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作るぞバーチャルおばけ美少女動物園

 俺は、エリスの眠るIIO Linkの前に立つ。やってみろ。やってみろよ。そこで撃ったら、エリスもただでは済まない。腐っても親なんだろう。俺はそう考えた。しかし。


「はぁ、矮小(わいしょう)な。妖と人間の力量差もわからないとは。では、死になさい。【紫若狐炎(しじゃくこえん)十把(じっぱ)】」


 娘が巻き込まれることもいとわないのか。こんなの、親じゃないだろう。

 

 空中、作られた紫色の狐火。込められた妖力から、これは、ゲーム内でエリスが見せた鬼火とも比較にならないほどの威力だとわかる。


 それが、10個。人間ならば、普通の霊能力者ならば即死だ。普通ならな(・・・・・)


 ドドドドドドドドドド!!!


 火炎球は俺へと着弾し、異界が揺れる。局所的な破壊が繰り広げられる。


「怪異向けに提供されるIIO Linkとやらは簡単に破壊されぬよう、別次元に配置されているそうですよ。ですから、安心してお逝きなさい。あの狸ジジイには事故死だと説明しておいてあげます」


 フフフ、と、ヒスイが笑う。妖と霊能力者は、どこまで行っても敵同士なのだろう。


「……喜んでるところ悪いが、勝手に殺さないでくれるか」


「バカな!!」


 煙が晴れ、IIO Linkと俺をヒスイが視認する。俺は、無傷だった。


「無傷!? バカな!! ……術具を使ったか!! 卑怯な!」


「使ってねえよ」


「ならば、一介の霊能力者風情が私の力を防ぐなど不可能!!」


「だから言ってるだろ、最強退魔師だってさ」


「戯言を!!」


 ヒスイが、(わめ)く。ヒステリーだ。天乃城ヒステリーに改名したらどうだ。


「フン、いくら貴様が強くとも、IIO Linkは次元歪曲により守られています。エリスを助けることは不可能。尻尾を巻いて、お帰りになったらどうですか」


 どうやら殺すことは諦めたのか、俺を警戒しているのか、この場から立ち去らせようとしてくる。


 だが、俺はエリスを助け出すまでは帰れない。こんな場所に置いて、帰れるわけがない。絶対にだ。


「俺の霊力は、特殊なんだ」


「何?」


「普通なら、霊力を使って札作ったり、卒塔婆書いたり、経を上げて鎮魂したり、そういうのが、仏教系の霊能力者がやることだ。俺は、それら一切ができない」


「だからそれが何だと言うのだ!」


「一方で、そうやって使えないにも関わらず、俺は膨大な霊力を持ってる。この霊力を変化させて坊さんの仕事をしたりはできないが、一つ、できることがある。俺の力は、種類を問わず、この世のありとあらゆる超常現象を、否定する」


「……バカな!」


「さっき妖刀が折れたろ。あれも、その結果だ。今、お前の炎も効かなかったろ。あれの余波も含め、超常的事象により発生させた物事(ものごと)は、余波であれ、すべて、すべて否定する。だから俺は最強なんだ」


