第二話 事態にきちんと対峙
もう家に帰るよう促すと、創介はいつも名残惜しそうな顔をした。
けれど近頃の彼は様子が変わってきた。
「最近は病院行ってるの?」
「えっ?」
創介がもう少し用心深い性格ならば、奥さんに子供ができた際私が気付かないようにできたと思うのだが、彼はそういうことができる人ではない。
「妊活!」
まるで漫画のように目をくるくるさせて、創介はああ、それなと面倒くさそうな表情を作った。
「なんかさあ、あいつもけっこうメンタルまいってるみたいだし、もう成り行きにまかせようってことになったよ」
本当のことを話そうとしない彼に辟易しながら、私はへ~と言った。
しばらくは私のことを愛しているふりをして、子どもが生まれた後は姿を消すのだろう。
「未希といると落ち着くよ」
熱心に私をおだてるようなセリフを言ってくる。
この人は日々のストレスから逃れるために私といるのだろう。
「一夫多妻制だったらよかったのにね」
彼に依存などしていないのに困っている顔が面白くて意地悪なことを言ってしまう。
「未希の言いたいことはわかるけど・・・」
うろたえる創介を見つめながら、いや、全然と思った。
この人は私が何を考えているのかなど分かるはずがない。
自分にもこの先どうしたいのか分からないのだから。
案の定、徐々に創介の訪問が途絶え始めた頃、私の体調は悪くなった。
「油断した・・・」
毎日二日酔いのような感覚があり、胸が張ってきた。
きっとそろそろ生理かもと思い込もうともしたが、自分は生理中に胸など張ったことがない。
取り返しがつかなくなる前に病院へ行ってはっきりさせるべきだなと私は会社の近くの産婦人科へ足を運んだ。
自発的に病院へ来るのは久しぶりだなと思いながら、創介との関係をどうするべきだったのだろうと振り返った。
私から遠ざかっていく不倫相手を自分は引き止めるべきなのだろうか。
そもそもあの人の奥さんから奪って逃げるというつもりもなかった。
「その時が来たのかなぁ」
それにしても何の罪もないお腹の子は今この世に生まれて来られるか来られないかという現実に直面している。
運悪く私のお腹に来てしまったけれど、この子に未来がないのは可哀そうだ。
判断を間違ってはいけないと考えながら、診察室の中へ私はゆっくりと歩きだした。
全ての始まりです。