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古い鏡は悪戯っ子が宿る

「えーっと、とりあえず聞くけど、どっちが本物だ?」


「「僕に決まってんじゃん、バカアラタ」」


 鬱陶しい二重奏だなあ……。


「「真似すんな!」」


 目の前でエリス同士がいがみ合っている。なんだ、これは。2人に増えるな、本当に鬱陶しい。


「「うあああー! こいつウザい!!」」


「それは俺が普段お前に抱いている感情だ。わかったらユイナを見習って少しはお(しと)やかになってくれ」


「「アラタのバカー!!」」


 同じ行動を取ることから、記憶とかを読み取ってるようだな。とりあえずそうなのかは確認しておくか。


「エリス、最初に俺と出会ったのはどこだ?」


「「チュートリアルの墓地!」」


「なるほどなぁ……」


 やっぱり、記憶は読まれてると見て間違いない。


「あのー、私たちは上行ってましょうか? 私たちになられると困りますし、記憶も読まれるとなると、あの、そのですね」


 ユイナがどうにも恥ずかしそうにもじもじしている。確かに読まれたくない記憶の一つや二つ、あるだろうし。


「あーそうだな、とりあえず上行っててくれ。俺1人ならどうとでもなるから」


「お兄ちゃんがんばってー」


 ユイナとユキはそのままそそくさと階段を登り、部屋へと引っ込む。今下の階には俺と、エリスが2匹。今にも取っ組み合いを始めそうだ。


「面倒だ、両方消しとくか」


 俺はバチバチと霊力を反応させ、2人へとにじり寄る。


「「それは、や!」」


「や、と言われてもそれが手っ取り早い解決策だろ」


「鏡から出てきたのが聖獣だったらどうすんの!」


 片方のエリスが答える。……一理あるな。


「はー、じゃあ、本人しかわからないような質問するからな」


「「記憶共有してるんだから無駄だと思うけど」」


 あーもうステレオで喋るな!


「問題です!」


「「!?」」


 唐突なクエスチョンにエリスたちは身構える。そらいくぞ。


「嫌いなものが多いエリスですが、その中でも特に嫌いなものは!」


「「幽霊、ピーマン、あと犬!」」


「好きなものは!」


「「あぶらあげ!」」


 どんどんいくぞー。


「昨日の夕飯!」


「食べてない!」


「鮭の塩焼き!」


「「え!?」」


 ……なるほど、なるほど。そういうことか。


「現実の、うちにいる幽霊の名前1人!」


「え!? え!?」


「サネさん!」


 俺は、質問に答えられなかった方の首を掴む。


「お前だな?」


「な、なんで! 存在しない記憶を答えられるなんておかしい! あっちだよ!」


「なんで、存在しない記憶(・・・・・・・)だってわかるんだよ?」


「……あ」


 俺は、そのまま掴んだ部分から死なない程度に霊力を流し込んだ。


「びゃああああああああああああ!!!」


 バチバチと明滅し、エリスの姿形が、小さな男の子に変化する。もう逃げる気もないだろう、首から手を離すと床に崩れ落ち、喋り始める。


「ふー、ふー、おかしいよ! おかしいじゃないか! なんだよ鮭の塩焼きって、そんな記憶、存在しないじゃないか!」


「おいしかったなー」


 エリスが呑気に昨日の夕飯を思い出し、記憶で舌鼓を打っている。鏡の国から来た謎生物は、勢いそのままに喚く喚く。


「そもそも聖獣だろ!? だったら記憶ブロックで、こっちでしか生活できないんだから、お前の家にいる幽霊だって、知るわけないじゃないか! ......そもそもなんで家に幽霊がいるんだよ! 捏造だ! ぜーんぶ捏造!」


 やっぱり、IIOでの記憶しか読めないんだな。だが問題はそこじゃない。こいつ、なんでエリスが聖獣で、現実の記憶がないと、現実で存在していると知っている? 


「お前、なんでそんなこと知ってんだ?」


「……へ!? そもそもお前こそ、プレイヤーのくせになんで知ってるんだよ!」


「お前、セレブラムの回し者か」


 こいつ、現実の記憶がある。となるとIIO運営側の謎生物ってことになる。これはまずいな。俺が聖獣の秘密を知っていることがバレてしまった。ここで消しても逆に不審に思われるか?


