礼儀正しい子がドジるとギャップ萌えが発生する
「本堂くんって……、幽霊倒せるって、本当ですか!?」
「……ハイ?」
この子、何を言ってるのかな? ヤバイ! 誰かバラした!? いや俺誰にも言ってないぞ!? なんでバレた!?
「ゑ、タオセナゐデスよ?」
俺としたことが、テンパってとんでもないイントネーションになってしまった。
「え、た、倒せないんですか?」
七瀬さんが絶望的な表情を見せる。そんなに絶望的な表情するようなことが起こってるんだろうか? ただ、七瀬さんは俺のとんでもない誤魔化しを信じて倒せない方向に傾いてるようだ。
俺も鬼じゃない。とりあえず理由だけは聞いてみよう。
「俺のことは置いといて、なんで走って追いかけてきたのか順を追って説明してもらえるか?」
「は、はい。えっと、始まりはこの掲示板なんです」
俺は七瀬を寺の境内にあるベンチに誘導し、話を聞く。
七瀬は、俺にとある掲示板を見せてくる。そこには、狐を連れてる金髪がいたという話題に500くらいコメントがついていた。その中には、盗撮したと思われる俺の画像も。
「これ、本堂くんですよね!?」
うん、これ、俺ですね。
やっべぇ〜〜! 昨日大雅とあれだけバレないようにって示し合わせたのに、それより前にすでに撮られて拡散されてんじゃん!
「俺、ですね……」
「ですよね!? じゃあこの狐を連れてるってことはチュートリアル3、クリアしたってことですよね? ね!?」
「は、はい、クリアしました……」
「レイス、倒せるってことは幽霊倒せるんですよね!? ゴースト属性大丈夫ってことですよね!?」
七瀬から、ちょっとずつ上品さが失われていく、そしてそこに充填されていくのは、焦燥感や、必死さ。俺の服を掴む七瀬。そして。
「私のこと、助けてくれませんか……?」
最後に聞こえてきたのは、七瀬からの、SOSだった。
☆
「一ヶ月前、IIOが発売されて、すぐに買ったんです。実は私、ゲーム大好きなんです。帰宅部なのも、家でたくさんゲームする時間を確保するためで。それで、ずっと話題だったIIOを買って、すぐにレベルを上げて、最初の一週間は、第一線級、いわゆる攻略組として活動していました」
七瀬は、自分が置かれている状況を説明しだす。
「攻略は、順調でした。最初の二週間、がむしゃらに戦って、第2の街も解放して、順風満帆でした。問題は、攻略組として、第二の街、セカントリスのダンジョンに挑んでいたときでした。街ごとに一つ、攻略に関わる大きなダンジョンがあるのは知ってますか?」
「ああ、話だけで行ったことはないけどな」
「それの、セカントリスのダンジョンでを攻略してたとき、私のいたパーティは、引っかかってしまったんです。モンスターハウスに。モンスターハウスだけだったらパーティは強かったので大丈夫だったんですけど、問題は、そこで出るモンスターでした。……エルダーレイスだったんです。誰も手も足も出なくて。私、そのとき、囮にされたんですよ。他の5人に」
「なんだよ、それ」
酷い。酷すぎる。......だが、それなら死んでリスポーンすればいい。
「死んでリスポーンはしたんだろ?」
「はい、もちろん死を選びました。でも……リスポーン先は、そのモンスターハウスに繋がるダンジョンの奥深くでした。私、閉じ込められちゃったんですよ」
「えっ……」
「いろいろ、試しました。でも、あれから半月、解決策が見つからなくて。それで、今日も掲示板で解決策を探してたんです」
「そうか、それで」
「そうなんです。そのとき見たのが、この掲示板でした。……もう、これしかないんです! IIOの発売元、セレブラムコーポレーションにメールしても電話しても、『あなたは、運命を信じますか?』って文言しか返ってこないんです!」
「……でも、そこまでコケにされてまでやるゲームでもないんじゃ」
「それはそうなんですけど、ゲーマーとして、私だけこうなってるってのが悔しくて。誰も信じてくれないし。それに、あのとき私を囮にした5人! 絶対に許しません! それに……いや、それはいいです」
「そっか、それは……」
なにか、信念があるんだろうな。七瀬の必死さを見てるとそう思う。しかし、第二の街か。俺はまだ第一の街だし、とりあえずレベル上げないとどうにもならないし。
「そうなんです……だから! もうこれしかないんです! お願いします! お願いします! 本堂くんだけが頼りなんです!」
そこまで言われては、俺も世界最強退魔師のはしくれだ。助けを求める霊障被害者を守り、加害悪霊は殴って解決、それが俺、本堂新多である。
「わかった。でも、少しだけ時間をもらえるかな。そのダンジョンって、クリアするのにどれくらいレベルが必要なんだ?」
「私が挑戦したとき、まあ、レベル上げられてないので今もなんですけど、20後半で進んでいけました。なので、それだけあれば大丈夫なはずです。いつまでも、待ってますね」
七瀬がニコッと、ちょっと涙ぐみながら微笑む。不覚にもドキッとしてしまう。
全然関わりなかったのに、これがクラスの中心人物、学校の男子に大人気の七瀬結衣か、と考えてしまった。この笑顔にやられたやつは多いのだろう。
しかし、俺には通用せん。この世で一番怖いものを教えてやろう。捨て身の悪霊と、女の笑顔だ。俺はこの2つを大変警戒しているのだ。
ただ、クラスメイトが困っているのは事実。これは一肌脱がねばなるまい。
「それじゃあ、七瀬、電話番号教えてもらえる? ゲーム内で連絡取れないとどうにもならないからさ」
「……! わ、わかりました! これでひゅ!」
七瀬が、ガッツリ噛む。俺は噛みながら差し出された紙を受け取る。用意がいいな。
「舌噛んだよな? 大丈夫か?」
「噛んでないです! 噛んでないです! じゃあ私帰りますね! いつでも連絡待ってますから! ずっと待ってますから!」
「お、おう」
七瀬は必死に取り繕い、そのまま自宅まで帰っていく。……まあ、本人が噛んでないと言うのだから口癖かなんかだろう。顔も真っ赤だったけど、それも夕焼けのせいだということにしておく。
俺はそのまま七瀬の後ろ姿が小さくなるまで見送り、レベル上げをしないとなと考え、部屋にカバンを放り投げてIIO Linkへと向かった。





