協力預金 5
翌日8時
信用金庫の支店前の「喫茶店ワシントン」で俺は待っていた。
坂本社長がやってきた。
坂本
「おはよう太田くん」
俺
「おはようございます、社長」
坂本
「しかし鈴木という男。抜け駆けするとは不届き者だな」
俺
「いやまだ決まった訳ではありません。私は信じております」
坂本
「しかし、まだ彼とは連絡がつかないんだろう?」
俺
「はい。今朝から何回もかけていますが相変わらず電話に出ません」
坂本
「決まりだな」
喫茶店の前からは信用金庫の正面玄関が見える。
俺たちは9時の開店の前から、要するに見張りをしてるわけである。
鈴木さんが乗ってる車はパール色のクラウン・マジェスタ。
この車が現れたら「悪事」が確定である。
9時5分前になった。
俺の祈りは届かなかった。
クラウンのマジェスティックが、ゆっくりと支店の駐車場に入っていくのが見えた。
車から降りた鈴木はおそらく、裏玄関から支店内に入っていったのであろう。
こちらからは姿が見えなかった。
万事休すだ。
裏切られた。
俺
「鈴木さんが来ました。彼のクラウンに間違いありません。すいませんでした!」
敗北感を込めて俺は坂本社長に手をついて詫びる。
坂本
「まあまあ、君が悪い訳ではない」
俺
「しかし、鈴木を紹介したのは私ですから申し訳ありませんでした」
坂本
「頭を上げなさい。それはそうと、どうする?今から押し込むか?」
俺
「いや、まずは既成事実が必要です。取引をやってる最中に行きましょう」
9時15分ごろ
俺
「もういいでしょう。そろそろいきましょう」
と言って俺は会計をすまして喫茶店を出た。
足取りが重い。
道を渡って信用金庫に入り、俺たちは2階の会議室のドアをノックした。
ドアが開いて預金担当者が顔を出す。
担当者
「あ、坂本社長様。おはよう御座います。ちようど今、口座の方に確認しましたが送金が無事終わりました。ありがとうございました」
どうやらキャッシュでの実行条件だったが振り込みに変更したらしい。
坂本
「そうですか、中に入りますよ。いいですね」
担当者
「どうぞどうぞ、こちらへ」
丁寧な対応の担当者に導かれて中に入る俺たち。
向かいのソファーに鈴木がいた。
テーブルの上には現金の4000万円が積まれている。
俺
「鈴木さん、これは一体どういう事ですか!説明してください!」
俺の顔を見た鈴木は目をパチクリさせた。
「ハトが豆鉄砲を食らった顔」という言葉を思い出した。
まさか俺が実行の現場に来ると思っていなかったのであろう、いきなりビックリしてソファーから立ち上がってうろたえている。




