現金強盗事件 7
俺のアリバイが確定して「無罪情報」は、昼休み中に各課長を通じて支店内に広まった。
「どうやら太田はシロらしい」
「松田と喫茶店でサボってたのは事実らしい」
「喫茶店のマスターがアリバイを証言したらしい」
と。
その瞬間、さっきまで疑惑の目で見ていた支店内の雰囲気が180度変わったことに気づいた。
朝は目も合わせなかった連中が笑顔で俺を迎える。
先輩たちが近づいてくる。
「俺は絶対お前は無実だと信じてたよ」
「お前がやるわけないよな」
「最初からあり得ないと思っていたよ」
「3000万くらいで人生を棒に振る奴はいないよな」
といろいろな事を言って、俺の肩を叩き詫びを入れてくる。
「えーい!お前ら、汚い手で俺に触るな!」
顔は笑っていたが俺は心の中で叫んだ。
味方認定の井崎ちゃんがニッコリ笑って親指を立ててくれた。白い歯が光る。
抱きしめたい!
話は前後するが、バブルがはじけたこの頃から俺は証券会社と、そしてその働いてる人種たちに対してある種の不信感を持っていた。
特に今回の支店長の対応には吐き気を覚えた。
俺は都合、3代の支店長に仕えたがこの3代目の支店長・上田が最低だった。
支店長の
「外車を乗り回して、夜な夜な豪遊とは君はバカか?」
の一言で俺は「人間失格」の烙印を押した。
「お前が常日頃、『服は最上級のものを着ろ』、『客先にはいい車で行け』、『毎晩客と飲まない奴は仕事を放棄しているとみなす』と言っていただろうが!」
これが俺の心中の雄叫びだ。
しかし事件が発生するや、己の保身のために部下を庇おうともせず、あまつさえ自分の命令した言葉を撤回する卑劣さに辟易した。
実はこの事件の少し前に俺は外資系の証券会社2社から面接の誘いを受けていたのである。
正直言って、それを受けるか拒否するか迷っていたところであったのであるが、この事件は俺にとって迷っている俺の肩を押すような形になった。
もしこの世の中に神様と言うものがあるのであれば、結論を出せない俺に『仕方ないなぁ。じゃぁ私の方から踏ん切りがつくような事件を用意するよ』と言うような形で事件が出来上がったような気がしてならない。
当然その後俺は面接を受けて合格した。
さて事件のその後であるが、どうやら田村と佐々木さんはデキていたらしい。
中年の男と女の不倫である。
経理部長から聞いたが、どうやら金に困っていた2人が共謀してありもしない狂言を演じたと言うところが真相であった。
中途入社の田村にとっては、毎日運んでいた3000万と言う金は魅力的に見えたのであろう。
「お前ら!強奪やるのは勝手だが、俺を巻き込むなよ!」
そしてこの事実は公にはならず社内で黙殺されてしまった。
当時の証券会社は不都合な事件や事故が発生したら、全て社内で隠蔽する体質があったから不思議ではない。
当然田村と佐々木はその後、会社を退職した事は言うまでもない。