「ありえない! そんなもの、ありえるわけ! 人間が持てる力ではないでしょう!」


「それは、俺は知らないけどな。……まあ、話を戻そうか。つまり、俺の力は、こういうことが可能なんだ」


 IIO Linkに、手を添える。霊力を、通す。


 パキ、パキ、パキ、と、なにかにひびが入る音がし、パキィ、と割れた。IIO Linkが、開く。


 狐状態のエリスは、気持ち良さそうに寝息を立てていた。それを確認し、ゆっくりと左腕で抱え上げる。エリスは、助けた。なら、この異界も、いらないだろう。


 俺は拳に霊力を込め、右手で空間(・・)を、殴った。


 殴った場所が陥没し、ひび割れが生じ、その亀裂が大きく広がり、空間が、割れる。


 元の応接間が、現れる。


「あ……ア……あァ嗚呼!! 私の、私の、私の異界が! バカなバカなバカなバカな!!」


「取り乱しているところ悪いが、俺はこのまま出て行かせてもらう。目的は達したからな」


「ふざけるな!! 大事な娘をむざむざ、忌々しい正見の孫に渡すだと!! させるかあ!!!」


 血走った目をしたヒスイは、俺に手を向ける。その手は、震えていた。攻撃が無駄なことは、本人が一番理解している。


「……大事な娘を、あんなふざけたゲームに閉じ込めて、何が教育だ! 言ってみろよ! 何が、教育なんだよ!! なあ!!」


「グゥッ!!」


 ヒスイが、眉間にシワを作り、俺を睨んでいる。いくらでも、睨め。いくらでも。いつでも相手してやるから、いくらでもかかってこいよ。返り討ちにしてやるよ、いつでもな。


 俺はエリスを抱え、ドアから外へ出て行こうと、ノブに手をかける。すると。


「……貴様、犯罪だぞ」


「は?」


「ハハハハハ! 犯罪だ! 人の娘を、強制的に、連れて行くなど! 誘拐、誘拐だ!」


 こいつ、妖のくせに人間の作った法律を盾にする気か。ふざけやがって。


「妖の世界に未成年略取って法律があるなら見せて欲しいもんだぜ! じゃあな、クソババア!!」


「待て、待てェ! 本堂ォオオォ!!」


 無様に崩れ落ちたヒスイが叫ぶ。


 誰が待つか、バーカ。俺はそのまま玄関を通り、ゲートを抜け、自宅まで帰ってゆく。家にいた使用人は、手を出してこなかった。


 ☆


 そして今、俺は家の居間、IIO Linkの横にいる。エリスはさらにその横、布団の上、寝息を立てている。帰ってくるまで、かなりの時間が経った。


 普通なら、プレイヤーはゲームからログアウトした段階で覚醒するようになっている。それなのに、ずっと寝たまま。


 なあ、エリス、起きてくれよ。また一緒に冒険しよう。今度は聖獣じゃなく、プレイヤーとして。お前がいないとIIOをやってもつまらないと思うしさ。


 俺はいつかエリスが起きてくれることを信じて、ブランケットをかけた。妖怪は人からの霊力補給でも生きられるし、しばらくは大丈夫だろう。


 それまで、起こす方法を探す。IIOでも、現実でも。IIOでは、あることをすると決めていた。でも、エリスがいない中、それはしたくない。

 

 エリスは、相変わらず寝息を立ててよく寝ている。……寝てると、かわいいんだけどな。狐状態だと特に。起きてるとウザいんだけど。でも、それも今は愛おしい。ついつい、手が伸びる。そして、俺はエリスの頭を撫でる。右手(・・)で。


 バチッ、右手に残った霊力が、エリスに流れる。バチバチバチ、流れ込んでしまう。すると。


「ギャアアアアアアアアアアアアアアア!!」


「おああああああああああああああああ!?」


 デジャブが! 発生する!


「いったああああああああ!! お前ぇ、なんてことしてくれるんだよ!! ……あれ、アラタ?」


 エリスが、起きた。


 俺は、無言でエリスを抱きしめる。


「いたっ、ちょ、アラタ、力強……」


「エリス、おかえり……」


「へ、あれ? 僕、ママにIIO Linkに入れられ、あれ? ???」


 おそらく、記憶が混雑しているのだろう。IIOの世界の記憶は、残ってるみたいだ。


「レイス、アラタ、えーっと、あれあれ? それで、吸血鬼……あっ!!」


 エリスが、静かになる。記憶の処理が、終わったんだろう。


 ボンッ! エリスが人化する。


「えへへ、アラタ、ただいま」


 エリスは笑いながら、恥ずかしそうにしていた。


 少しだけ余韻が残る中、俺はエリスに聞いた。


「俺に殺された後、どうなったんだ?」


「?? なんか、真っ白い空間にいたよ。そこにはモンスターがたくさんいて、ほとんどが眠ってた。僕も動けなかったから、眠ってたんだと思う」


 きっと、死んだ聖獣や、これからマップに出される聖獣がいたのだろう。真っ白の空間、自分がゲームでの容姿や才能を設定した場所と一緒だ。なにか、ここにヒントがありそうだ。


