奴らが来る
ジオは眠る。小さな寝息を立てながら、寝がえりを打った……
特に夢は見ていない。ぐっすりと眠っている。
寝る少年の頬をそよ風が伝う、遠くから波音が聞こえる……少し寒いくらいの朝の出来事。
母親は既に起床しており、朝ご飯の支度をしていた。
ぱりふわのパンに、しゃきじわのサラダ。昨日残ったトンボの揚げ物も追加でテーブルに置く。
「さて、ジオを起こしてご飯にしましょう」
母親が小声でそっと独り言。
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ふと、サラダにチーズを振りかけることを忘れていたことを思い出した。
サラダにかけると、ジオが喜ぶのだ。
冷蔵庫から粉チーズの瓶を取り出し……蓋を開け、スプーンで掬おうとした時だった。
母親の手が止まる。何か寒気を感じ取った。
手を止めた数秒後、脹脛から背中、頭先まで一気に寒気を感じる。嫌な感じだ。
(…………気のせいです)
認めたくなかった。母親の感じた予感は気のせいだとして、
サラダに粉チーズを振りかける。
チーズがサラダ全体にまんべんなく振りかけ終わった
--瞬間だった。
=バャァァァアリァリァリリィッィンンッ!!=
外で何かが割れるような……ガラスがぶち破られたような爆音が耳を貫く。
音が鳴り響いた後、時間差で空気がビリビリ揺れる感覚を感じる。衝撃波だ。
母親の予測が確信に変わった。
「来た…………のね…………実験の時間が」
先ほどの悪寒とは逆の方向に、今度は冷や汗がブッと流れる。
頭の先から、背中、脹脛まで一気に…………
「奴らが来るッ!!」
奴ら、そう彼らが来たのだ。
「ジオ、起きなさい!!」
母親が寝室に向かって叫んだ。
母親はジオが昨日の夜、駄々をこねて外で寝ていたことを思い出した。
冷や汗がさらにブワッと噴き出す。ジオが危ない!!
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爆音の正体。
突然だ、突然に空中にひびが入り……それは、勢いよく車の山に向かって……まるで流れ星のように衝突する。
一瞬の事……
車山に白煙が巻き上がったかと思うと……ビリビリとした衝撃波が体を圧倒する。
偶然、目が覚めた数秒後に衝突したため、ジオ少年はその瞬間を見ていた。
ベッドの中でその様子を見ていた。
「…………」
漠然とする。……今まで生きてきてこんなことはなかった。
寝起きでもあるが故に思考はほぼ停止状態に陥った。
白煙が落ち着いてくると……正体が露わになる。
「…………扉……??」
扉が車山に直撃していたのだ。
かなりの熱を帯びているらしく、扉の丸いドアノブは真っ赤になっており
直撃された車数台、半径5m内にある車は赤く溶けてぐなぐなに曲がっていた。
白くペイントされた扉には……
「Ex」
そう、書かれているがジオに理解することが出来なかった。
「ジオッ!!」
後ろに位置する小屋から母親の聞いたことのないような大声がした、
すると、小屋からエプロンの姿で飛び出してきた。
ジオを見つけると、全速力でジオに近寄りかなりの力を込めて抱きついてきた。
ジオの耳に、ハァアァアアアアっと母親の安堵の息が聞こえる。
その声を聴いたジオは、目をぱちぱちと二回瞬きをした。
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遠くの方でギギギっと音が聞こえるた。
あの、白い扉が少しだけ開いたのだ。
=ブシュョゥゥゥゥゥゥヴヴヴ!!=
扉の中から、何かが焼ける音が聞こえる。
母親はジオの体から離れると、ジオ少年の目前に立った。
「今から汽車を呼びます。ジオ、汽車が来て扉が開いたら走って乗り込みなさい」
母親が言った事、汽車に乗り込め……ジオには理解できなかったが…………
「うん」
そう小さく答えた。
母親は扉を見つめて、紙切れのようなものを人差し指と中指でつまんでいた。