東京都心に伏魔殿があるとは、誰が想像できようか
少なくとも、生きている。今現在、俺がHPを全損させた段階で、どういう状態になっているかはわからない。ただ、ゲーム内で生き返らせる方法が存在する以上、エリスはどこかで生かされている。
そして、彼女は三尾で、俺よりも年下だ。親が九尾の可能性、少なくとも親族である可能性は十分に高い。だから、俺は、殴り込みに行く。
セレブラム・コーポレーションがどのようにして幽霊、妖怪、幻獣といった怪異の類を捕らえ、ゲームの中に聖獣として実装しているのかはわからない。
エリスとユキは現実での記憶がない。言葉や知識はあるようだが、少なくともそれまで過ごしてきた現実での情報は一切ないのだ。
そして、さっきの九尾の話に戻る。彼女らは、プライドが高い。人間の遊びのために親族を使われることを良しとしないだろう。セレブラムごと消されていてもおかしくはない。
だから、考えうることとしては、九尾の妖狐とセレブラムは裏で繋がっている。ならば、九尾を叩けば埃が出る。
絶対に許さない。怪異だって生き物だ。人間には見つかってないかもしれないし、人間に擬態して生きているから人間には認知されていない。それをいいことに、自由を、記憶を奪い、実験体のように扱うなんて、許せない。
絶対に、ぶっ潰してやる。有史史上の最強退魔師本堂新多様を愚弄した罪、その身で認識させてやる。
待つこと数分、電話口から、声が聞こえる。爺さんは俺ほどの退魔師ではないが、長年生きているだけあってこっち側の事情に詳しい。神頼みならぬ爺さん頼みだが、それが今回は功を奏した。
『東京都白金の高級住宅街、そこにひときわ大きな、白邸宅がある。姓は天乃城。現文部科学大臣、天乃城天童の家だ』
「文部科学大臣の家? なんでそんなところに」
『行けばわかる。話は通しておく』
プッ、ツー、ツー、ツー。 切られた。爺さん、本堂正見は、忙しい。毎度毎度大きい案件を持って来ては、旨味のないものを俺に押し付け、自分は世界中どこへでも、呼ばれたら行ってしまう。
今回は国内だと聞いていたから連絡がついたが、国外ならば、場所によってはそもそも連絡がつかないこともある。運が良かった。
決行は、明日の朝、場所は東京か。少し遠いな、早起きをしなくては。
☆
「ここか」
俺はもらった情報を元に、表札に『天乃城』とある邸宅へと、足を運んでいる。
ピンポーン、大きなゲートの横についた小さなインターホンを押し、返答を待つ。
『……はい、天乃城ですが、名前と、用件は?』
若い、女の声。俺は使用人かなにかだと当たりをつける。
『本堂新多と言います。用件は……本堂正見という人間から話が行っているはずです』
『……お帰りください』
ブッ。インターホンの接続が切れる。
……はあああああああああああああ!?
話行ってんじゃねーのかよ!? いや待て、反応がおかしかった。話は行ってる。その上で、拒絶したんだ。ふざけやがって! インターホン連打じゃい! ピンポンピンポンピンポン!!!
『……しつこいですよ』
「しつこくねえ! うちのジジイから話行ってるだろ!」
『寡聞にして存じ上げませんが。大奥様も、そのような霊能力者の風上にも置けない卑怯者の孫とは会わないと申しておりますので』
ブッ。切られた。オイコラ知ってんじゃねえか! 爺さん、話が違うぞ! あんたこの家の人になにやったんだよ!? ピンポピンポピンポピンポピンポ!!!!
『あーもうしつこいですよ! だいたいなんなのですか! あの狸ジジイから連絡があるだけでイライラするのに、いきなりその孫が明日行くから応対しろって言われても困るんですよ! 敵対関係なのに連絡してくるな! ......と、大奥様は申しております』
怖。使用人なのにそんな言葉遣いだめだろ。本当に大奥様の言葉なのか、それ。
「ここに九尾の妖狐がいると聞いてきた。話がしたい。取り次いでくれ」
『……あいにくですが、大奥様は体調が優れず』
「エリスという名前の妖狐に心当たりは?」
『……どこでその名を』
「それは、言えない」
『そこで待ってろ』
ブッ。切れた。感じたのは、怒気と、焦燥。確実に、なにかを隠していることからくる、負の感情。
待つこと数分。ガゴッ ギギギギギ……と、ゲートが開く。
『……入れ』
中へと、通される。今の声、今の声はさきほどの使用人ではなかった。もう少し年上の、それこそ、妙齢の女性のような。そうか、大奥様か。そいつが、九尾。そいつが直接出てくるということは、それだけのことってことか、エリスの存在は。
ここからは、本丸。九尾がいる、伏魔殿。使用人も、人間じゃないだろう。覚悟を決めなくては。生半可なことでは死んでやる気はないが、数が多いと骨が折れる。絶対に、エリスの情報を引き出してやる。絶対に、助ける。
俺は、ゲートを通り抜け、白の邸宅へと歩を進めた。





