チュートリアルは全員がクリアできるように設計されています
「おおお……! どうすんだマジでよ……! 幽霊退治は現実で間に合ってるっての!」
せっかくのゲームなのに、現実の呪縛から逃れられないってマジか! ......マジか! 俺は放り出された先の草原で頭を抱える。
「どうすんだ、どうすんだこれ! 大雅にチュートリアル終わったら連絡してって言われたが、本業秘密にしてんのに、ゴースト以外にダメージゼロじゃあ、バレるのも時間の問題だぞ……!」
そもそも……内容によっては……チュートリアル、クリアできねえんじゃねえか!? そんな考えが、頭をもたげてくる。
「うわーマジかーこのゲームもしかして万人に優しくないのか。現実でのはぐれ者はゲームでもはぐれ者ってか、笑えるぜ」
ハハハ、と乾いた笑いが出る。すると、ピコン、と視界の右上でウィンドウが開き、さっきの幽霊魚が現れる。
ー
チュートリアル中だよ!
わからないことがあったらなんでも入力して聞いてね!
_
という文字と検索ボックスが、魚からでている吹き出しの中に一緒に表示される。文字だけだが、頭の中でさっきの白い空間での声が再生され、実に憎らしい。
「はぁ〜、わかったわかった。お前を消す方法、と」
俺はウィンドウが邪魔だと思ったので、なんとか消そうと試みた。すると、
『ちょっと!? ボクがいなかったらチュートリアル進まないんだからね! チュートリアルのことわからなかったらゲームにならないでしょ!』
今度はしっかりと、平面の魚の絵からボイスが再生される。喋れんなら最初から喋れ。まあいい。とにかくそのチュートリアルをクリアしないと先に進めないからな。俺でもクリアできる内容でお願いしますよ。
『はぁ〜わかったよ。そもそもちゃんと全員クリアできるようになってるから。じゃ、次の3つから選んでね』
そう言うと、選択肢が3つ表示される。もはや頭の中を読んで直接話をつなげてくることに文句を言うのはやめた。
選択肢の1つ目はこれだ。
1. 草原でのゴブリン退治
はぁ〜、実に魅力的だ。ファンタジーと言えばゴブリン、ゴブリンと言えばファンタジー。チュートリアルでもおなじみだ。だが。
「これは、却下っと」
ダメージゼロなのに倒せるわけねえだろ! 次!
2. 山で聖なるドラゴン退治
バカなの? チュートリアルでやる内容じゃないよね? 死ぬよね? これ選んだ人クリアできなくてゲームやめるよね? 本当にこのゲーム世界的に流行ってるの?
『失礼な。チュートリアルは途中で変更できます。ドラゴンに会いたいって人が多いから追加してるんだよ。ドラゴンも遊び相手が増えて嬉しそうだし』
なにが嬉しそうだ。所詮はAIじゃねーか。
『AIかどうかは、わからないよ〜』
ハッ、ゲームのくせにバカなこと言いやがる。しかし、これじゃあ3つ目も思いやられるな。どうせ最終的にゴブリン退治させるよう仕向けられてるとしか思えん。
したら、最後は悪の帝王の根城に転送されて消し炭にされる、とかかな? 悪の帝王がゴースト属性ならなんとかなるか? 頼むぞ。
『ゴースト属性なわけないでしょ』
ああそうですか。知ってましたけどね。そんな甘くないことは。だが、これで俺がラストバトルに関われないことは確定か。ラスボス倒せないって、本当にゲームかよ?
『大丈夫大丈夫。通常スキルなら行動によって生えてくるから。もしかしたら新しい才能も生まれるかもね』
マジか! 望みが湧いてきた!
『まあ、通常スキルよりもユニークスキルの方が優先されるから、キミがゴースト属性以外の敵にダメージ与えられないままなのは変わらないけど』
「ふざけんじゃねえ!」
思わず声が出てしまう。周りに誰もいないからいいものの、人がいたらただの不審者だ。だいたいここはどこだ? どこかの草原か?
『ゴブリン退治用のチュートリアル草原マップだよー』
「ほらな、やっぱりゴブリン退治させる気じゃねえか!」
『そんなことないよー。2とか3選んだ人はそこまで転送するし。ちなみにクエストは基本的にチュートリアル含めて全プレイヤー共通だけど、どのクエストもファーストクリア者にはボーナスがあるから頑張ってね!』
嬉しくねぇ〜、クリアできないクエスト提示されて、最初にクリアしたらボーナスあるよって言われてもまーったく嬉しくねえ。
クリアできなきゃチャレンジするたび薬代とかで赤字だろが。この魚、プレイヤーのこと煽る才能があるな。才能:『はねる』ってとこか。さぞ煽りになることだろう。
はぁー、一応最後の選択肢を見ておくか、どれどれ……。
3.教会墓地で幽霊退治
……マジか?