「それで….あれ? そういえばここどこ? 僕こんなとこ知らないし、あれ? 記憶、あれ?」


 まだ、混乱しているんだろう。俺は、今までの経緯を話すことにした。


「ゲーム内で生き返らせず、エリスの家に殴り込んで、IIO Linkの中にいたエリスを誘拐してきた。ここは、現実だ」


「はぇ?」


 しばらくの、思考停止、そして。


「ええええええええええええええええええええええ!?」


 エリスが、叫んだ。


「えっ、でも、あらっ、アラタ! やば、やばい! バレた!? 妖狐だって!?」


 どうやらエリスは、自分が現実で妖狐なのを俺に知られたことを焦っているようだ。それは大丈夫なんだがな。


「それなら大丈夫だ。俺は現実でも霊能力者だ」


「なーんだ、それなら安心。……じゃないじゃん! 僕たち敵同士!! シャーッ!」


 エリスが威嚇してきた。


「俺は人間に悪影響のない怪異に興味ない。エリスは人間喰うか?」


「喰うわけないじゃんパパもママも人間の世界で生きてるのに」


 確かにそうだ。あの流れだと、こいつの父親は天乃城天童、政府の重鎮だ。てことは、エリスって半分人間だったのか。まあ、そんなのはいいんだ。


「とにかく、おかえり。短いお別れだったけど」


「ほんと。『またね』とか言っちゃったのに」


 ふふふ、と、お互い笑い合う。エリスが落ち着いてきたので、あることを聞く。


「エリスは、これからどうしたいんだ」


 ……家に帰りたいと言われれば、辛いが帰すつもりでもいた。しかし。


「……うーん。家には戻りたくないな。パパもママも嫌いじゃないけど厳しすぎるし、妹が強く当たってくるし。……アラタのこと、好きだし、ここにいてもいい?」


「ああ、もちろん」


「よかったー!」


 エリスは、嬉しそうだ。俺も、家に帰るって言われずに嬉しい。この流れなら、言えるだろう。俺はエリスの母親から聞いた話を元に、エリスにあることを手伝ってもらえないか、頼んでみることにした。


「エリス」


「何」


「IIOは、怪異を聖獣としてゲーム内に実装してるらしいんだ。エリスは経験したからわかると思うが、記憶が奪われて、ゲーム内のキャラクターとして実装されてる。きっとそれ自分の意思じゃないし、どんなことをされてるかもわからない」


「うん」


「……悔しいけど、俺はまだ高校生だし、権力もない。怪異相手には強く出られるけど、権力のある人間とかだと無理だ。だから、セレブラム・コーポレーションに喧嘩を売るとか、今の俺じゃ無理。だから」


「うん」


「ゲーム内で、可能な限りたくさんの聖獣と契約して、ひとりずつ助けていきたいと思ってる。ヒントさえあれば、現実世界でもそこに出向いてゲリラ的に解放していく」


「うん」


「これは、俺のエゴだ。ただ、悪魔に怪異が食い物にされているのが許せない。だから、それを一緒に手伝ってくれないか」


 俺は、今考えている、今後の方針をエリスに話す。本当にこれは俺のエゴだ。もしかしたら誰も求めてないかもしれない。でも、エリスの例を見れば、そんなことはほとんどないだろう。


「記憶が戻った今だから言えるけど、最初の一ヶ月は地獄だった。アラタと出会ってからはすごい楽しかったけど、きっと今も地獄を味わってる聖獣はいっぱいいる。だから、僕も彼らを助けたい」


 エリスは、俺の考えに、これからの指針に同意してくれる。今まで冗談で言っていたあの発言、あれが、現実になろうとしていた。


「俺は、作るぜ。プリムスマギア湖一帯を買って、表向きはオバケ動物園として、あそこに聖獣の楽園を作るんだ」


 セレブラム・コーポレーションを出し抜いてやる。セレブラムや、出資者や、ヒスイのような人に話を持っていった謎の存在を出し抜いて、ひとりでも多くの聖獣を救出し契約し、そのよくわからない目的を、阻止してやる。神に誓って、絶対にだ。


 俺は、普段は絶対にしない神への宣誓を絡め、気合を入れる。待ってろIIO、お前とは、長い付き合いになりそうだな。これから先の困難な道のりを幻視し、俺はIIO Linkを見つめるのであった。

ここまでお付き合いくださりありがとうございました。

この話でチュートリアルから続いていた第1章エリス編完結です。


第2章は未定ですが、近いうちに更新スタートすると思います。

明日はここまでのキャラクターをまとめた登場人物紹介を更新し、

その先は閑話や、もしも求められるなら設定資料なども出せたらいいなと考えています。


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感想、レビューも同じく励みになるので、気軽に書いて欲しいです。


ここまでお読みいただき、本当にありがとうございました!

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― 新着の感想 ―
[一言] むむ…。これは面白そうな展開ですね。
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