には大穴が3つ口を開けていた。分かれ道だ。


「ここからは一応目印をつけながら行こう。鍾乳洞には申し訳ないが、帰れなくなったら本末転倒だ。一応冷気が出てる方さえわかれば……」


「ちょっといってくる!」


 エリスは右の分かれ道を選び、ダッシュして中へ入っていく、


「あ、おい!」


 俺は小さくなっていくエリスを見送り、戻ってくることを見越してその場で待つことにした。


 しかしその待機時間はそこまで長くなかった。


「行き止まりだった」


 エリスがひょこっと穴から顔を出す。


「あのな、行くなら行くと先に」


「じゃあ次真ん中ね」


「だから!」


 そうして先ほどのようにテケテケ奥まで走ってゆく。そして、戻ってくる。


「かなり深いところまで続いてそうだけど、ちょっとずつあったかくなってたから、多分ハズレ」


「となると」


「左だね。ちょっと行ってくる」


「おい! さすがに危険だろ!」


「だいじょぶだいじょぶ」


 エリスは謎の自信をみなぎらせ、そのまま当たりであろう大穴を降りてゆく。どんどん小さくなり、しまいには岩に隠れ見えなくなる。


「はぁ、また待つのか」


 俺はもうこの分かれ道前の空間で15分は待機していた。そろそろ動かないと凍え死にそう……。


「エリスーまだかー?」


 ぽっかり口を開けた大穴に、声を投げる。返答はない。


「エリスー?」


 声が届かないのか? そう考えていると。


「み゛ゃああああああああああああ!!」


 という叫び声が穴の奥から響き渡った。


「エリス!!」


 俺はそのままできる限りのスピードで大穴を降りてゆく。しかし、エリスは見当たらない。どこに行ったんだ。そうしてしばらく進んでゆくと、唐突に拓けた場所に出る。


 広さは、学校の体育館くらいか。しかし、今までの場所と違う部分が一つだけあった。それほど高くない天井が、氷で覆われていたのだ。


 そしてそこには、逃げ惑うエリスと、エリスに対し氷属性の攻撃を仕掛ける黒い生物が。造形だけ見ればガーゴイルだが……なんだあれ。


「エリス! そいつが聖獣か!?」


「あっ、アラタ、違う! ここに出たらいきなり攻撃してきたの! どうにかして!」


「バカお前だって攻撃くらいできるだろ!」


「崩れるでしょアホアラタ!」


「確かに」


 俺はそのままガーゴイルを霊力をまとった拳で殴る。岩で作られている無生物のゴーレムのようなものなのか、そのまま核を除き、崩れ去ってしまった。


 しかし、確かに洞窟で炎は下手したら下手するからな、エリスよりも俺のがアホかもしれない。


「はぁ、はぁ、あせ、焦ったぁ」


 エリスは肩で息をしながら俺にまとわりつく。びっくりしたからか、人間状態に戻ってしまっていた。もしかして、ガーゴイルもオバケに勘定されてるのか。


 さすがにガーゴイルは妖怪じゃないだろ。ただ、日本にガーゴイルか、きな臭いな。


「なんであんなのがいるんだ。しかもまだ異界じゃなくて洞窟みたいだし」


「わからないけど、わかるかもしれないよ」


 そう言ったエリスは、ある一点を指差す。そこには。


「なるほどなぁ」


 【異界降誕】で作られた空間との接続部が、氷で覆われる形で口を開けていた。


「……行くか」


「……うん」


 前まで助けた奴らとは違う、明らかに質から違う異界に萎縮しながら、異界へと入り込む。壊してしまわぬよう、穴だけを開けて。


 そして、2人して入り込んだそこには、またしても中央にIIO Linkが。空間は、旧東京ドームくらいの、これまた氷で覆われた世界。そして、今までとは違うことが一つ。IIO Linkの横に、人影が。


「……おや? 侵入者? 鍾乳洞の最奥にして、異界内部ですよ。表には掃除してくれるガーゴイルもいたはずです。どう侵入しました? ……人間と、妖怪のセット、ですか。これは興味深い」


 強い。隙がない。目の前の男はこちらに体を向け、警戒を怠らない。そして、問題が一つ。あの黒スーツの男、人間じゃない。


「……誰だ」


 俺は、聞く。


「人に名前を聞くときは、まず自分から名乗りなさい。教育がなっていませんね」


「断る。こんなところで聖獣を閉じ込めておいて、その横にいる奴がまともなわけがない」


「……なぜそれを知っている」


「答える必要があるか?」


「……はぁ。知られているからには、消さねばなりませんよ。ここにいる理由など、もはや関係なく」


「やってみろ!! エリス、やるぞ、牽制しろ!」


「ほい、【狐火】」


「いきなり攻撃とは、美しくない!」


 目の前の銀髪猫目の男は、剣を抜く。その件は氷のように透き通り、装飾は武器というより美術品のようだ。それを振り抜く。剣と直線上に、氷の衝撃が走り抜ける。


「っぶね!」


「あー狐火が!」


 俺はそれをギリギリで避けると、拳で床を殴りつけた。氷はすべて【異界降誕】により生成されている。つまり、霊力を使えば消すことも、任意の大きさにして攻撃に転用することも可能。石版程度の大きさの氷を跳ね上げると、そのままそれを銀髪男へと、飛ばした。


「ッ!? 私の異界を攻撃に転用するとは! 人間の分際で起用ですね!」


「お褒めに預かりどうも!」


 俺は嫌味を言うも、なかなか敵に近づくことができない。隙がないのも当然だが、このまま救出せずに異界を破壊するとあのIIO Linkに入った聖獣は助からない。異界ごと消えるだろう。


 そして、俺たちも危ない。例えばあいつが瞬間移動とか、遠くに一瞬で移動できるタイプの能力を持っていた場合、鍾乳洞を崩落させれば俺たちだけどうしようもできずに死ぬ。逆に異界の中で幸いだったまである。この戦いは、俺たちに制限がありすぎる。なんでIIO Linkだけじゃなく、よくわからんやつがいるんだ。俺は心の中で悪態をつき、エリスに指示を出す。


「エリス! 壁際の氷の柱を破壊!」


「はいよ! 【狐の剃刀(リコリス)】!」


 細やかな炎弾が氷柱を破壊し、鋭利な形に砕かれた部分のみを集め、霊力を込めて槍のように投げる。それを、男は剣で破壊しつつ、氷の衝撃波を飛ばしてくる。俺は避けるが、壁に当たった時に発生する衝撃に巻き込まれバランスを崩す。


「おおっ!?」


 そこを、銀髪男は見逃さなかった。


「人間にしては動けますが、所詮丸腰、身体能力強化の覚醒者ってところですか。それならば必要ありませんね」


 なにかに納得したような男は、剣を振るい、それに沿って地面を氷の衝撃波が走る。俺はそれを、正面から受け止めた。衝撃波は俺の霊力と正面からぶつかり、消滅する。


「身体強化系の覚醒者ぁ? なに言ってるかわかんねえな! 俺は、今世紀最強の凄腕退魔師、本堂新多様だ! 覚えとけ!」


「……なるほど、霊能者ですか。やっかいですねえ。私はクロケル。私、あなたのような人族の間では少々有名なんですよ。妖族にはそうでもありませんが。フフ、この場で死ぬ貴方に名乗っても、しようがないことですが」


「知らん名だな」


「知らない」


「……無知は罪ですよ。なぜ我々の目的を知っているかは知りませんが、消えていただきます」


「「やってみろ!」」


 第二ラウンドの、始まりだ。

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