第四話 背信行為
創介が不特定多数の女性と付き合えるほど器用な人間ではないということはもともと分かっていたが、互いに理解できていないところがまだまだあるのだろうなと最近思う。
彼がまだ他の人のものだった頃は、もしも彼を手に入れることができれば他には何もいらないと感じていた。
最終目的が彼に選ばれることだったのだ。
あの時の私はまだ精神的にも未熟で、創介の自分を売り込んでくるセールストークに騙されてしまったのかもしれない。
「たしかに、創介さんて最初は口が上手い爽やかくんてイメージだったかも」
苦笑いする汐里を見ながら、だから彼に過大な期待をしてしまったのかもと私は吐き捨てた。
「だからって今の生活に終止符を打とうってわけじゃないでしょ?」
当たり前じゃないと言った私は、この生活が満たされているというわけではないがと付け加えた。
「こういう難局を切り抜けたら、彼との関係がもっと密になるかもよ」
ポジティブな方向にもっていこうとしてくれている汐里に、どうだかね~と言うと、この子が生まれたら彼との溝は多少埋まるのだろうかとぼんやり考えた。
「お仕置きされちゃうんじゃない?」
私たちの関係がもし奥さんにバレたりしたらと仮定した後、私はそう言ってみた。
創介は一瞬ぎょっとした顔をしてからひきつった笑みを浮かべた。
「まさかぁ。あいつは俺がせっせと働いてればそれでいいんだよ」
浮気や不倫をしている人というのは、彼のように必死に彼女や奥さんとの間には隔たりがありますとアピールしてくるのだろうなとなんとなく思った。
子どもをせっかく授かったというのに、相手に報告することもできないなんて虚しいことだなと最近感じる。
お腹の子に対する好奇心はあるのだが、創介への関心は日々薄れてきてしまった。
子どものスポンサーになっていただいてありがとうございましたということで、この辺でお別れするべきか。
もともと彼の所有者は自分ではないし・・。
「何か最近おかしくない?」
無自覚のうちに、創介に対する態度を以前とは変えてしまっていたようで、ある日彼からそう言われてしまった。
「え、そう?」
そう返しながらも、この人は私のお腹の中の命の存在さえ知らないのだなぁと憐れな気持ちになった。
「うん、体調でも悪い?」
表面的には心配をしてくれる創介に、恐らくあなたの奥さんと同じ状況になってしまったのだけれど、と打ち明けてみたらどんな顔をするのだろうかと興味がわいた。
「そうだね、最近ちょっと疲れやすいかも・・」
私の中のもう一人の自分が、面倒なことを起こすなと警鐘を鳴らしているような気がして、適当に返事をした。
今の状態は、彼だけだけでなく、私が招いたことでもある。
「しんどい・・」
そう言いながら、頭の中で体も心もと続けている自分がいた。
悪いことはできないですね~(>_<)