「……はぁ!? なんで僕があんなわけのわからない集団と一緒にされなきゃいけないんだ!」


 あれ? こいつ運営じゃないの!? 意味がわからん。


「お前がなんでIIOにいるのか、種族と名前を素直に白状して目的を言え。したら場合によっては助けてやらなくもない」


「ホント!?」


「嘘偽りなく喋れよ。嘘ついたら霊力1000倍流す」


「わかった、わかったよ! これ以上こんな力流されたら、本当に死んじゃうよ!」


 俺は目の前の謎生物の懐柔に成功する。ユキにはバレるといろいろ困るし、2人にはそのまま上にいてもらって、話を聞くことにしよう。


 ☆


「種族は雲外鏡、名前はないよ」


「……やっぱりか」


「なんだ、わかってたの」


「古い鏡の妖怪だと、基本的にそうなるだろ」


「......ま、いいや。まず、僕は聖獣としてこの世界に参加してるけど、別に他のやつらみたいに記憶を消されてるわけじゃない。さっきみたいに変身して、この世界に入れられそうになってるやつと入れ替わったんだ」


「……つまり、聖獣用のIIO Link自体に記憶の共有をブロックする機能があるわけじゃないんだな?」


「そうだね。セレブラム・コーポレーションの誰かが言ってたから」


「待て、なんでそんなことを知ってるんだ」


 こいつ、やっぱりおかしいぞ。いろいろと知りすぎている上に、セレブラムの人とも知り合い?


「……僕たち雲外鏡は、群体なんだよ」


「は?」


「今風に言えば、使用されて99年経った鏡は、雲外鏡っていうメインサーバーに繋がるんだ。だから、世界中に存在する、99歳を超えるアンティークの鏡は全部同一の雲外鏡で、記憶も姿も共有してる」


 何言ってるんだ、こいつは。頭が壊れそう。


「……古い鏡がある部屋での会話とかは全部僕に筒抜けなんだよ。そこで誰かが捕らえられて、この世界に放り込まれるって知ったから、先回りしてそいつと変わったの。鏡から世界を見続けるのも退屈なんだよ、わかる?」


 目の前のお子様ランチを食べてそうな年齢の男の子は、こんなこともわからないのか遅れてるなー、とばかりにため息をつく。だが、エリスはすでにパンクし、俺も頭がこんがらがっていて。


「待て待て待て、じゃあ聖獣がどこで捕らえられてるとかもわかんのか!?」


「それはほとんど知らないかな。こっちの世界にきた時は聖獣としても最初の方だったし、知ってるのは……今だから言うけど、そこで放心してるエリスっていう妖狐と、よくわからないドラゴンでしょ、あとは、数人。本当に数えるほど」


 やっぱ、チュートリアル2のドラゴンも聖獣か。知りたくなかった。なんとなくそうだろうなとは思ってたけど。だが、俺が今聞きたいのはそんなことじゃない。


「……ユキっていう名前の座敷わらしに聞き覚えは?」


「……座敷わらし? そんなのいたかな? 僕より後じゃない? だったら知らないよ」


 ……クソッ! ユキは不発か。だが他のを教えてもらい、そっちから攻めよう。


「……知ってる範囲でいい。現実のどこに封印されてるか教えてくれ。そうしたら、俺を呪ったことは不問にする」


「ホント!? いやー、扱い上は聖獣だから死んだら復活できないんだよね。殺さないでくれて助かるよ」


「まあ、鏡はこの家に置いておくけどな」


「別にいいよ、そもそももう逃げる気もないよ。今だから言うけど、最初はお兄さんに変身しようとしたんだ。そうしたらなぜか変身できなくてさ。こんなこと始めてさ」


「多分、俺の霊力のせいだろうな。良かったな、俺になれなくて。なってたら一瞬で消してた」


「……こわ。とりあえず、呪ってごめんね。あんな暗いところにずっと放置されちゃって、出ても周りの呪具に呪われちゃうし出れなかったんだ。呪ったのはつい出来心というか……」


「……出来心で人を呪うのはやめてくれ。心臓に悪い」


「善処するよ」


「マジでやめてくれ」


 そんな話をし、雲外鏡と仲直りの握手をする。若干俺もやりすぎたところはあるが、いたずらはエリスとユキで間に合ってるからな。


「じゃ、これでお兄さんは僕の契約者だ」


 握手をした手から、パァーッと光が発せられる。なんか、4度目ともなると特に嘆きの感情もわかないな。そもそも契約しないと救えないわけだし。


 でもまさか決めてからの1人目が現実の記憶持ちとは……。こいつ、どんなことを知ってるのだろうか?


「じゃあ早速、僕が知ってる1人目だけど……」


 唐突に雲外鏡は、話し始める。彼の記憶にある、聖獣の居所を。

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