閑話 エリスとユキの仁義なきオ○ロバトル 2
「むむむ……」
別の日、広間のテーブルを挟み、エリスとユキは、対峙する。
テーブルの中央には定番の、白と黒のコマをひっくり返すあのゲーム。
ふたりは辛くもアラタの部屋からボードゲームを回収することに成功し、現在対決中。
対決事由は、冷蔵庫の中のプリンである。残り1つ。それを賭けて、戦っているのだ。
戦わないで済むのなら、どれだけいいことか。しかし、そのプリンの味はピカイチで、エリスはもちろん、本来食事を必要としないユキもこればかりは負けられぬと意固地になっている。
「エリスお姉ちゃん、諦めてウチにプリンを渡しなよ」
「や。ユキこそ本当は食べなくてもいいんだから諦めてよ」
「甘いものは別腹なの」
まだ始まったばかりであるが、盤面はすでに白が多い。角も一つ取っている、白のコマを操るユキが有利である。
エリスはこの手のボードゲームが苦手なのか、ユキに角を取られてから一手一手が遅い。角を取られた時に「あーーーーーー!?」と叫んでいたのは記憶に新しい。
(よしよし、お姉ちゃんはあそこの角の手前に置くとたくさん白をひっくり返せるから、絶対置いてくる。そうしたら2つ目の角が取れて、ウチのコマの数は盤石なものになる!)
ユキは、早々に勝ちを確信していた。最初の角を取った時、エリスはそんな場所取られるとは思ってもいなかった! といった感じだった。つまり、ユキは考えている。エリスはオ○ロが弱い、と。
しかし、エリスはそれほど単純ではない。
「うーん、じゃ、ここにしよう」
(あれ!?)
想定外である。ユキが想定していた角手前、そこに置けば1ターンだけではあるが大量の戦果が得られる。エリスなら、そこを選ぶと思った。しかし、選ばない。なぜ?
ユキはエリスの方を見る。
エリスは、不敵な笑みを浮かべていた。
(しまった、ハメられた!)
ユキは悟る。今までのあれはすべて演技だったのだと、ウチを油断させるため、わざと角を献上してまでオ○ロ苦手狐を演じた。まずい、ここまで計算だとしたら、あの角はとれない!
「ふふふ、ユキ、あまり姉をナメない方がいいよ」
「あ、ここ置けた」
「あーーーーーーーー!!!」
ユキはエリスが置いた、当初想定していた場所とは対角線上にある角を取った。ユキは思う、ただ不敵な感じの笑みを浮かべていただけで実際頭は動かしておらず、ただ動かしていないから自分が想定した場所に置かなかったのだと。
ただただ自分の読みが甘かったと、ユキはエリスのオ○ロ苦手度を下方修正した。
「ぐぬぬ、このままだと負ける……!」
「もう諦めなよ」
「まだ!」
もう角を2個取っているのだ。普通ならこのまま順当に3個目を取り、エリスは負けだ。しかし諦めないエリスは、自分のコマを、置く。3つ目の角へ。
「ちょ! ひっくり返せるところ一個もないんだからダメに決まってるでしょ!」
ユキはもちろん抗議する。ひっくり返せるコマがない場所に置くのはルール違反だ。それなのになぜ角に置く? 姉としてのプライドはないのか? そう考える。
「ユキ、そのコマちょっと変じゃないか?」
エリスが唐突にそんなことを言い、置いた黒いコマの対角線上、白いコマが並ぶ一帯を指差した。
(別に、変なところなんて……。あ!!)
そう、白いコマのひとつが、なにやら盛り上がっているのだ。それは、なにやら工作の跡。なんと、白い、毛玉が載っている。どけたらそれは、黒。
「っちょ!!!」
「へへ、これでこのラインは僕のものー」
「ズル! ズルだよ!! だいたいいつ乗っけたの!」
そう、先ほどの白い毛玉はエリスのものである。尻尾から抜いた毛を丸め、黒いコマが白いコマを覆うようにうまく配置していたのだ。はっきり言えばこれは反則負けに値するが、ここに審判はいない。いるのは、ゴネる狐と、抗議する座敷わらしである。
「ルールブックには、毛玉を載せちゃいけないなんて書いてない」
「むむむ……」
ユキは、早々に諦めた。相手のゴネ得なのはわかっているが、アホバカ卑怯狐が一歩も引かないのもよくわかっている。なので、エリスがその気ならと、ユキも秘策を取る。
(最近できるようになったあの技で、お姉ちゃんを出し抜いてやる!)
ユキがすっと力を抜く。すると、エリスが毛玉を載せていたコマが、浮いてひっくりがえったのだ。同時に、その列すべてのコマが、エリスが置いたものと合わせて白色となる。ポルターガイストだ。
「あ、それずる!」
「ずるじゃないです手使ってないもん」
「そんなことできるようになったなんて聞いてない!」
「言ってないもん!」
「妹なんだから全部報告しろ!」
「横暴だ! 横暴! 姉妹関係を解消します!」
「なにをやってんだお前らは……」
お互いが反則を重ね、もはやこの場にスポーツマンシップに則った戦いなど存在しなかった。
そんな中、ふたりが口論をしていると、人影。現れたのは、アラタだ。
アラタは二人の勝負を尻目に冷蔵庫を開け、争う原因になったプリンを取り出した。
「「あーーーー!!!」」
「……なんだよ?」
「それのために僕たち賭けオ○ロしてるのに!」
「そうだそうだ! 返せ返せ! プリンを返せ!」
勝者へのご褒美を取られてしまっては敵わない。ふたりはこれでもかとアラタに抗議を重ねる。すると。
「……プリン? これ、コーヒーゼリーだぞ。同じとこが出してるから容器が一緒なだけ。めっちゃ苦いからお前ら食べれないだろ。残念でした」
そう言って、アラタは蓋をめくり、黒いプルプルした物体を食べ始めた。それを見たふたりは、顔を絶望に染め。
「「えーーーーーーーーーーーーーー!?」」
勝負の決着は付かず、ほろ苦い経験だけが、その場に残るのだった。
今日の更新分より隔日更新になります。
明後日から本編再開します。





